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農業経営者の横顔



「たまごで人を幸せに」一点の曇りもない経営の実践

2025年10月31日

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市田眞澄さん (愛知県常滑市 株式会社デイリーファーム)


 先々代が大正時代に養鶏業を開始してから約100年。現代表の市田眞澄さんが平成6年に法人化した株式会社デイリーファームでは現在、採卵鶏16万羽を飼養し、年間約2800tの鶏卵を生産している。六次産業化にも取り組み、洋菓子店、レストラン、ベーカリーを経営。メディアにも度々取り上げられる人気スポットだ。従業員数は年々増えて、今や120名の大所帯。「ISO22000:2005」「JGAP」を取得して売り上げは右肩上がりで、数々の受賞歴もある。
 そうした実績から、華やかな成功者のイメージが浮かび上がるが、市田さん自身は「見えない所まで徹底して努力をしていく」「ともに汗を流す社員が誇れる会社作り」「お客様に嘘をつかない会社でありたい」という信念を貫き、勤勉、謙虚、誠実という言葉がぴったり当てはまる経営者である。


獣医としてのたまご作り
202511_daily_f_2.jpg 市田さんは獣医師の顔も持っており、過去に病院を開き、動物たちの治療を行ってきた。その中で、動物自身が持つ回復力と、その体を作っているのは食べ物であるという「You are what you eat(あなたは、あなたの食べ物でできている)」を痛感。より良いたまごを作るためには、母鶏の体を健康に保ち、その体を作る飼料を吟味する必要があると考えた。そのため、コストは上がるが、遺伝子組換えでない飼料を採用し、抗生物質を使わない育て方を実践している。それが、獣医としてのたまご作りなのである。
 また、普及指導員との連携により、地元の水稲農家が生産した飼料用米をエサに利用することで、工程が見える安全安心なたまごの生産を実現。鶏糞からできた堆肥を水稲農家に供給する循環型農業の取り組みも行い、飼料用米の栽培には休耕田を活用することで、地域の活性化にも寄与している。
右 :たまごを存分に味わえる「ココテラスの丘」


価格で評価されることへのジレンマ
 こだわりの自社ブランドのたまごだが、量販店に並ぶと差別化が難しい。結局は価格で評価されてしまうことに、市田さんはジレンマを感じていた。
 「もっと訴求する方法はないだろうか」「価格ではなく、内容で選んでもらうにはどうしたらいいのだろうか」
 そこで平成27年、取れたてたまごの洋菓子店「ココテラス」を開店。プリン、シュークリーム、カステラなど、たまごのおいしさが際立つ洋菓子を販売することで訴求力を高めようと考えた。特に人気の「たまごいっぱいプリン」は、卵、牛乳、砂糖、バニラ以外は一切使用していないシンプルなおいしさで、一日1000個売れることも。
 このプリンを生み出したのは、専務であり息子の市田旭宏さんだ。旭宏さんは当時、県外で獣医として活躍していたが、家業を継ぐため常滑に戻り、ココテラス開業にあたり、洋菓子店で修業したという筋金入りだ。


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左 :取れたてたまごのスイーツが並ぶ「ココテラス」
右 :令和5年度農林水産祭の多角化経営部門で内閣総理大臣賞を受賞した社長の眞澄さん(右)と専務の旭宏さん


幸せの物語を支えるたまご
 平成30年、国家戦略特別区域法を活用して、レストラン「レシピヲ」をオープン。たまごかけご飯やオムレツ、厚焼き玉子サンドなど、たまごのおいしさを存分に味わえるシンプルなメニューが並ぶ。また、地元の新鮮な野菜がたっぷり食べられるのも魅力だ。


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左 :「レシピヲ」の店内は明るく開放的
右 :やっぱり大人気のTKG(たまごかけごはん)


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左 :看板も "映えスポット"に
右 :やさしいタッチのイラストメニュー


 店にはお客さんが持ち帰れる小さなレシピが置かれているのだが、そこには「おうちに帰って家族のために卵料理を作ってみませんか」という思いが込められている。店名の「レシピヲ」は、「レシピをどうぞ」ということなのだ。
 「たまごは人の命を支える役割と、おいしさ・幸せな気持ちを引き出す力があります。レストランを訪れたお客様の幸せな記憶や、家族の物語を作る一助となるたまごであってほしい」と市田さんは語る。
 そして、令和5年にはベーカリー「にわのパン」を新設。より食卓に近い商品を扱うことでコンテンツが充実。特別な日に行く場所から、いつでも行きたい場所へと進化を遂げている。


たまご自販機ハウス
 並ばずにたまごを買いたいという要望に応え、24時間たまごを購入できる「たまご自販機ハウス」を令和4年にオープン。商品もバラエティーに富んでおり、白たまごの「朝日」、飼料の中に飼料用米を10%配合した米たまごの「明日」のほか、数量限定で、洗卵をしても少し殻に汚れが残った規格外の「ごめんなさいたまご」、大きさにバラツキがあるため規格外の「こだまちゃん・大だまちゃん」など、お得な商品も。
 さらに、専用の醤油や、たまごを入れるためのエコバッグも販売しており、何を買おうか迷ってしまう楽しみもある。そして、自販機ハウスを訪れた人が「せっかく来たのに売り切れだった」ということを防ぐため、インスタグラムのストーリーで自販機の在庫状況も発信している。


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左 :遠くからでも目立つ「たまご自販機ハウス」
右 :こだわりのブランドたまご「朝日」「明日」


秀逸なデザイン・SNSの活用
 デイリーファームは発信面にも力を入れている。SNSでの発信はもちろん、フリーペーパーやレシピといった紙媒体も充実し、HPは、消費者が欲しい情報にすぐアクセスできる優れたレイアウトになっている。また、メニューやパッケージのデザインが秀逸で、消費者の心をつかんでいる。
 「デザインは自分たちの感性に合うものを探しています。副社長(奥さん)もそうした仕事が好きですし、SNSは専務を中心に若手にお任せしています」
 また、発信に関しては自社だけでなく、お客さん自身が「これ食べたよ」「ココテラスのたまご最高!」などとSNSで発信してくれることも見逃せない。それを見た人が「私も行きたい」「食べてみたい!」思わせる力があるからだ。


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左 :オンラインショップも充実
右 :社員のみなさん

 

スタッフが集まりやすい
 六次産業化のおかげで会社のイメージが上がり、人材確保に大きな強みとなっている。「ココテラスのプリンが好き」「直売所の卵を食べていました」という理由で応募してくる人も少なくない。常滑市では名古屋方面に働きに行く人が多いが、デイリーファームは、地域雇用の推進に一役買っている。


たまごで人を幸せに
 市田さんに今後の抱負をうかがうと、「たまごは鶏たちからの『命の贈り物』。だから細やかな取り組みを大切に、見えない所まで徹底して努力をしていきます。たまごという軸はぶれることなく、時代に合わせて変化をし、ワクワクした気持ちで挑戦していきたいと思います」と語った。
 「でもねぇ、本音はいろいろ不安もあるし大変なんですよ」と、こぼすその笑顔は、「たまごで人を幸せにしたい」という決意と優しさにあふれていた。(ライター 松島 恵利子 令和6年7月11日取材 協力:愛知県知多農林水産事務所農業改良普及課(知多農業普及指導センター))
●月刊「技術と普及」令和6年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社デイリーファーム ホームぺージ
愛知県常滑市大谷芦狭間5番地
TEL 0569-37-0072
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