緑肥や再生肥料を利用したおいしい米づくりで地域を盛り上げたい
2025年05月19日
「持続可能な農業ネットワーク鴻巣・行田」のみなさん(埼玉県鴻巣市)
埼玉県の中央に位置する鴻巣市は、南西に荒川が流れる標高差の少ない地域で花きや果樹、稲作栽培がおこなわれており、サルビアやマリーゴールドなどは日本一の生産量を誇る。コウノトリを自然と共存する持続可能なまちづくりのシンボルとし、「人にも生きものにもやさしい コウノトリの里こうのす」の実現を目指している。
鴻巣駅から10分ほど車を走らせると一面田んぼが広がる。ここでレンゲなどの緑肥を活用した米づくりを行っているのが、「持続可能な農業ネットワーク鴻巣・行田」だ。
メンバーの一人、みつぎ農園の三ツ木宏之さんは、20年ほど前から、化学肥料や農薬に極力頼らない農法を実施。S-GAP(埼玉県独自のGAP)やみどり認定の実践農家でもある。2019年には思いを同じくする農家が集まり、「持続可能な農業ネットワーク鴻巣・行田」(以下「ネットワーク」)が設立された。ネットワークでは、化学肥料や化学農薬の低減をめざし、レンゲ等の緑肥や食物残渣の肥料を中心とした循環型農業をおこない、地域環境の保全と食の安全に取り組んでいる。
鴻巣地域では、13haほどで緑肥を導入。毎年、稲刈り後の9月から10月ごろにレンゲなどの緑肥の播種を行い、4月後半に細断。1~2週間乾燥させたのちに、すき込みを行う。今年は3月の低温や雑草にレンゲが負けてしまい、思うように生育が進まなかったが、例年この時期は一面レンゲが咲き誇り、田んぼはピンク色の絨毯で覆われる。
ネットワークでは、「環境保全型農業直接支払交付金(※)」を活用。レンゲ種子の購入に充てられているが、町内の養蜂業者から購入するため、通常の半額程度で手に入れることができている。また、以前は頭を下げて、お願いして回っていた草取りなどの作業にも交付金が活用でき、地域のつながりが強化されていると感じているそうだ。
※ 環境保全型農業直接支払交付金とは:
化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組と合わせて行う地球温暖化防止や生物多様性保全等に効果の高い営農活動を支援するもの
緑肥のほか、給食の余りや野菜の端材などを使用した「再生肥料」を購入し、半々の割合で導入しており、化学肥料はほとんど使用していない。「緑肥を活用して良かったことは、肥料代が半分で済むことと、微生物などが増え、土壌が豊かになったこと。田んぼにはミジンコやドジョウ、カブトエビやホウネンエビなど、多くの生き物が生息しています」。
乾燥施設(左)と、持続可能な農業ネットワーク鴻巣・行田」のみなさん(右)
近年、夏の猛暑で「コシヒカリ」がうまく育たないため、コシヒカリより高温に強い「ゆうだい21」と「にじのきらめき」を導入。反収はそれぞれ480kgと540kg程度だが、昨年は、大量発生したカメムシ被害で、例年よりも収量が低かった。カメムシは越冬が確認されており、今年も被害が懸念される。昨年のような状況では、農薬を使わざるを得ない。「今後は有機栽培にも取り組みたいが、(有機だけに)勇気がなくて」と駄洒落を交えて三ツ木さんは笑う。
「農薬を使用した朝採れきゅうりと、前日に採れた有機栽培のキュウリと、どちらを買うかと消費者に問うと、朝採れを選ぶ人が多いという話を聞く。有機栽培の認知度はまだまだ低く、あと一歩が踏み出せない。付加価値が付くようになれば、考え方も変わってくると思う」とメンバーの秋山芳雄さんは話す。
緑肥使用で肥料代は半分程度に削減できるが、それ以外をこまかく見ていくと、慣行栽培のコストとそれほど変わらない場合もある。「現状では、付加価値がついても高値で販売できるわけでもない。それでも、減農薬・減化学栽培にこだわっていきたい。農家としては『おいしいお米』と言ってもらえるのがいちばん」。
もとは兼業農家だった三ツ木さん。周りの農家から水田を預かるようになり、13年前に会社を辞め、農家専業となった。1.5haだった営農面積は現在、40haまで増えている(稲18ha、麦12ha、大豆10ha)。
田植えには、熟練者以外でもまっすぐ植えられる直進アシスト機能付き田植機を使用。ほ場近くの関東甲信クボタ鴻巣営業所にはRTK基地局が設置されており、これを使用して田植えやドローン播種など、スマート農機を使用した作業を実施している。緑肥を導入した田んぼのほかでは、鉄コーティング直播や乾田直播も行っている。「スマート農機も増やしていきたいが、まずはこちらが先」と、地域で収穫された米の受け入れのための乾燥施設も作った。圃場管理はKSASでおこない、ザルビオ®フィールドマネージャーも導入したが地力を見るにとどまっており、スマート農機との連携は、まだまだこれからだ。
今年の細断作業は4月24日から始まった。三ツ木さんの息子、佑介さんもトラクタを駆って参戦。高校卒業後すぐに就農して8年、二人三脚で作業を行ってきたみつぎ農園だが、二人ではそろそろ無理な規模となってきたため、現在は手伝いの人を数名お願いしている。
左 :レンゲの細断
右 :環境にやさしい米づくりをおこなっている田んぼ周辺ではミツバチも多く見られる
左 :作業を見守るメンバー
右 :緑肥はレンゲのほかヘアリーベッチも植えられている
「農作業に無くてはならない存在になった」と三ツ木さんが話す農業用ドローン(T25)で肥料散布やレンゲ播種などを行っているが、「農業用ドローンには、息子がさわらせてくれない」と話す三ツ木さんは少し嬉しそう。無人田植機を使用した同時作業にも興味があると話す佑介さんは、意欲的で頼もしい後継者だ。
「レンゲは連作が続いていて、そろそろほかの緑肥に変える時期かもしれない。緑色ではつまらないので、レンゲのように、花が咲くものがいい。きれいに咲いたら人を集めて、イベントも行いたい。こういうことで地域が盛り上がればよい。いままで通りにやるのでは、面白くない」と三ツ木さん。来年の田んぼがどんな色に染まっているのか楽しみだ。(みんなの農業広場事務局 令和7年4月24日取材 協力:関東甲信クボタ鴻巣営業所)