スイカをメインに花とニンニクも育て、通年で働く環境を実現!
2023年09月11日
杉川将登さん、杉川一二美さん (鳥取県北栄町 株式会社Agriすぎかわ)
スイカの生産では全国4位の鳥取県。県西部から中部にかけ、名峰・大山がもたらした黒ボク土壌で作られたみずみずしいスイカが全国に向けて出荷されている。株式会社Agriすぎかわがある北栄町は西日本を代表するスイカ産地で、「大栄スイカ」のブランドは広く知られている。しかし、この地域にも高齢化の波が押し寄せ、重量野菜の上にほとんどが手作業であるスイカ栽培は身体への負担が大きく、やめていく人もいる。
2019年に家族経営から法人化した株式会社Agriすぎかわ代表の杉川将登(まさと)さんと妻の一二美(ひふみ)さんは、空き農地を活用して意欲的に耕作面積を広げてきた。さらに、スイカの栽培が終わると花やニンニクを育て、一年を通じて働く環境を実現している。
5月末から7月上旬がスイカの収穫期
スイカ収穫最盛期の様子を見ようと6月中旬の朝、Agriすぎかわのハウスへ向かった。午前6時前、杉川夫妻、娘さん夫妻、そして従業員2人の計6名が慌ただしく動き回っていた。「まだ熱気が降りてこない早朝、澄み切った空気のなかで収穫するのがスイカなんです」と、出迎えてくれた一二美さんが言う。
ハウスは60棟(1.2ha)と大規模で、ほかにトンネル栽培が60aあるという。この時期、選果場が休みの土曜日を除き、毎日500個近くのスイカを収穫する。将登さんがスイカの軸を切ると、従業員が一玉ずつ運搬車に載せる。そして、ハウスの間に停められた2tトラックに積み込んでいく。スイカの表面を布で拭き、傷まないよう手から手へと受け渡す。その動作は丁重で優しく、スイカへの愛があふれている。
左上 :表面を拭き、手から手へと受け渡す
右下 :隙間ができないように積み上げる
トラックの荷台では一二美さんが丁寧に作業をこなし、緑に黒い縞模様のスイカが美しく段々に積み上げられていく。「積む技術があるんでしょうね?」――動き回る将登さんに声を掛けると、「そう、傷つかないように、割れないように積み上げていくんです」と笑顔で答えてくれた。
スイカは人の手で育てていくもの
スイカ栽培は毎年1月から準備が始まり、3月に定植、5月末から収穫が始まって7月上旬に終了する(今年(2022年)は7月10日まで)。
大栄スイカの栽培は父の代からで、将登さんは大栄西瓜組合協議会の会長を2012年から6年間務めた。会長職はそれなりに忙しく、この時期に初めて家族以外の人を雇用した。すぐには法人化をしなかったが、家族経営農家とは言えなくなくなってきた。
「以前、スイカの価格が暴落したことがあって、1個1000円を切ることもありました。家族経営なら『来年はいい年になるさ』で済んだけど、法人化したらそうは言っていられません。会社は利益の追求が目的だし、従業員もいる。経営の方向転換をしなければいけないと痛感しました」。
将登さんは、スイカを育てるには人の技術が大切だと力説する。「例えば、蔓引きを軽労化できないかという話もあるけれど、これは決して手抜きをしてはいけない作業。接ぎ木の機械化やミツバチ交配はできても、大事なところは手をかけてこそなんです」。法人化して今年(2022年)で3年目。Agriすぎかわは、変化には柔軟に対応し、継承するものは大事に受け継ぐという経営方針で、次世代へつなぐ農業を目指している。
左上 :JA鳥取中央 大栄西瓜統合選果場
右下 :大きさや品質をチェック
左上 :選果場に隣接する直売所
右下 :大栄スイカは全国ブランド
また、「花の栽培を勧められたのは1989年、普及指導員さんから指導を受けました。それまでこの地域で花を作る農家はなかったですね」と将登さん。
お盆用のトルコギキョウは5月頃から育て、8月からはストック(アブラナ科のアラセイトウ)の種子を時期をずらしながら播き始め、10月から翌年3月まで採花が続く。
農業女子が活躍し、地域のリーダーを目指す"キラリ☆鳥取あぐりジェンヌ"
香川県小豆島で保育士をしていた一二美さんが嫁いできたのは1991年のこと。「将登さんが『農業は食の源で、国の根幹なんだ』と言ったその言葉に感動しちゃって......」と一二美さんは笑う。当時は県外からスイカ農家の嫁に来たということで、地元のテレビ局が取材にきたそうだ。
31年経った今、一二美さんは鳥取県指導農業士、北栄町農業委員、鳥取県花き振興協議会会長などの役職を兼任している。そうしたなかで注目が集まっているのが「とっとり農業女子ネットワーク(愛称:キラリ☆鳥取あぐりジェンヌ)」だ。県内の農業女子が連携し、農業だけでなくあらゆる分野で活躍しながら地域のリーダーとなることを目指す組織で、一二美さんは設立発起人であり代表も務めている。「キラリ☆鳥取あぐりジェンヌでは、研修会&マルシェを開催しました。また、著名人の講演会では企画・制作・運営をメンバーが受け持ち、普及指導員さんにも協力していただいて県内の農業関係者に告知してもらい、100人以上の参加者が集まりました。でも新型コロナ禍で、現在はちょっと心が折れかけている状態です」と一二美さん。とはいえ、SNSを活用して県外の農家女性たちと交流し、情報交換を続けているという。
右 :キラリ☆鳥取あぐりジェンヌのメンバー
かつて一二美さんは、日本海新聞に連載していたエッセイにこう記した。
「なぜ、ここまで女性を重視するのか。女性が流出する町の未来は厳しいと考えるからです。女性の暮らしにくい場所へ、息子がお嫁さんを連れてくるでしょうか。ましてや娘は、外へ出てしまうのではないでしょうか。私は、女性の思いを反映できる環境であることが、町の活性化につながると考えています。」
「女性の力を眠らせず、活動の場を作ることこそが自身の役割」だと語る一二美さん。現在、杉川夫妻の娘さんが婿ともどもAgriすぎかわに入社し、後継者となっている。
どんな時も「なんとかするさぁ」の精神で
スイカと花という経営の2本柱に新たに加わったのが、ニンニクだ。露地で育てたニンニクをスイカが終わったハウスで乾燥させ、黒ニンニクの加工・販売に関しては一二美さんが担当している。「免疫力アップや抗菌・殺菌に敏感になっている時代だからでしょうか。黒ニンニクを求めるお客さんが増えて、販売は地元直売所からネットショップにも広がってきました。だからといって、あまり増やしてはダメ。うちはニンニク屋ではなく、あくまでスイカ屋ですから!」と、一二美さんの声は明るい。
左上 :ニンニクの大きさを量る
右下 :コロナ禍で人気の黒ニンニク
将登さんは今後もスイカ栽培の面積を増やしていきたいと考えている。「沖縄の人は『なんくるないさぁ』と言いますけど、鳥取県人は勤勉だから『なんとかするさぁ』の精神なんです。たしかに農家は高齢化していますけど、若者を育てていくことで未来へつながっていく。われわれが今、『なんとかする』ことが大事なんだと思います」と、力強い言葉が返ってきた。(ライター 上野卓彦 令和4年6月17日取材 協力:鳥取県中部総合事務所農林局東伯農業改良普及所)
●月刊「技術と普及」令和4年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
株式会社Agriすぎかわ ホームページ
鳥取県東伯郡北栄町大谷3742-1
TEL 0858-37-5187