農業のポータルサイト みんなの農業広場

MENU

日本の「食」は安すぎる 【3】

2009年10月26日

不況と内食文化への回帰

                農産物流通・ITコンサルタント 山本謙治


 前回のコラムから半年も経ってしまって、大変失礼しました、、、おまけに、その間にまた食を巡る環境は一段と悪くなった。筆者は年間100日以上の出張をしているけれども、どこへいっても食品関連事業者からいい話を聞かない。世界的な不況の波は日本にも大きな影響を及ぼしているが、消費者は、なぜかまっさきに食費を切り詰めるのだ。飲食店は軒並み売上ダウン、調子がいいのは安売り店だけといっても過言ではないだろう。


 そんな中、ちょっとした動きが筆者の興味を引いている。それは消費者の内食回帰だ。外食をするとお金がかかる。素材を買って家で作る方が安く済むという当たり前のことに、ようやく消費者が目覚めてきている。

 家で作るご馳走レシピの本が売れるようになり、オフィスでもお弁当を広げる姿が増えている。これ、実はユーロが高騰していたころのEU圏でもみられていたことだそうだ。フランスやイタリアなどでは、ユーロ高で旅行者が大変だったが、それは住民にとっても同じこと。外食を控えて、家でおしゃれにご飯を作るためのレシピ本が売れるようになったらしい。今回の日本は不況が引き金だが、理由はどうあれ内食文化への回帰はいいことだ。


 筆者は消費者が外食・中食へと向かえば向かうほど、農畜産物の未来は暗くなると考えている。なぜだかお分かりだろうか? それは、スーパーや百貨店などの小売店頭で農畜産物が売れなくなるからだ。

 小売店頭に並ぶ商品は、見た目が綺麗で大きさの揃う、いわゆるA品だ。形が悪かったり不揃いなものはB品、C品として一般より安値がつき、それなりの取引先へと渡る。野菜や果物は天候次第で品質が簡単に変わってしまうし、さまざまなレベルのものができてしまうから、どうしてもA品からC品までを売り切らなければ生きていけない。では、この幅のある商品の中で最も高く売れるのはどれか? もちろんA品だ。A品が価格を引っ張ってくれない限り、産地は生きていけない。

 しかし、、、消費者が家で料理をする内食を放棄して、外食・中食で食事をすませてしまうようになると、どうなるだろう? A品が全く売れなくなってしまう。いや、今すでにそうなっている。そうなるとA品の価格は安くなり、ABC品全てを合わせても、満足な売上を得ることができない。つまり、内食文化は農畜産物にとって守るべきものなのである。


 だから、どんな理由であれ、内食文化に回帰する流れがもっと進んで欲しい。最も、不況で値下げ圧力も強くなっているのは問題なのだが、、、そして、もう一つ解消しなければならない問題がある。それは、消費者の料理技術自体が低レベル化しているということだ。(つづく)


※右上画像は、フリー素材屋Hoshino様からお借りしました

やまもと けんじ

株式会社グッドテーブルズ代表取締役・農産物流通コンサルタント。
一次産品の商品開発のアドバイザーをする傍ら、全国の郷土食を食べ歩いている。「週刊フライデー」、「きょうの料理」、「やさい畑」などに連載を持ち、著書に「激安食品の落とし穴」(KADOKAWA)「日本の食は安すぎる」(講談社)、「実践農産物トレーサビリティ」(誠文堂新光社)などがある。ブログ「やまけんの出張食い倒れ日記」も人気が高い。

「2009年10月」に戻る

ソーシャルメディア