提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ



環境に配慮した都市近郊型酪農で新事業のソフトクリーム店もオープン

2022年09月21日

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小林紀彦さん(北海道江別市 有限会社小林牧場)


創業から間もなく90年。2度の移転で現在地へ
 札幌に隣接する道央圏の中核都市に位置づけられながら、郊外には牧草地や畑が広がる農村地帯としても知られる江別市。開拓使の時代から続く酪農業は、環境に配慮した都市近郊型酪農のスタイルを模索しながら現在へと続いてきた。道立自然公園野幌森林公園のそばに牛舎を構える有限会社小林牧場も、そうした立地条件と向き合いながら「おいしい牛乳づくり」に励んでいる。

 小林牧場の創業は1932年。来年(2022年)90周年を迎える。現社長である小林紀彦さんの祖父・政吉さんが、当時は札幌郡だった厚別熊の沢(現札幌市厚別区)で酪農を始め、1956年に父の惟彦さんが経営を引き継いだが、1968年には宅地開発の影響を受け近くの農地へと移転。ところが、この地も高速道路開発などの波に押され、再び移転を余儀なくされた小林牧場は、1981年にようやく現在の地に落ち着いた。
 移転前に飼養していた乳牛は約90頭。現在は約550頭(経産牛約300頭、育成牛約250頭)にまで増頭され、耕地面積は185haを誇る。地域屈指の牧場に発展したのは、紀彦さんが酪農学園大学を卒業後、カナダでの酪農実習を終えて労働力として加わった1990年代になってからである。


祖父は組合設立に尽力。「小林牧場物語」ブランドも
202209_yokogao_kobayashi_7.jpg 一方、1953年には政吉さんの呼びかけで、札幌市厚別酪農業協同組合が設立された経緯もある。地域の酪農家65戸が組合員となり、集乳した生乳を乳製品メーカーに輸送するのが目的で、牛乳や加工品の製造も手掛けるまでに発展した。
 しかし、小林牧場がそうだったように、組合員も徐々に移転や離農が相次ぎ、組合はいったん解散の道を選んだ。そして1989年、牛乳や加工品製造を目的に新札幌乳業株式会社(札幌市厚別区)を設立。現在、組合発足当時から同社に生乳を出荷しているのは小林牧場だけとなってしまったが、単一牧場から仕入れる生乳の品質の良さを前面に打ち出した「小林牧場」ブランドが立ち上がった。
 「北海道小林牧場物語」のネーミングで展開されている商品は新札幌乳業が企画し、加工・販売しているもの。牛乳、チーズ、ヨーグルトなど15種類以上が道内はもちろん、全国のスーパーやネットショップなどで販売されている。
右 :新札幌乳業が発売する「小林牧場物語」の製品。ソフトクリーム工房でも販売している


 こうした歴史を刻みながら、小林牧場は2008年に惟彦さんから紀彦さんに経営が移譲され、弟の智行さんが専務取締役に就任した。かねてから周辺地域への臭気対策を模索していた紀彦さんは、大規模な設備投資に踏み切った。2010年には300頭規模のフリーストール牛舎と育成舎、ミルキングパーラーやバンカーサイロなどを新設。排水処理施設も増設し、翌年には牛舎から出るふん尿を処理する嫌気性発酵施設(バイオガスプラント)が完成した。


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左 :江別市出身の芸術家、原田ミドー氏の壁画が描かれた牛舎
右 :ふん尿を分解して作られる資材


バイオガスプラントで循環型の酪農へ転換
 バイオガスプラントの1日のふん尿処理量は29㎥で、そこから600㎥のバイオガスが発生する。バイオガスから発電した電気は牧場内で利用することもできるが、紀彦さんはこれを電力会社に売電する方法を選択した。消化液は固液分離して液肥を農地に還元し、おがくずのような繊維質の固体は牛舎の敷料に利用している。畜産担い手育成総合整備事業の補助金を活用したとはいえ、循環型酪農への大きな決断をした紀彦さんは、「多額の設備投資にはなりましたが、今の環境でこれからも牧場を続けていくためには必要となるもの。いつやるかのタイミングがちょうど10年前だったというわけです」と振り返る。


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左 :牧場内にあるバイオガスプラント施設
右 :20頭2列のミルキングパーラー


 数々の物語を紡ぎながら新しい取り組みにもチャレンジする小林牧場では、今年4月から6次産業化の新事業にも乗り出した。3年ほど前から計画を進めていたソフトクリームの製造・販売だ。「『小林牧場物語』はあくまで生乳を提供しているだけなので、生乳を自分たちで加工できるアイテムとして、新札幌乳業とはバッティングしないソフトクリームを選びました」と紀彦さん。離農した牧場の敷地を購入し、牧草地や赤い牛舎が見えるロケーションにオープンした「小林牧場 おかしなソフトクリーム工房」の工場長には、パティシエの経験があり、前職は新札幌乳業で商品開発を手掛けていた中濱義和さんが着任した。


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左 :牧草地を眺めながら、できたてのソフトクリームが味わえる
右 :道道江別恵庭線沿いに立つ「小林牧場 おかしなソフトクリーム工房」


初の6次産業化事業としてソフトクリーム工房を開業
 見るからにきめが細かく、白さが際立つソフトクリームは牛乳ソフトとヨーグルトソフトの2種類。店名に付けた「おかしな」は「お菓子」の意味もあるそうで、「デザート感覚で楽しんでもらえるよう、トッピングを工夫していく予定です」と中濱さん。生乳が持つ甘みが感じられながら後味さっぱりのソフトクリームは、コロナ禍でも順調に客足を伸ばし、週末には行列ができるまでになっている。


 毎日約300頭の乳牛から搾られる生乳は、ホクレンを経由して供給される新札幌乳業の製品や、自社のソフトクリーム工房への供給を通じて消費者のもとへ届けられている。紀彦さんは「良質な牛乳は健康な牛たちから。牛たちの健康の源は良質なエサ。良質なエサを育むのは健康な土。これが小林牧場の理念の核となっています」と言う。
 牧草とデントコーンのサイレージおよび乾燥牧草は全て自家産で賄われ、搾乳牛を一年通して、同じ設計の飼料で管理しているのも小林牧場の特徴の一つ。育成もすべて自社で行い、子牛に与えるミルクは出荷できない生乳をパスチャライザー(初乳・生乳加温殺菌装置)で加熱処理して利用することで、代用乳購入費用の削減にも努めている。


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左 :子牛用に導入したパスチャライザー
右 :育成舎で管理している子牛


 現在、従業員は6名で、このうち紀彦さんの長男と姪も牧場の仕事に従事している。近くに紀彦さんの出身大学があるため、アルバイト学生の確保にも今のところ不自由していないそうだ。だが紀彦さんは「農業も週休2日制が導入される中、毎日搾乳をしなければならない酪農に、今後も人材が集まるかどうかは分かりません。いずれは搾乳用のロボットの導入も視野に入れなければならないと思っています」と前を見据える。
 挑戦を重ねながら、祖父と父が築いてきた牧場を発展させ、家族や従業員を守っていく紀彦さんの姿は北海道らしい開拓精神にあふれていた。(ライター 梅村敦子 令和3年6月2日取材 協力:北海道石狩農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」令和3年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


■有限会社小林牧場 ホームページ
北海道江別市西野幌668
TEL 011-375-1115