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2008年5月22日
第7回 中国で大地震発生! 四川の農業は!?
森 路未央
5月12日午後、中国・四川省で大地震が発生した。
震源地は四川省アバ・チベット族チャン族自治州汶川県で、四川省省都の成都市から、北西に直線距離で約92キロ離れた、山岳部の少数民族地区である。
地震の規模はマグニチュード8.0で、阪神淡路大震災のM7.3よりも大きい。
人的被害は阪神淡路大震災を上回り、建物の倒壊・損壊、ダムや湖の堤防の決壊、感染症蔓延の恐れもある。人命の救助が最優先だが、住居や食料などの確保も大きな課題となっている。
震源地・汶川県があるアバ・チベット族チャン族自治州を中心に、今回の大地震で甚大な被害を受けた地域は、成都市を除くと、“川北地区”と呼ばれる四川省北部山岳地域である。
ここの主要産業は農業で、被災地住民が今後収入を得る手段として、農業の復興はとても重要だ。
汶川県の2007年の農民1人あたり平均純収入は2,790元。全国平均の4,140元、および隣県(市)の德陽市4,540元、綿陽市4,039元よりも低く、農業が復興しなければ収入が得られない。
中国・農業部の危朝安副部長は、5月17日、「四川大地震は、被災地の四川農業に約18.38億元という巨大な損失を与えた。約50万ムー(約33,350ha:1ムー=6.67a)の農地、家畜・家禽1,250万頭・羽が死亡、養殖魚8,000トンが死亡などの影響が生じている」と発表した。
画像 右:中国チベット族農家の自宅(1階が豚小屋で2階が住居) 雲南省にて撮影(筆者)
四川省の農業生産量が国内第1位の品目は、水稲、麦、綿花、綿糸、油菜粕、茶、柑橘類などである。昨年秋から今年にかけておきた冷害により、秋まき春収穫作物の単収と品質に影響がでていた最中に今回の大地震が発生した。しかも、ちょうど穀物収穫・作付の時期だった。
“川北地区”では、ちょうど秋蒔き春収穫(中国語で“大春作物”と呼ばれる)の小麦、油菜、馬鈴薯の収穫期であった。適正期に収穫できないなどの影響が生じている。
徳陽市では、小麦の収穫面積36.7万ムーの約30%、綿竹市においては5%しか収穫作業を終えていない。油菜は小麦よりも収穫面積比率が高いが、それでも65%の収穫率という(※1)。
“川北地区”では、“大春作物”収穫後、時間を置かずに水稲、トウモロコシを作付けするが、“大春作物”の収穫が終えていない状況では、水稲やトウモロコシが作付できない。また、棚田や灌漑の決壊があったり、農業者が被災地から避難し田植え管理ができないところもあり、生産資材の供給も滞っている。
画像 左:中国の貧困地域の農家 広西壮族自治区にて撮影(筆者)
地元政府の農業部門では、農業生産の停滞を懸念し、農薬・農機具など生産資材の提供、生産基盤の修復、灌漑決壊地域における水稲作付から大豆、さつまいもへの作付転換の推奨措置を行っている。(※2)
また、四川省は飼料製造企業(新希望、通威、華西希望など)が集積する地域なので、今後、飼料原料の減産、飼料運搬交通網の決壊による、飼料価格の高騰が予測されている。
四川省の農業といえば、豚が有名だ。
中国の生豚の飼養頭数は世界の約5割を占め、中でも四川省は中国の約12.3%で中国で第1位である(06年)。飼養頭数以外でも、四川省の生豚出荷頭数は9,425万頭、豚肉生産量1,030.2万トンで第1位である。
画像 右:中国の農家が飼養する豚 広西壮族自治区にて撮影(筆者)
中国ではここ数年、食品の物価が上がり、豚肉価格も高騰していたものの、やや回復基調にあった。四川大地震の影響はどうか。
統計では、主な被災地である4地域(德陽市、綿陽市、広元市、アバ・チベット族チャン族自治州)の生豚飼養頭数の合計は921.4万頭で、四川省全体の15.2%、豚肉生産量の合計は105.8トンで四川省全体の約1割にすぎない。(※3)そのため、中国国内では影響は少ないという予測が出ている。
ただし、生豚の飼養は農家毎に小規模に行われているし、飼料価格の高騰が予想されるなど、農家経済にとって、養豚を中心とした畜産業の復興は極めて重要な課題だ。
四川大地震が農業に与える影響は大きい。被災地復興、農家経済の回復のためにも、農業の復興は極めて重要だ。
※1 徳陽市政府発表
※2 四川省農業庁の任永昌庁長、四川農業大学と四川省農業技術普及ステーションの発表
※3 中国政府は今回の地震で79万2,800頭の豚が死んだと発表した
(※画像をクリックすると大きく表示されます)
【去看説听味】
中国語で「去」は日本語の「行く」、「看」は「見る」、「説」は「話す」、「听」は「聞く」、「味」は「味わう」を表します。
1973年生まれ。東京農業大学大学院博士後期課程修了・博士(農業経済学)。
2001~2004年、日本学術振興会PD特別研究員(この間に1年半、中国農業大学経済管理学院訪問学者として北京市に滞在)。
2004~2006年、在広州日本国総領事館専門調査員(華南地域の経済担当)。
2006年4月から独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)輸出促進・農水産部農水産調査課職員。
専門は中国の農業と農村部の経済問題。