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2022年6月28日
山菜園(その2)
「雨後の竹の子」の例えのとおり、雨上がり後には竹の子の生育が急激に進む。わが家の山菜園のネマガリダケと孟宗畑でも、そのような光景が見られるシーズンになった。
ウドは放任状態で、長い期間植栽を続けている。品種は不明だが、生育の違いから、白系と紫系の2系統の品種が混じっている。栽培管理はほとんどせず、もちろん施肥もしていないが、毎年決まったように萌芽がある。収穫時は、株あたり茎を2、3本残すようにしている。これを「自生地栽培」(ほとんど肥培管理しないで維持する方法)と称することにしている。
わが家では、萌芽直後の若芽のものをサラダや酢の物にすることもあるが、大半は塩蔵用として、50cm以上伸長した茎を収穫の対象にしている。「若過ぎる茎は塩蔵には適さない」というのが妻の持論である。収穫しながら、「肥料もやらないのにウドの大木のようだ。これいかに」と、ひとりごとを言っていると、案の定、「意味が違うような気がする」と、妻の声が背中から響いてきた。
ギョウジャニンニクは、普及員だった頃に、おさらい(練習?)用として栽培を始めた山菜だ。種子繁殖から栽培を始め、促成栽培の練習台にしたこともあった。次第に肥培管理をしなくなって、現在に至っている。「昔はよく話を聞いたけれど、最近は、ギョウジャニンニクへの愛情が薄れたみたい」が、妻の感想である。「ほとんど管理していない自生地栽培だ。自然栽培ということもできる」と説明することもある。
連年で株を維持するには、雑草対策がポイントで、「休眠期の草刈りの工夫次第では、ギョウジャニンニクを上手に維持することができる」が、最近になって到達した結論だ。それでも時々は、背の高い雑草を拾い草する必要がある。雑草のスギナはなくすことができないが、ギョウジャニンニクはスギナより萌芽が早く、スギナが旺盛に繁茂する初夏の頃には休眠期に入っていくことから、「共存した状態」と呼んでいる。
現在、家庭菜園にしては広い面積が自生地(優占種)様になっている。収穫は間引き程度で、炒め物や薬味、天ぷらにしている。わが家では希少価値の低い山菜になっているが、ホームセンターなどの販売店では、ポリポットに2、3球植えられたものが、結構な高値で販売されているのを見かけることがある。「世の中では、まだまだ高級山菜なのだ」と実感し、少しだけ、ギョウジャニンニクへの愛情が復活するのだった。
「山菜は財産形成と同じく、持つ者と持たざる者の差は絶対的だ。だから、増殖が比較的難しい山菜栽培の成否がポイントだ」と、ギョウジャニンニクを引き合いにして普及活動していた頃があった。県職員を退職してから、ヘクタール単位の広大な面積で株養成している農業者がいることを知った。「これで盤石な出荷計画ができる」と、私が話すと、「山菜栽培の成否は株養成にある、という先生(普及員だった私のこと)の話を信じたからだ」と、返すのだった。山菜類は株養成期間が長く、種苗が満足に流通していないことから、農業者のモチベーションを高めようとしたのだった。
ウルイは、栽培山菜の種類拡大の普及活動をしていたころに植栽した山菜だ。同じ呼び名でも、山形県で促成山菜として産地化しているものとは異種の山菜である。ただし、山どころでは、オオバギボウシを"ウルイ"と称していて、山どころの育ちだった自分は、このことを相当意識していた。
わが家で植栽しているものは、種子繁殖したもので、普及員だった頃、新しい活用の山菜(食用花ウルイ)として育てる計画で採種したが、産地化は夢破れてしまった山菜でもある。
オオバギボウシは50~90cmと草丈が高く、自生地では優占種になっているケースが多い。そのため、除草作業などの煩雑な栽培管理を必要としないところが魅力だった。連年で生育していればこその話だが、雑草に負けないところは間違いがなく、刈り取っても刈り取っても茎葉はたちどころに再生するという、「優れモノの山菜」と評価している。促成用として産地化している種(コバギボウシ)のウルイは、株養養成期(生育期)の雑草対策で苦慮している農業者の様子を見ると、栽培面では、草丈の違いが実に大きく影響するであろうことが実感できる。「オオバギボウシが促成用として利用できれば」と思ったりするが、それは現在流通している促成物のスタイルからすれば、品質面では物足りない。自生地から促成に適した種として見抜いた農業者の見立てに感嘆する瞬間でもある。
ウルイの属するギボウシ属は、グランドカバープランツとして活用されることがあるぐらい、強健な植物でもあり、鑑賞用として植栽されている種も多い。わが家だけではなく、地区の家の庭には、数種類のギボウシが来歴不明で植えられている。わが家の場合は、ほぼ管理不要な植物になっている。
野ブキはかつて、加工適性が高い「京ブキ」を栽培したことがある。現在、山菜園に栽培しているのは、わが家の庭で偶然繁殖した系統だ。ある時、鑑賞用ギボウシの株に雑草として生えていたフキが、ギボウシを凌駕するぐらいに生育が旺盛だったため、妻が引き抜いていたことがあった。形状が良く、食味も良かったことから、「野ブキとして増殖するのに十分ではないか」と意見が一致して、現在に至っている。この野ブキは、少なくとも鑑賞用ギボウシより生育が旺盛で、草丈が高いオオバギボウシよりは草勢が弱いように思う。もちろん、フキの仲間では、1m以上に草丈が伸長する秋田大ブキが最強な山菜なのは間違いがない。秋田大ブキより草勢が勝る雑草を見出していないからでもある。
山菜の自生地栽培では、遮光(日よけ)の程度と、草刈りや拾い草を含めた雑草対策が栽培管理のポイントになる種類が多い。ここ数年は、自生地栽培を考える上で、実りの多い事例が多かった。残念ながら、普及員をやっていた頃は自生地栽培の概念を整理することはできなかった。「コストをかけずに栽培したい」と考えるいまだからこその発想で、普及員当時の自分にとっては、逆立ちしてもこの発想に至ることはできなかったと思う。「コスト以前の課題として、きちんとした栽培管理は、すべての山菜栽培の前提だ」と、農業者に機会があるごとに持論を伝えていたからでもある。
●写真上から
・自生地栽培のウルイ(オオバギボウシ、手前)とウド(奥)
・収穫期のギョウジャニンニク(自生地栽培)
・開花期になるとスギナと共存状態になるギョウジャニンニク(自生地栽培)
昭和30年山形県金山町の農山村生まれ、同地域育ちで在住。昭和53年山形県入庁、最上総合支庁長、農林水産部技術戦略監、同生産技術課長等を歴任。普及員や研究員として野菜、山菜、花きの産地育成と研究開発の他、米政策や農業、内水面、林業振興業務等の行政に従事。平成28年3月退職。公益財団法人やまがた農業支援センター副理事長(平成28年4月~令和5年3月)、泉田川土地改良区理事長(平成31年4月~現在)。主な著書に「クサソテツ」、「野ブキ・フキノトウ」(ともに農文協)等。