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2008年12月 4日
温室にやってきた強い助っ人
山中 聡
高知県土佐市や芸西村などでは、ナス・ピーマンを中心とした果菜類の栽培で、多くの農家がさまざまな天敵を利用しています。少し前のことですが、ナスの葉の上に、すばやく動くアリのような昆虫が見つかりました。
高知大学で詳しく調べてみると、2.7mmほどの大きさのカメムシの一種、クロヒョウタンカスミカメで、いろいろな虫を食べていることがわかりました。中でも、タバココナジラミやミナミキイロアザミウマ、カイガラムシやハダニも食べるということで、天敵農薬として、利用の可能性が高いと評価されています。
減農薬に取り組んで殺虫剤の散布回数を少なくしたことにより、高知県では、野生にいる土着天敵が現れる頻度が高まったそうです。環境にやさしい栽培をしていると、温室にも外から強い助っ人が入ってくるようです。
クロヒョウタンカスミカメは、本州でも東北地方、関東地方、中部地方など、日本の広い地域に生息していることが、私たちと高知大学の共同研究でわかりました。
また、日本だけでなく、アジア大陸の中国、フィリピン、マレーシア、インド、スリランカ、インドネシアなどの国、特に東南アジアを中心に分布していることもわかっており、一般的な天敵昆虫といえるでしょう。
写真を見てください。クロヒョウタンカスミカメはアリに似ていると思いませんか。
生き残るために、他者とよく似た形態をとる生物がいますが、クロヒョウタンカスミカメがアリに似ているのも、生存戦略の一つではないでしょうか。
生物的に言うと、アリは完全変態(幼虫→蛹→成虫)で成長します。一方、カメムシたちは、幼虫から蛹を経ないで成虫になるので、不完全変態(蛹の時期がない)です。また、カメムシは、ストローのような口で栄養分を吸って生きていますが、これもアリとは違っています。
現在市販されている天敵昆虫で、カメムシ類に属するのは、特にアザミウマ類の捕食性に優れたタイリクヒメハナカメムシです。将来、クロヒョウタンカスミカメが天敵として利用されるようになれば、アザミウマ類だけでなく、作物に付くいろいろな害虫の密度を下げられる可能性が出てくる、と考えています。
アザミウマを捕食しているクロヒョウタンカスミカメ (提供 :高知大学 荒川教授)
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)
東京生まれ、横浜育ち。農学博士。
農薬メーカー研究所にて各種生物農薬の研究開発に従事。
現在、アリスタライフサイエンス(株) IPM推進本部 開発部長