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2011年10月25日
「おはようございます!」元気よくあいさつしながら、田んぼのあぜ道を歩いてくるのは、福岡市立那珂南小学校の4年生88名。「稲刈りするのも、鎌を使うのもはじめてです」という子どもたちが、期待に胸を膨らませて、福岡県朝倉市の田んぼにやってきた。
10月6日クボタeプロジェクト「クボタ元氣農業体験教室」。子どもも大人も一緒に汗を流した稲刈り体験の様子を紹介する。
まわりには川も田んぼもない小学校から
この日の農業体験は稲刈りから脱穀まで。スタッフ17名と、体験用の田んぼを貸してくださっている、地元朝倉市の(株)綾部農園 社長の綾部義春さんが、子どもたちの体験をサポートする。
開会式をしようと田んぼに整列した子どもたちが、わいわいとはしゃぎはじめた。「カエルがいっぱい!」とつかまえようとしている。「ほらほらきちんと並びなさい」と担任の先生。その様子に目を細めながら上村義明教頭は語る「小学校のまわりには田んぼもなければ、川もない。カエルもいないんですね。すべてが新鮮な体験なんだと思います」
開会式では、福岡九州クボタのスタッフもこう呼びかけた。
「慣れない作業はつらいかもしれないけど、今日はがんばってやってほしい。今はファミレスやコンビニでお金を出せばすぐおにぎりは買えるけれど、おにぎり1個分のお米ができるまではどんなに苦労があるのか少しでも体験してみてください」
それに応えて児童代表も「近くに稲や田んぼがないので、この日を楽しみにしていました。いろいろわからないことを教えてもらって、たくさんお手伝いをしたいと思っています。」とあいさつ。教頭先生も「稲刈りをがんばりながら、お米のこと、稲のこと、生き物のことなど、なんでもいい。不思議だな。面白いなと感じたことは、ぜひ学校に帰って自分で調べて見ましょう。今日はそんなテーマも一つ見つけて帰ってください」と激励した。
ほら、カエルつかまえました。かわいいでしょ
慣れない鎌に悪戦苦闘
子どもたちが稲刈りをする田んぼの前に、小さく刈り残した一角がある。鎌を使ったことのない子どもたちに、使い方を教えるために刈り残しておいたものだ。数えてみると48株。いい機会だからとこんな説明もあった。
左 :手刈りの際の、鎌の使い方を見せるために、刈り残された稲。数えると42株あった。ご飯茶碗1杯分の米が、約3株分と考えると、お茶碗12杯分。4人家族の1日分の量にあたる
右 :はじめて鎌を使う子ばかりなので、スタッフが鎌の使い方を実演してみせる
「ここには稲が42株あります。みんなが食べるお茶碗1杯が、だいたい3株分くらい。家族4人だったら、この1角で少しおかわりもして、ちょうど1日分くらいになります」
「へぇー」と子どもたちは興味津々。「こんなにあるのに、それくらいなんだ」という子も。
続いて、鎌の使い方を教えながら、その一角をスタッフが刈って見せる。
「株を逆手でもたないように。のこぎりみたいにゴリゴリしても刈れません。株をしっかりもって、そのまわりをぐるりとまわすようにして刈ってください」
いよいよ鎌を持って田んぼへ。ひとりあたり6株×3m、約100株を刈っていく。 使い慣れない鎌に顔を真っ赤にして「力が要る」という女の子。「ちょっと難しい」「だんだん慣れてきたら、早くなってきたよ」「あっ、ヤゴのぬけがら、見つけた!」
それぞれが稲の株と向かい合い、慣れない手つきながら、着実に地面が見える面積が広くなっていく。
左 :最初は、おっかなびっくり。ホントに刈れるかな
右 :どんどん地面が見えてきたよ
子どもたちをやさしく見守っているのは、田んぼの持ち主の綾部さん。この体験教室に田んぼを貸してから4年になる。他に(株)綾部農園では九州大学農学部の学生の体験受け入れも行っており、今年は、勉強に来ていた学生が、卒業と同時に農園に就職した。「研究職とか、県の職員になれと言ったんですけど、農業がやりたいと。農業の後継者不足は深刻ですが、やりがいを感じてくれる若者もいる。私ももう少しがんばって規模を拡大し、彼らがしっかり農業で生活できるように支えていきたい。今日、来た子たちが、農業をするかどうかはわかりませんが、小さな時に田んぼで汗をかく体験をしておくことは、とても大切な事だと思います」
1時間近くが過ぎ、自分の持ち場の稲を刈り終える子どもがでてきた。「先生、終わったから手伝いたい」そんな声があがり、刈り取りを終えていない子を、終わった子が自然に手伝っている。
ひとりひとりの子どもたちが刈った線が、面になり、見晴らしのよくなった田んぼに、刈り取られた稲が並んでいる。
スタッフが声をかけた「これから、脱穀といって、稲穂からもみをはずす作業をします。その前に、みんなで、落ちている穂を拾いましょう。せっかく実った稲です。大切にしてください」
「ひとり10本拾おう!」落ち穂拾いがはじまった。
左 :クボタ元氣農業体験教室のために田んぼを貸してくださっている綾部義春さん(62)
右 :大切なお米、残したらもったいない。落ち穂拾いもします
田んぼで食べるおむすびはおいしい!
脱穀(手こぎ作業)は、最新式のコンバインで行う。コンバインの構造を説明し、事故のないようにと、安全への注意をうながす。
まず始めに行った、コンバインによる刈取りのデモンストレーションでは、籾が外され、みるみるうちに粉砕されたワラを見て「稲がかわいそう…」の声も。さっきまでこの手で握って刈り取っていた稲株をいとおしく思う子どもたちの感覚なのだろう。
その後、皆で力を合わせて稲を運び、スタッフに手渡しして脱穀(手こぎ作業)。今日収穫した米(ヒノヒカリ)は後日乾燥させたあと、3合ずつ、子どもたちにプレゼントされる。子どもたちの刈り取ったお米を家族で味わうことができるのだ。
左 :脱穀は最新式のコンバインで。デモンストレーションのあと、機械の構造も見せてもらいました
右 :みんなで手分けして脱穀機(コンバイン)に運びます
待ちに待った昼食の時間は、田んぼの中で、かしわごはん(鶏飯)のおむすびと、新米の塩むすび。塩むすびは、綾部農園からの差し入れだ。1人4個配られたのに、新米のあまりのおいしさに「おかわり」の競争になった。
目の前にいる綾部のおじさんが苦労して作ったお米で、農園の皆さんが子どもたちのためを思って握ってくれた、「顔の見えるおむすび」。ワラの香り漂う田んぼの中でみんなで食べたおむすびは、最高においしい。子どもたちは皆笑顔だった。
左 :綾部農園から差し入れされた新米のおにぎり。農園の方々が心を込めて握ってくれました
右 :おにぎりのおかわりは早い者勝ち!僕もちょうだい。僕も!僕も!
昼食後の閉会式では、児童の代表がこうあいさつした。
「今日の体験では思い出が3つあります。
稲刈りをしたこと
おにぎりがおいしかったこと
お米が大切だとわかったこと
今日はありがとうございました」
この日のために、圃場の整備や、草刈り、稲刈り現場のブロック分けなど、安全に作業が出来るように準備をすすめてきた17人のスタッフも子どもたちのあいさつに顔をほころばせる。
「田んぼは気持ちいい」「楽しかったからまた来たいです」「お世話になりました。ありがとうございました」
最後は、綾部さんやスタッフとハイタッチしながら田んぼをあとにした。
みんなで汗を流し、鎌を握ったこの日のことは、きっと子どもたちの心に刻まれたことだろう。今日の晩ご飯の「いただきます」は、昨日とは少し変わっているのかもしれない。
(森千鶴子 平成23年10月6日取材)