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2011年8月18日
農村の女性はどこへ消えたのか
ジャーナリスト 村田 泰夫
「日本の農業は女性でもっているようなもの」というのが、これまでの常識だった。農業就業人口のざっと6割が女性だったからである。それがだんだん減ってきて、2005年の調査では53%となり、少し気がかりとなっていた。そして、2010年の調査で、農業就業人口に占める女性の割合がついに5割を切ってしまった。農家のお母さんたちはどこへ消えてしまったのだろうか。
5年に一度、大規模におこなわれる農水省の統計調査である「農林業センサス」で、「消えた女性」がちょっとした話題になっている。センサスによると、5年前の05年では、販売農家の農業就業人口335万3千人のうち、女性は178万8千人で53.3%だった。それが今回の10年の調査では、就業人口260万6千人(5年前比22.3%減)のうち、女性は5年前より27.3%も減って130万人になってしまった。総就業人口に占める割合も49.9%だった。年齢別では、比較的若い30~40歳代の女性の「農業離れ」が目立っている。
なぜなのだろうか。農水省には非公式ながら、さまざまな情報が寄せられている。「最近の農家の嫁は、農作業には出ないで、優雅に生活を楽しんでいる」「これまでは、とくに小規模の稲作は女性の労働で支えられてきたが、いまは集落営農化が進んで、女性が野良仕事に出ないですむようになった」「稲作農業の省力化のための機械化がさらに進んで、女性の出番が減った」――だが、なるほどという説得力のある説明とはいえない。きちんとした調査が必要であろう。
農村から女性が減っているのだろうか。そんなことはないように思う。印象でしかないが、農村地域を訪れてみると、むしろ、元気な女性たちの活躍が目立つ。統計調査に死角があるのではないかと、私は思う。「農業就業人口」とは「自営農業に従事した世帯員のうち、自営農業のみに従事もしくは自営農業従事が主の者」と定義され、自営農業ではない集落の農産加工などの仕事に携わった者は、農業就業人口から外れてしまう。
農山村では、いま6次産業化が進んでいる。農産物を生産する(第1次産業)だけではなく、集落ぐるみでグループをつくって農産物を加工したり(第2次産業)、みずから「道の駅」や直売所で消費者に販売したり(第3次産業)することである。2010年センサスによれば、農業生産関連事業のうち、農産物加工は3万4172経営体で、5年前より42.9%も増えた。観光農園は8768、貸農園・体験農園は5840、農家民宿は2006、農家レストランは1248である。産地の直売所の数も1万6829カ所と、5年前より24.3%も増えた。
農産物という食材の供給者にとどまらず、みずから加工、販売に乗り出すことで、付加価値を付けることができ、地域の活性化にも役立つ。そうした6次産業化の主な担い手は、農家の女性たちである。
でも、現在の統計では、自営農業に携わらず、6次産業に携わる元気な女性たちは「農業就業人口」にはカウントされない。畑で畝を耕したり、田んぼで草取りなどをしなくなったが、地域の加工所や直売所で忙しく切り盛りしている農家の女性が、統計調査の上では「消えてしまった」のである。農水省の担当者も、そうした女性らは「食品加工業の従事者」や「流通販売業の従事者」と見なされ、農業統計から外れてしまうことを認めている。
食材の供給という狭い意味の農業から、加工、販売を含めた地域経済の担い手として、広い意味の農業を農政の対象としている以上、農村の女性の動向がわかる本格的な調査が待たれる。(2011年8月12日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。