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農業経営者の横顔



樹上完熟みかんにこだわる独自の"山選り"で持続可能な経営を築く

2024年06月03日

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永石睦巳さん (株式会社マルケンみかん 和歌山県有田川町)


 みかんの故郷として名高い和歌山県有田では、約450年前からみかんづくりが始まった。みかん栽培に適した温暖な気候の地域で、江戸時代に「蜜柑方(みかんかた)」なる組織が作られ、全国各地へみかんが出荷された。
 有田川沿いの賢(かしこ)地区で作付面積60ha、年間生産量1300tの早生温州みかんだけを生産している株式会社マルケンみかんは、法人化こそ2021年だが、組合としての活動は1976年からと古い。摘果量を増やし、独自の栽培、収穫、選別法である"山選(やまよ)り"をおこなって、樹上完熟みかんづくりをおこなっている。


重労働の家庭選別を廃止
 有田川町賢地区には古くから「マルケン」という組織があった。地域の良さを打ち出した組織にしようと1976年に再結成されたのが「マルケン共選組合」で、代表の永石睦巳さんや役員の親世代が歴代の組合長を務めてきた。「地域を守り、継続させていくためには生産に力を入れたいが、地元だけではなく外部からも働き手を呼び寄せる形を取ろうと考え、法人化に踏み切ったんです」と永石代表。先を見据えて新たな後継者が入りやすく、また、高齢化しても働き続けられる環境を作るため、2013年から家庭選別の作業を廃止した。
 みかんの産地では、収穫時期になると早朝から日が落ちるまで収穫作業をし、その後、深夜まで家族で選別作業をする長時間労働が当たり前となっている。「幼い頃から両親の働く様を見て育ち、みかん農家の苦労もわかった上で跡を継ぎましたが、家庭選別が連日続くと、"ああ、まだ働かなければいけないのか"と思うことも少なくなかったです」と、常務取締役の中西弘さんはしみじみと語る。そこで編み出された方法が、「収穫を見越した栽培フローの整備」だった。


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左 :広大なみかん畑を望む
右 :樹上で熟して濃く色づくまで収穫を待ち、糖度のみならず、熟度や鮮度にもこだわる


樹上完熟の"山選り"にこだわる
 マルケンみかんでは、樹上でみかんが熟して濃く色づくまで待つ。そのため通常ならば11月に入ったら始まる収穫が、11月15日を過ぎた頃から始まり、12月出荷が中心となる。また、マルケンでは温州みかんの早生だけを生産している。「極早生、早生、中生、晩生といろいろな種類を作っていたら、収穫や出荷作業に間に合わない。それに、みかんには隔年結果があるので、翌年の収穫量も考えないといけない」。
 そこで重要になるのが摘果作業だ。マルケンでは「生果で出荷できないみかんを摘果で落としきる」という手法を取っている。花が咲く5月から6月までの生理落下が終わると、その後は収穫時期の11月まで摘果作業が続く。「摘果作業は、何度もお手入れする感覚ですね。出荷できるものだけを選んでいく。これを、われわれは"山選り"と呼んでいるんです」と永石さん。


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左 :独自の"山選り"を行い、みかんの状態を見極める
右 :"山選り"によって作業の均等化を実現


 "山選り"は、株式会社マルケンみかん独自の言葉で、造語である。山で出荷するみかんを選ぶ、選別しながら収穫することを指し、結果的に家庭選別の重労働を解消することになる。「取る、取らないの選別も含めての山選りは、限界までみかんの状態を見極めます。糖度だけではなく熟度や鮮度を上げることによって、みかん本来のおいしさを味わってもらおうというマルケンの考え方なんです。山選りによって作業の均等化が実現します。それによって若い人を呼び込めるし、高齢者でも作業ができる。何よりみかんの品質が上がるし、価格も安定します」と言葉に力がこもる。この"山選り"という方法を全国のみかん農家の方々に知ってもらいたい、そして "山選り"が正しく広まっていくことがマルケンの願いだと永石さんは言う。
 "山選り"は登録商標出願中とのことだが、商標登録することで独占や囲い込みをしたいのではなく、作業内容の基準を設けることによりレベルを落とさない、そして、山選りに共鳴する各農家に迷惑を掛けないという配慮があってのことだという。


宮城県と栃木県にのみ出荷
 マルケンのみかんは一般の市場には出回らない。宮城県石巻と栃木県宇都宮の市場にだけ出荷されている。「以前は他の市場にも出していました。でも、マルケンのみかんは石巻と宇都宮の人々に育ててもらったのです」。そこには、長きにわたる二つの町の人たちとの深くて温かな交流=縁があるという。
 「知り合いが石巻で"マルケンって知っている?"と地元の人たちに尋ねたら、子どもたちからお年寄りまで、"みかん!"と答えたそうです。それを聞いて、改めて気を引き締めて仕事をしていこうと思いました」と永石さんは言う。
 市場には出回らないが、マルケンのみかんはネット通販で購入することができる。「箱買いは減っていますが、うちのみかんは箱買いをする人が多いです。7・5kgと5kgの箱を用意しています」という。採れ立ての味を加工したみかんジュース「賢宝(けんぽう)」も販売している。


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左 :マルケンみかんは宮城県・栃木県だけの限定出荷
右 :加工したみかんジュース「賢宝」


"山選り"はマルケンみかんのSDGs
 現在、会社所属の生産者は28軒、社員は役員も合わせて20名で、出荷時期には70名のパートを採用している。「社員は、20代から年輩者までいます。繁忙期は、選果場で夜間作業になることもありますが、通常は8時間勤務体制です」。丁寧に日々の摘果作業を繰り返すこと、樹上完熟の"山選り"をおこなうことで、重労働だった家庭選別を廃止したことは、企業としてのこれからの指針であり、SDGsにもなると永石さんは言う。「今後を見据えて、世代交代をしながら生産規模を拡大し、基礎体力をつけたい。マルケンの持続可能な社会を目指す方法は、山選りだと思うんです。だから、この山選りに共感してくれるみかん農家さんが増えていってほしいと思います」と、言葉に熱がこもる。


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左 :「株式会社マルケンみかん」の社員のみなさん
右 :厳選されたみかんはネット通販でも入手可能独


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左 :みかんとともに歴史を重ねた野面積みの石垣
右 :みかんの花


 話を聞いた後、みかん山に連れて行ってもらった。斜面を利用した段々畑の各所に、丸い石を野面(のづら)積みにした石垣が造られている。聞けば江戸時代から明治、大正、昭和と、河原の石を手で運んできて積み上げたものだという。先人たちのみかんに対する深い愛情が、この石垣に込められている。このみかんづくりの苦楽の歴史を感じつつ、永石さんたちは"山選り"の作業を丁寧にくり返している。(ライター 上野卓彦 令和5年2月17日取材 協力:和歌山県有田振興局農林水産振興部)
●月刊「技術と普及」令和5年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社マルケンみかん ホームページ
和歌山県有田郡有田川町賢54-1
電話 0737-52-325