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農業経営者の横顔



週末の来訪者は1000人超え。いちごでみんなを幸せに

2025年06月26日

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日野正一さん (愛媛県西条市 株式会社ひのいちご園)


 祖父の代からの農家に育った日野正一さんは、農業大学校卒業後すぐに就農し、平成19年に観光いちご園を開園した。当時、愛媛県内に観光いちご園はまだ少なく、日野さんは大洲の観光いちご園に学んだという。開園当初は駐車場などの整備ができていなかったが、とにかく「うちのおいしいいちごを多くの方々に知ってもらいたい」という一心だった。そして今、週末には1000人を超える来訪者がある超人気のいちご園となった。


いちご75aは県下最大規模
 現在、ひのいちご園の面積は75a。いちご狩りに来るお客さんをできるだけ受け入れようとした結果、この広さになった。「ごめんなさいと言うのがつらいから、結果的にこの広さになってしまったけど、もうこれ以上は広げないです」と日野さんは言う。何より大事なことは、食べた人にインパクトを与えるいちごの味だと日野さん。「収益を上げるためにはお客さんをたくさん入れないといけない。しかし、お客さんを入れ過ぎたために、いちごが少なくなるという事態は避けなければならない。その兼ね合いが難しい」と語る。

 おいしいいちごを食べてもらうためには日々の丁寧な手入れが必要だ。「一般的ないちご園は、収益の9割までがいちご狩りですが、うちはだいたい6割で、残りの3割が直売です。いちごを買いに来るだけのお客さんがいらっしゃる。近所の人もいるし、遠方からの方もいる。インターネットで注文する人もいます。リピーターは、いちごがおいしいからリピートしてくださるので、私はその直売のお客さんもとても大事にしているんです」と、歯切れがいい。


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左 :ハウス内はいちごの甘い香りでいっぱい
右 :愛媛県育成品のあまおとめ


経営の安定を図るためのコンサル
 平成22年に法人化し、現在正社員が3名と、パートが15名程度。愛媛県育成品種の「あまおとめ」をはじめ、「紅い雫」「紅ほっぺ」「おいCベリー」「やよいひめ」、オリジナル品種の「あすか」など15品種を栽培している。そして、高設栽培(らくちんシステム)、統合環境制御システムなどの新技術を導入し、味を維持した状態で収量も増加。天敵資材の導入、ミヤコバンカー(ミヤコカブリダニ資材)、アフィパール(コレマンアブラバチ資材)、アカメ(アカメガシワクダアザミウマ資材)やUV-Bランプは安心安全につながり、化学農薬の防除回数が劇的に減ったという。自分の子どもたちがハウスによく来てこっそりいちごを食べるのに、そのハウスは薬剤散布をしたので食べたらダメよ、と言うのがイヤだったと日野さん。できるだけ化学農薬を使わない栽培を目指している。


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左 :摘み取りやすい高さのいちご
右 :いちごに歓声を上げる子どもたち


 平成25年には農林水産省の6次産業化の認定を受け、自社いちごを使ったソフトクリームといちご大福を製造して園内で販売し、来園者に人気だ。また、5軒のケーキ店にいちごを卸していて、「完熟して傷みがない」と高評価。5軒のケーキ店はいずれも個人商店で、各店によって希望する果実の熟度が微妙に違うため、その要望に応じたいちごを出荷している。平成29年には、全国優良経営体表彰の販売革新部門で「全国担い手育成創業支援協議会長賞」を受賞。研修生やインターンも積極的に受け入れている。


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左 :キュートでかわいいデザインのパッケージ
右 :来園者に大人気のソフトクリーム


 ハウスは現在35棟で、一部のハウスに統合環境制御システムを導入。令和4年には施設園芸省エネルギー化緊急支援事業を活用し、ヒートポンプを導入している。  
 日野さんはコンサルティング会社からの提案を受け、環境制御に力を入れている。「もともと、利益が出て何に投資していいかを聞きたくてコンサル会社にお願いしたんです」。その結果、さまざまな場面で環境制御を行うことで増益につながった。
 おいしいいちごが生産でき、いちご園の来園者が増加し、加工品を買ったり持ち帰り品が増えることで客単価が上がり、経営自体は順調になったという。


近所の人が買いに来るいちご農家でありたい
202506_hinoichigo_7.jpg 「うちの客層、目指しているのは"庶民派"なんです。近所の人が買いに来てくれるいちご農家。だから、スタッフにいつも言っているんです。近所の人、会社の前を通りかかる人にちゃんと挨拶するようにとね。近所の人たちが、〈日野さんのところのいちごはおいしいね〉と言ってくれる姿が大事なんです」と言葉に力が入る。

 少し前、今アメリカで俄然注目が集まっている「Oishii Farm(オイシイファーム)」のスタッフがやってきたという。どこかでひのいちご園の話を聞いたようで、日野さんも驚いたという。「オイシイファームといえば、糖度12度以上のいちごをアメリカの市場で販売し、大変な人気を集めている会社でしょう。おいしさという点ではうちも同じですから、いずれ日本国内でも高い糖度のいちごが量産されるようになる日が来る。そうなると、スーパーマーケットで販売されているいちごでは戦えなくなる。そういう時代を考えて、いちご狩りなどの体験型農業を進めていきたいんです」。ただ、高級ないちごばかりを提供するつもりはないという。
右 :若くて元気ハツラツとしたスタッフ


いちごでみんなを幸せにすることが目的
 ひのいちご園は、12月27日から5月中旬まで開園し、週末のみならず平日でもいちご狩り客が引も切らない。休園日の月曜に農園を訪ねたが、スタッフ総出でいちごの手入れに余念がなかった。「昨日は750人のお客さんでした」と日野さんは言う。土曜日曜2日間の平均は1000人を超える。

 そこで悩ましいのが、入園者が持ち帰るいちごの量の問題だ。「いちご狩りの予約数はコントロールできるんですが、入園者がどれだけ食べて、持って帰るかがわかりません」。つまり、量り売りの持ち帰り品が予想できない。「いちご狩りをしてその場で食べて、おいしかったら家族や近所の人のお土産にしようと思うでしょう。おいしいとたくさん買ってくださるんです」と日野さん。バランスを考えて予約を取っても、日野さんの想定以上のことも起こる。持ち帰りが大量に増えて、翌日のいちご狩り客の分があるか、という不安もある。


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左 :活気あふれる事務所内
右 :休園日にはスタッフ総出でいちごの手入れ


 これを解決するために、「トライアングルエヒメ」事業を試験的に導入している。これは、「光合成計測チャンバー」を導入し、リアルタイムに光合成速度と蒸散速度を測定し、データ分析することで栽培管理をどのように改善していくか、さらに何に投資すればよいかを検討していく試みだ。また、いちごの株の写真から草高や葉面積、果実数などを自動的に定量化する画像解析アプリを使い、栽培情報をデータ化する試験研究をおこなっている。さらに、出荷調整に関することも研究するかどうか検討中だ。

 「光合成の量が数字でわかったことは意義があった」と、今後の栽培管理方法検討の指標となったという。ただ、「やはりお客さんが食べる量、持ち帰る量は予測不可能なんですよ」と日野さん。「おいしいからたくさん食べるし、持ち帰りたくなりますよ」と言うと、「そうなんですよ。おいしいいちごでみんなが幸せになってくれることが何よりですし、うれしいことです。味については絶対に曲げられないんです」と、明快な言葉が返ってきた。(ライター 上野 卓彦 令和6年3月4日取材 協力:愛媛県東予地方局農林水産振興部農業振興課産地戦略推進室)
●月刊「技術と普及」令和6年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社ひのいちご園 ホームページ
愛媛県西条市玉津489-2
TEL 090-7627-0667/0897-55-7930