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2010年7月20日
民主党農政の先行きに暗雲?
ジャーナリスト 村田 泰夫
7月中旬の参院選の結果が波紋を広げている。民主党が負けたため、与党・民主党の提出する法案が1本も成立しない可能性が出てきたからだ。衆院は与党が過半数、参院は野党が過半数で、与党提出の法案が参院で否決されてしまうと、政権運営はたちまち行き詰ってしまうのだ。民主党農政の先行きに、にわかに暗雲がたれこめてきた感じだ。
今回の参院選の勝敗を決定づけたのは、地方の「1人区」での結果である。全国に29ある1人区で、与党・民主党と野党・自民党との間で一騎打ちが繰り広げられた(沖縄選挙区は、普天間基地問題の余波で民主党は不戦敗)が、民主党の8勝20敗となった。3年前の参院選では与党・民主党の23勝6敗の大勝で、今日の政権交代の道筋をつけた結果であったことを記憶している方も多いはずだ。
1人区といえば、地方の選挙区であることから、農民票のゆくえが影響するといわれる。3年前の参院選では、民主党の掲げる「戸別所得補償制度」が、当時の政権の農政の柱であった「品目横断的経営所得対策」を打ち負かした結果だといわれた。今回の選挙では、「戸別所得補償制度の廃止」を掲げる自民党と「みんなの党」が勝っているから、戸別所得補償制度が否定されたと理解すべきなのだろうか。
選挙結果をそう分析することも可能だが、実際に稲作農家を声を拾ってみると、戸別所得補償制度に対する反応はおおむね好意的で、「けしからん」という声は少ない。農協を代表とする農業団体も「戸別所得補償制度の拡充」を掲げていて、今回の参院選で民主党農政の目玉である戸別所得補償制度を、なにがなんでも葬り去るのだという立場はとっていなかった。民主党敗北の主因は、選挙寸前になって菅直人・首相がいきなり持ち出した「消費税」にあるとの見方が多い。
いずれにしても、国会で法案が通らないとすると、民主党農政の目玉である戸別所得補償制度の本格実施ができなくなる可能性が出てきた。これは由々しきことである。今年度は米を対象にモデル事業が実施されたが、「来年度は畑作物や畜産・酪農、水産、林業にも広げる」つもりだったから、その本格実施ができなくなるとすると、農林漁業者の受ける打撃は大きい。
「本格実施」に移行するといわれる戸別所得補償制度の来年度の制度設計は明らかになっていないので、現時点では推測でしかないが、予算規模でいえば、今年度の6000億円弱から1兆円程度に増えるといわれていたから、かなり拡充されるはずだった。たとえば、米については経営規模や品質、環境保全への取り組みに対して交付金が加算されるとか、麦や大豆など畑作物に対する直接支払額が上積みされ、主食用米を作るより麦・大豆を作った方が有利になることを実感できるようになるはずだった。
野菜や果樹、畜産などについては、「恒常的に赤字体質ではない」として、米と同じような方式はとらないが、一定の価格水準を下回る状態になったときに、価格下落分を補填する「収入保険」のような仕組みを導入できないか検討してきた、といわれる。
これらの新しい政策を実行するには、法改正や新法の制定が必要なものもある。自民党をはじめとする野党が「いじわる」すれば、戸別所得補償制度の本格実施は日の目を見ないことになる。法改正を必要としない範囲にとどめるか、あるいは、野党の主張を大幅に取り入れて修正するのか。いずれにしても、菅直人政権の政策選択の幅は狭くなる。(2010年7月20日)
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。