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2022年6月22日
産業化進む日本農業
ジャーナリスト 村田 泰夫
「規模が小さくて競争力がなく、農家は貧しい」。日本農業に対する国民のこんなイメージが、まだ根強いのではないだろうか。農家もさまざまだから、「零細で貧しい」事例もある。でも、「零細・小規模」といった印象が強かった日本農業も、やっと「産業」といえるような状態に進展しつつある。
そんな分析結果が、2022年5月に公表された「令和3(2021)年度食料・農業・農村白書」(いわゆる農業白書)に載っている。
近年の白書は、前年に起きたことにからむトピックスに重点が置かれ、読みやすく親しみやすくなった。その半面、経済的な分析がもの足りなかった。しかし、今年の白書は、例年通りトピックスに力を割いているものの、特集で「変化(シフト)する我が国の農業構造」を取り上げ、日本農業の現状分析に挑戦しているところに特徴がある。日本農業の現在位置を知るうえで参考になる。
白書の特集では、人(担い手)、経営規模、農業所得ごとに日本農業の現状を分析し、一言でいえば「大規模化、高収益産業化」している実態を明らかにしている。
まず、人(担い手)である。ふだんの仕事として農業に従事している「基幹的農業従事者」は、ずっと減り続けていて、2020年は136万人になった。5年前と比べて394万人(22%)も減った。しかも、65歳以上が70%(95万人)を占め、49歳以下の若年層はわずか11%(15万人)しかいない。しかしながら、70歳以上の高齢者層の減少率が大きい半面、20~49歳の若年・壮年層が5年前の12.4万人から20年は14.7万人に増えていることが救いである。
また、農業経営体の数も減少傾向にあり、20年は108万経営体で、うち96%が個人経営体。経営形態別の耕地面積の割合は、主業経営体(いわば専業)と法人経営体の合計で増えている。数はまだ少ないが、すべての経営形態で法人経営体が増えている。とくに畜産部門で著しく、採卵鶏や養豚では法人経営体の割合が9割を占めている。一方、中山間地域の割合の高い中四国地方では副業的経営体(いわば第2種兼業農家)の割合が半分を占めており、65歳以上の農業従事者が地域の農業を維持するうえで大きな役割を果たしている。
次に経営規模だ。わが国の農地面積は緩やかだが減り続けている。とくに、首都圏や西日本で目立つ。だが、農地の減り方より担い手の減り方のほうが大きいことを反映し、1経営体当たりの経営耕地面積は、拡大傾向にある。20年の1経営体当たりの耕地面積は3.1ha(うち、所有耕地1.9ha、借入耕地1.2ha)と、5年前の2.5ha(所有地1.7ha、借入0.9ha)より0.6ha増えた。
経営規模別に見ると、0.5~1.0ha層で経営体の数が大きく減ったのに対し、10ha以上層で経営体数が増えている。要するに、経営規模の拡大が着実に進んでいるのだ。農業従事者や農家の数が減って、その耕地が規模の大きな経営体に集約されつつあることを示している。農業従事者が減っていること自体は必ずしも悲観することではなく、規模拡大という構造改革が進んでいるともいえよう。
最も大切な農業所得はどうなっているのだろう。販売金額別の経営体数は、小さい階層で減少傾向にあるのに対し、農産物の販売金額が3000万円以上の階層では増加傾向にある。とくに稲作や野菜などの耕種部門で増えているが、畜産部門では5000万円以上層での増加が目立つ。20年の3000万円以上の経営体数は4万1100で、5年前の3万5300より大きく増えた。
20年の主業経営体の農業粗収益は1994万円と、前年より増えたが、荷造り運搬費などのコストが増えたため、農業所得は415万円と前年の419万円よりわずかだが減った。経営門別に見ると、稲作が279万円、露地野菜が418万円、酪農が774万円、養豚が2501万円だった。
法人経営体の農業粗収益は、1億円を超えている。20年の1経営体当たりの農業粗収益は1億1101万円となった。ただ、さまざまなコストが上がっていることから農業経営費は1億778万円にのぼり、農業所得は323万円にとどまった。
これらのことから、白書は「今後に向けて」として、いくつかの課題を挙げている。まず、「わが国農業の持続的発展には、若年従事者の確保・定着が必要としている」。その通りだが、収益性の高い畜産や野菜部門には若年層の流入が見られるように、「もうかる産業」に農業の魅力度を高めれば、おのずと若年層は参入してくるであろう。
また、「大規模層ほど農業所得が大きくなっているので、法人化・規模拡大が今後とも重要」としたうえで、「地域農業を維持する観点から、65歳以上層の農業従事者の果たす役割が大きい」としている。食料の安定供給には大規模化による日本農業の「成長産業化」が不可欠だが、中山間地域など農山村の維持には高齢者や半農半Xなど多様な人材が不可欠との認識を示したのであろう。(2022年6月20日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。