スタッフの労働環境を整え必要とされる花生産企業を目指す
2025年04月28日
千葉県南房総市は温暖な気候に恵まれ、古くから花の産地として知られている。有限会社折原園芸は、この地でホワイトレースフラワー、ヒマワリ、ハーブ類、タラスピ(ナズナ)、ニゲラ、コスモス等を年間393万本出荷する国内有数の花き生産者だ。
同社は、1977年に現・代表取締役の折原利明さんの両親が、ストック、スターチス、カスミソウ等を栽培したことからスタートした。その5年後、今の主力品目であるホワイトレースフラワーに出会う。栽培技術を確立し、専用の選花機を製造業者と開発するなどして生産を拡大。1990年に法人を設立し、初年度は6棟だったパイプハウスは40棟に増えた。現在、ハウスは139棟(うち作業場4棟、機械資材倉庫5棟)あり、面積は施設250a、露地畑2.5haである。
仕事の外にも活動を広げSNSでの発信も働く活力に
折原さんが千葉県農業大学校を卒業後、2年間のアメリカ農業研修を経て入社をしたのは1997年、22歳の時だった。アメリカではリンゴ農園や切り花農家で実習するなど、経験を積んだ折原さんだが、就農当初は仕事よりもサッカーに没頭していたという。「社会人のクラブチームに所属し、県で準優勝したこともあります。プロテストを受けたこともあるんですよ(笑)」。
仕事の意識が変わったのは29歳の時だった。当時はヒマワリやハーブ類など栽培品目が増え、それに伴って売上げも伸び、折原さん自身は二児の父親になっていた。「会社の規模が拡大し、将来は親戚の畑も引き受けていかなくてはならない。『今後、パートナーのいない状況で、二代目としてやっていけるのだろうか?』と、眠れなくなったことがありました。
そんなある日、看護師をしている妻が、自分が作業をしているそばに子どもを連れてきて草取りを始めたのです。その姿を見て、『いつまでも迷っている場合ではない。覚悟を決めて家族のためにも楽しくやっていこう』と腹が決まりました。それまでは自分のやりたいことが見えず、仕事もどこか受け身で、楽しんでいなかった。その頃からSNSで自分の想いや活動を発信するようになり、気持ちも前向きに切り替わっていきました」。
こうして折原さんは仕事に励み、その一方で、花き栽培仲間と「南房総『awahana!!』」を結成したり、JFFL(花業界フットサルリーグ)の設立、子どものサッカーコーチを務めるなど、活動や交流の場を広げていく。消防団や青年団にも所属し、のちに消防分団長や小学校のPTA会長も務めた。そして2011年、36歳で代表取締役に就任した。
左 :ハウス外観
右 :1982年に栽培を開始したホワイトレースフラワー
強く丈夫に育てたヒマワリが全国的なブランドへと成長
現在、同社では約15品目、40品種の花きを栽培している。その中でも年間90万本を出荷し、ホワイトレースフラワーと共に折原園芸の代名詞になっているのがヒマワリだ。栽培を開始したのは2001年。当時は家族とパートだけでは労働力が不足し、中国人農業研修生を雇用していた。年間を通じた雇用体制を整えるために、夏の品目であるヒマワリを導入したという。ちなみにホワイトレースフラワーの収穫時期は10月~5月で、それまで夏場は、収益にはつながらないクリーンクロップ(ソルゴー)を植えていたそうだ。栽培当初は、粘土質の土壌がヒマワリには適さなかったが、土の改良を重ね、水や肥料の管理も徹底して良質な花作りを目指した。
「水や肥料を与え過ぎるとヒマワリはどんどん大きくなり、茎も太く柔らかくなってしまいます。よって、採花する1カ月前からは地面がひび割れるくらい水を切ります。そうすることで根だけではなく、花全体から水を吸収するようになり、強く引き締まったヒマワリに育ちます」と折原さんは説明する。
ヒマワリは毎年、帝国ホテルのエントランスホールに飾られている(右)
折原園芸のヒマワリの評判は多方面に知れ渡り、2012年からは毎年、「帝国ホテル」のエントランスホールにも飾られ、訪れる人たちの目を楽しませている。エントランスホールはホテルの顔ともいえる重要な空間。同社のヒマワリが毎回選ばれている理由は、美しい見た目と花持ちの良さに加え、質にばらつきのない確かな花を約2カ月間、安定供給できることも大きい。
ELFバケットを導入し出荷の安定化と拡大を図る
ヒマワリの1年前から栽培しているハーブ類も人気が高い。ミントを手始めに、ローズマリー、バジル、セージと種類を増やし、特にハーブゼラニウム(センテッド・ゼラニウム)は"切り花のグリーン花材"として、ブライダル関係や花屋に目新しさで注目を集めた。「最初のミントも、小さなブーケに添えるグリーンにぴったりだと、『青山フラワーマーケット』さんの社長の目に留まったのです。当時、『青山フラワーマーケット』は5店舗の展開でしたが、今では125店舗と躍進し、私たちも一緒に成長させてもらいました」。
近年はタラスピ(左)やニゲラなど、メインをサポートする草花も人気を集めている
左 :「ELFバケット」を使用して花を出荷。鮮度を保持し、日持ちも向上
右 :ホワイトレースフラワー専用の25段階の選花機。選花機は3台所有
また同時期に、東京の花市場「株式会社フラワーオークションジャパン」(FAJ)への出荷もスタートした。そして、FAJが取り組みを始めた新しい湿式の輸送システム「ELF(エルフ)バケット」を導入したことも追い風になった。「ヨーロッパでは広く普及していますが、日本ではまだまだ少数。このシステムは、切り花を水に浸けたまま輸送するので鮮度が保たれ、花持ちも長くなります。生産者側は段ボールに梱包するなどの手間が省け、店側は水揚げをする作業が軽減し、双方にメリットがありますね」。
折原さんは2016年に「日本ELFシステム協会」(JELFA)の理事に就任し、普及と利用の改善に努めている。また、今はFAJをメインに大阪や名古屋、そして九州から東北まで、全国の市場に販路を広げている。
社員にリーダーを任せ仕事のやりがいにつなげる
現在、同社の社員は11名、うち役員は折原さんを含め4名。8名のパートと、ベトナム人(特定技能)9名を雇用している。折原さんは社長に就任する以前から、「自分を3人作る」をモットーに、作業負担の軽減や人材育成に取り組んできた。「生産、マネジメント、マーケティング、また仕事以外の活動も多く、働き方改革が必要でした」と話す。具体的には、機械の導入やELFバケット出荷などによって作業の効率化を図り、経験のある従業員に新人の指導を任せて、主体的に行動できる人材を育てた。
左 :2018年からベトナム人をスタッフとして雇用
右 :毎朝の朝礼に加え、年4~5回スタッフ全体ミーティングを行い、情報を共有。必要に応じてリーダーミーティングも行う
現在は、栽培品目ごとにチームを作り、当日の作業もチームで決めている。チームリーダーは8人おり、うち4人の品目リーダーは、直接市場担当者とのやり取りも行い、出荷先や数量などを決定している。注文状況などによって労力が足りない場合も、チームリーダー同士で話し合い、人を送り合うなどの対応をしているそうだ。折原さんは、「優秀な社員には長く勤めてもらいたい。そのためにはどうしたらよいかと考えた時、給料はもちろんですが、やはりやりがいが必要だと思いました。それには重要な仕事を任せることが大事です。実際、自分も仕事のスイッチが入ったのは、市場とのやり取りを一任してもらった時でした。また、消防団やサッカーのコーチなど会社以外の経験も、人材育成や組織作りに役立っていると感じています」と語る。
「また、近年はスタッフ全員でミーティングを行っています。経営状況などもみんなで共有し、チームで目標を立て、それを実現するために何をしたらよいか、自分たちで考えて行動に移す。そういうサイクルができてくると、会社も前へ進んでいきますね」。
地域に根付いた経営を行い三代目につなぐことが使命
同社の2023年度の売上は約2億5000万円。着実に業績を伸ばしている折原さんに現在の課題と今後の展望を聞くと、「課題は山ほど。満足したら成長が止まってしまいますからね」と、ポジティブな言葉が返ってきた。
右 :折原園芸のフットサル部。折原さんが創設した「花業界フットサル大会」も今年で25回目を迎えた。参加者は多い時に300人を超えた
「今後は人員の確保も容易ではないので、積極的に経営を拡大しようとは考えていませんが、地域の高齢化が進んで畑を頼まれることが多くなり、それには応えたいと思っています。今も草刈りをはじめとする地域の活動を大事にしていて、これからも自分のできることで貢献をしたいですね。また、個人的に重要な役目としては、長男に三代目をつなぐことです。そのためにもスタッフ皆が働きやすい環境を作り、私自身も座右の銘である、『人生、楽しむために努力する』ことを続けていきます!」。(ライター 北野 知美 令和5年11月29日取材 協力:千葉県農林水産部安房農業事務所)
●月刊「技術と普及」令和6年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
有限会社折原園芸 ホームページ
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TEL 0470-46-3088