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稲作

「銀河のしずく」の密播苗移植栽培技術等による省力・低コスト技術の実証(岩手県 平成29年度)

背景と目標

[背景]
 盛岡管内では、高齢化等による農業従事者の減少により担い手農家への作業集中が進んでおり、より省力的な密播苗移植栽培を試行的に導入する生産者が増えてきた(H28:1経営体、H28:4経営体)ものの、当地における栽培技術は未確立である。
 一方、極良食味米新品種を普及するうえで、食味関連成分の基準を確保する必要があり、その栽培基準を遵守しつつ、より省力的な水稲の栽培技術確立が求められている。

[目標]
1 極良食味米の品質基準確保
2 密播による育苗作業の省力化・軽労化
3 直進キープ機能田植機による移植作業の省力化・軽労化
4 ドローンを用いたカメムシ・穂いもち防除の省力化・軽労化
5 PFコンバイン(※)による生産物データ取得と次年度生産計画検討への活用

PFコンバインとは、Precision Farmingコンバインの略。
ここでは食味(タンパク・水分)・収量測定機能付きコンバインを指す

対象場所

●岩手県雫石町
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 雫石町は岩手県の県庁所在地盛岡市の西方16kmにあり、北東北地方の拠点圏域である盛岡地区広域市町村圏(盛岡市、八幡平市、滝沢市、岩手郡、紫波郡の3市2町からなる地域)に包含されながら独自の自然、経済、文化、観光等の機能を分担している。
 奥羽山系の山脈に囲まれた総面積609.01平方kmの典型的な盆地に位置し、耕地はこれら山地の山麓部から、葛根田川、雫石川、南川の流域に展開している。人口は19,000人弱、農家戸数1,789戸、耕地面積6,000ha、米、野菜、花卉、乳・肉牛の大家畜に菌茸類を組み合わせた複合経営が多く見られ、農業産出額は82億1千万円。

実証した作業体系(作業名と使用機械)

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栽培基準と耕種概要

●各区の概要
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●主な栽培基準
(1)品種
銀河のしずく
(2)作型
実証区1、2 :密播苗移植栽培
慣行区1、2 :慣行苗移植栽培
(3)種子予措
種子消毒 :テクリードCフロアブル 200倍液 24時間浸漬
浸種 :10日間
催芽 :1日
(4)播種時薬剤処理
薬剤名:タチガレエースM液剤、ダコニール10000
処理量:1,000倍液を1箱当たり1L灌注

●岩手県の「銀河のしずく」栽培基準
栽植密度:60~70株/坪
植付本数:4~5本/株
田植適期:5月15日~25日
玄米タンパク質含有率:7.3%以下(玄米水分0%換算)

作業別の能率と効果

播種能率と効果
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慣行苗(左)と密播苗(右)


・実証農家の慣行播種量は、苗箱1箱当たり乾籾150g、実証区(密播)は慣行対比約167%%相当の1箱当たり250gを播種した。
・慣行苗及び密播苗とも、均一に生育し、病害等の障害の発生は確認されなかった。

移植能率と効果
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自動操舵による田植作業状況


・直進キープ機能付き田植機は、GPS(衛星利用測位システム)を利用することにより直進時の自動操舵が可能となり、移植作業者の負担感の大幅な軽減が実証された。
・田植え当日は、降雨によりラインマーカーが見えづらい状況での作業であったが、問題なく作業できた。
・自動操舵により、運転席から肥料及び苗の残量を随時確認することが可能となり、補給作業をスムーズに進めることができた。
・密播苗は、欠株もなく、良好な植付状況であった。
・密播苗移植は、慣行苗移植に比べ、苗補給回数が約2分の1に減少し、省力化が図られた。

●型式
EP8D-GS

防除 能率と効果
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ドローンによる病害虫薬剤防除

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散布後の感水紙


・精度や能率等についての問題は見られなかった。
・感水紙による散布精度の調査からも、まんべんなく散布されていたことが確認できた。散布時の水稲の草高はおおよそ90cmであったが、地表30cmの高さまで薬滴が確認できた。
・慣行防除(動力噴霧機による防除)に比べ、10a当たりの機械作業人員は2分の1(4→2名)、作業時間は約3分の1(0.06→0.02時間)に大幅削減できた。また、防除作業者の疲労感が大幅に軽減された。

●型式
クボタ マルチローター MG-1K

収穫能率と効果
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収穫作業

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モバイル端末で収穫圃場を確認


・PFコンバインによる実証区の収穫作業を行い、タンパク質含有率測定値が品質基準値以内であることを確認しながら、収穫及び乾燥調製施設への搬入作業を実施した。
・取得した生産物データは次年度生産計画検討に活用する。

●型式
ER6120(6条刈り)

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果

(1)育苗について
・実証農家の慣行播種量は、苗箱1箱当たり乾籾150g、実証区(密播)は慣行対比約167%相当の、1箱当たり250gを播種した。慣行苗及び密播苗とも、均一に生育し、病害等の障害の発生は確認されなかった。

(2)最適株数並びに株当たり植込み本数とその評価について
・㎡当たり株数及び株当たり植込み本数とも、全調査区で県栽培基準及び実証農家慣行の範囲内となり、特に問題は確認されなかった。
・移植時欠株率は全調査区で0%となり、良好な植付状況であった。

●移植状況
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(3)除草剤の効果と薬害の所見について
・全調査区において、除草効果に問題はなく、薬害も確認されなかった。

(4)生育について
・生育量や生育ステージは慣行区とほぼ同等であった。

●生育状況
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(5)病害虫防除について
・実証区の葉いもち及び初期害虫防除は、側条土中施薬機を用いて田植え同時処理を実施した。
・薬剤散布量は計画の約8割程度となったが、その後の圃場調査でも葉いもち及び初期害虫による食害の発生は見られず、防除効果に問題がないことが確認された。
・実証区の穂いもち及び斑点米カメムシ類防除(8月)は、ドローンを用いて実施した。
・散布当日、薬剤付着状況を調査した結果、稲体の下部まで十分に薬液が付着していることを確認した。その後の圃場調査でも穂いもち及びカメムシの発生は見られず、8月に低温・日照不足で推移し、いもち病の発生しやすい気象条件下、かつ、同地区の他の品種で穂いもちが多発した状況下においても、防除効果に問題がないことが確認された。

●ドローンによる省力薬剤防除の調査
h29_sys_iwate_h3.jpg h29_sys_iwate_9.jpg
※感水紙を草冠部(90cm)水平(上面)、60cm水平(上面、下面)、60cm垂直(両面)、30cm水平(上面、下面)、30cm垂直(両面)に9枚セットした調査棒を4本作成し、4地点に設置した。
水平設置の5枚/地点について薬滴の大小は問わず、視認できる滴数として調査した。感水紙(5cm×7.5cm)1枚中の調査は、達観薬滴密度に応じて任意の3枠(㎠、又は1/2㎠、又は1/4㎠)内の薬滴数を調査し、平均値(個/㎠)を各地点等の値とした。


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地点Bの感水紙。細かな点が薬滴。上表の1行目が写真2-1、5行目が2-7

(6)雑草防除について
・今回の防除体系で問題なく防除できた。

(7)収量・品質について
・実証区の収量は、慣行区をわずかに(19kg/10a、約3.5%)上回った。
・実証区の品質(検査等級)は、慣行区を1ランク(実証区:1中、慣行区:1下)上回った。
・食味関連の成分値(玄米タンパク質含有率)は、全区でほぼ同等となった。また、全製品ロットが平成29年産「銀河のしずく」出荷基準(農産物検査等級:1等、玄米タンパク質含有率:7.3%%以下(玄米水分0%換算))をクリアした。

●収量調査
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 県の目標値     :10a当たり収量 540~600kg
 実証地区の目標値  :10a当たり収量 540~600kg

●品質調査
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 ※1:坪刈玄米を測定、測定機器:ケット科学研究所 AN-820
    玄米タンパク質含有率は、水分0%で計算
 ※2:農産物検査時玄米を測定、測定機器:サタケ RCTA11A
    玄米タンパク質含有率は、水分0%で計算
 ※3:坪刈玄米を測定、測定機器:ケット科学研究所 RN-600

(8)その他 ・平成29年度は6月上旬~中旬(分げつ期)及び8月(出穂~登熟期)に低温・日照不足で推移したが、実証区は慣行区に比べ登熟歩合が2.6%程度、整粒歩合が6.1%程度、それぞれ高かった。

当該技術を導入した場合の経営的効果

 実証区の作業時間は慣行区より1.44時間/10a(約13%)削減となり、省力効果が確認された。

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 生産費は、慣行比で約1%程度削減されるとともに、単収向上による売上高増加(慣行比で約3.5%増)により、事業利益が慣行比で約14%増加することが見込まれる。

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残された課題と今後の展開

・今回実証した各技術の内容については、秋以降、管内農家からの問い合わせが増えていることから、今後、大規模経営体や「銀河のしずく」栽培者等を中心に、普及拡大に向けた取組を推進する。
・さらなる収益性向上のため、KSAS利用により取得した各種データ(作業時間・圃場情報等)の効率的有効活用を図る。


(平成29年度 中央農業改良普及センター県域普及グループ、盛岡農業改良普及センター)