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2008年12月17日
鳥取スイカの中東輸出
明治大学客員教授 村田 泰夫
鳥取中央農協が平成20年、中東のアラブ首長国連邦(UAE)のドバイに「鳥取スイカ」を輸出し、農業界でちょっとした話題になった。12キログラムの大玉で糖度の高い良品とはいえ、日本円に換算して1玉3万5千円もの超高値で20玉を完売したというので、驚きをもって受け止められたのだ。
農産物の輸出に力を入れている農水省は、現在4千億円程度の年間輸出額を、平成25年度には1兆円の大台に乗せようと躍起になっている。
ネックは価格だ。日本産の農産物、とくにリンゴ、ナシなどの果物は、味や形など品質面では他国の追随を許さない「芸術品」であっても、価格だけで比べられると、海外産と太刀打ちできない。その弱点である価格面での壁を乗り越えられるなら、日本産農産物の輸出倍増も夢ではない。今回の鳥取スイカの輸出「成功」は、そうした視点から関係者の注目を浴びたのだ。
当事者の鳥取中央農協の担当者から話を聞く機会があった。日本の栽培技術の粋を集めてつくった鳥取スイカを試食してもらい、「世界一」のスイカであるとの評価をしてもらいたくて、今回のドバイでの試食販売を実施したという。
平成20年6月18日から10日間、ドバイ市内のショッピング・センター内のスーパーの売場で試食してもらったところ、つまんだ全員が「すごく甘い」「おいしい」と喜んでくれた。普段、ドバイ市内のスーパーで売られているスイカは、1玉8キロぐらいのイラン産であることが多く、甘みはいまひとつ。値段は1玉500円から1500円ぐらい。
売場で話題となったのは、やはり値段。今回の試験販売で1玉3万5千円もの超高値になったのは、飛行機で空輸したためだという。輸送費だけで1玉1万2千円もかかった。ドバイ市民の所得水準を考えると、「いくら高くとも、1玉1万円から、せいぜい2万円止まりではないか」という相場観を担当者は抱いた。
次年度以降の取り組みについて、鳥取中央農協の坂根国之組合長は「好評だったので続けていきたい」と意欲を示す。それには、価格を抑える必要があることから、輸送を船便にすることなどを検討するという。
今回のスイカ試食販売には副産物もあった。UAEは砂漠の国で、国内に農地はない。もちろん、農産物をはじめ食料のすべてを輸入でまかなっている。そのため、ドバイ市民は農産物が輸出国でどのようにつくられているか関心を抱いているが、とくに安全で安心できる日本産への信頼がものすごく厚い。そのことを知っただけでも、現地に出向いた価値があった。スイカとともに持参した鳥取産のお米やラッキョウ、漬物なども好評だった。
また、現地のバイヤーからは、市民に新鮮な野菜を求める声が強いことから、野菜工場方式で葉物をUAE国内で栽培する技術を日本から導入できないか打診を受けたという。日本の食材への関心が高いことは喜ばしい。バブルに浮かれた中東産油国に、「ためしにスイカを輸出してみただけの話」に終わらせてはもったいない。(08年12月16日)
※文中の右上の画像は、EyesPic様よりお借りしました。
朝日新聞記者として経済政策や農業問題を担当後、論説委員、編集委員。定年退職後、農林漁業金融公庫理事、明治大学客員教授(農学部食料環境政策学科)を歴任。現在は「農」と「食」と「環境」問題に取り組むジャーナリスト。