提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ



京の伝統野菜「九条ねぎ」を中心に新品目のブランディングにも取り組む

2022年07月11日

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村田正巳さん (京都府久御山町 株式会社村田農園)


 京都府の南部、宇治市と八幡市に隣接する久御山(くみやま)町。淀川と宇治川の流域であることから古くより農業が盛んな地域で、とりわけ苗農家が集まる集落としては、650年前の室町時代、南北朝の頃までその歴史をたどることができるという。ここで京の伝統野菜である「九条ねぎ」を中心に、「賀茂なす」「えびいも」などの京野菜、野菜苗、トウモロコシなどを生産する村田農園。代表の村田正己さんは27歳で5代目を継いで2015年2月に法人化し、地域の先輩や普及指導員の協力を得ながら、これからの農業に何が必要かを考え続けている。目まぐるしく変化する農業を取り巻く環境に対し、村田さんが描くビジョンを聞いた。


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 :収穫された九条ねぎ。季節によって味わいが変わるのも特徴
 :九条ねぎの苗の植え付け作業


法人化直後から大きな変化が訪れた
 「父の跡を継いでから10年間は、先代がやっていた野菜苗と九条ねぎを作っていました。最初は2ha程度ですね。そのうち周囲の先輩から『法人化しておけ』と言われて、あまり深く考えることもなく株式会社化したんです」。元野球部でがっしりとした体躯、就農するまでスポーツインストラクターをしていたという村田さんは、アスリートならではの大胆さと繊細さを併せ持っている。

 「以前は農業の世界も今ほどガツガツしていなくて、時間もゆっくり流れていたような気がします」。変化し始めたのは7年前、法人化した直後からだったという。「法人化したことで作付面積が増え、雇用も増えました。当然、生産量も増える。売らないといけないから、売り先を見つけなければならない。売り先が見つかると、今度は生産量を上げなければならない。この循環の中でどんどん広がっていきました」。競争することなく、のんびりとしたそれまでの作業が一変、スピードが求められるようになった。栽培を中心に勉強してきた村田さんだったが、事態の急激な変化に持ち前のパワフルさで取り組み始めた。


普及指導員のサポートがあったからこそ
 そんな村田さんを支えたのが普及指導員の存在だったという。「現場仕事は頑張れば何とかできたのですが、僕は数字に弱くて農業経営など全然わからなかった。そこで普及指導員さんが中小企業診断士を紹介してくれ、経営について学ぶことができた。普及指導員さんは『こういうことをしたらいいんじゃない?』『こういう商談会があるけど行ってみる?』などと、いい意味で僕をコントロールしてくれました。もちろん、栽培技術や人の使い方、決算書の見方など、ありとあらゆる面でお世話になりました」と、普及指導員との交流を振り返る。


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九条ねぎ収穫風景()と調製作業(


 現在社員は6名、パート社員が15~20名程度いて、ベトナムからの技能実習生も受け入れている。また、村田さんの父母、弟、奥さんも働いているので、総勢30名近くのスタッフが村田農園を支えている。作付面積も16haまで広がり、そのうち約70%が九条ねぎである。

 「ネギの需要が伸びる要素は7年前頃から徐々に出てきて、加工業者との出会いに加え、直接卸すスーパーやJAなど取引先が増えていきました。売上も順調に伸びています。ただね......」そう言うと村田さんは、ふと目線を落とした。「年商が1億円を超えるまでは、とにかく目標達成のために、僕が先頭に立って引っ張ってきたんです。『ああしろ、こうしろ!』と命令して、牽引してきた。だけど最近は、『会社は僕一人ではなく、一緒にやってくれる仲間がいるからこそ成り立っている。だから今後は、今まで僕がやってきたことをスタッフに任せてみよう』と思っているんです」。心境の変化の裏には、そんな思いがあった。


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 :村田農園のパイプハウス群
 :ハウスの中では野菜苗を育苗中


規模が大きくなっていくことの問題点
 農業者の会合などに出席するようになって、農業法人が増えている現状を知り、経営規模が大きくなってくると、需要と供給のバランスを取ることの難しさを目の当たりにするという。農機などの生産費が上がっているのに野菜の単価は上がらず、むしろ下がりつつある現状をいかに打開することができるか? 売上は確実に伸びているが、販売に特化しすぎると品質が下がる。ブランドである京野菜の品質を下げることだけは避けたい。常に野菜に対して真摯な気持ちでいたい。

 また、雇用に関しても労働環境の整備、将来が見える給与体系づくりなど、村田さんの前には、これまでに出会ったことのない高いハードルが現れた。さらに2019年には関西地方を大型台風が襲い、村田農園のハウスも大きな被害を受けた。「天災に対していかに対応するか、リスクヘッジしていくかが大事な問題なんです。あの台風によってパイプハウス20数棟が全壊してしまった。当然、お客さんにも市場にも影響が出ました。そこで、普及指導員さんと一緒に京都地方気象台に勉強に出かけたこともありました」と村田さん。農作物を作るだけでなくグローバルな視点に立つため、環境やスタッフへの配慮から、ASIAGAPの認証を2020年1月に取得した。


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 :硬く締まった肉質で、甘味がある賀茂なす
 :賀茂なすの苗をチェックする村田さん。賀茂なすは風で葉が触れるだけで傷が入りやすく、非常に繊細で栽培も難しいという


正しいことを、まじめにひたむきに
 今、村田さんは新しい品目の育成に取り組んでいる。果汁加工業者から「京都でレモンはできないか?」と言われたのをきっかけに、数年前から野菜が作りにくい場所にレモンの木を植えたところ、順調に育ってきているという。「『京檸檬プロジェクト』というのですが、宝酒造さんや伊藤園さんなども参加し、生産・加工・販売会社が一体となって取り組んでいます。加工・販売会社の人を農園に招いて、トラクターを運転して肥料をまいてもらい、『農家ってこういうところなんだ』ということを体験してもらいます。喜んでいますよ、皆さん」と村田さんは笑顔になった。

202207_yokogao_murata1.jpg 何よりも継続できる農業こそが大切という村田さんに、「やっぱり競争に勝たなければという思いですか?」と、ちょっと意地悪な質問をすると、「もちろん利益を考えないわけではないのですが、儲かるからやるのではなく、正しいことをまじめにやること、人を泣かせたらあかん、人のことを悪く言うたらあかんと自分自身に言い聞かせてやっています」と、まっすぐな目で答えてくれた。そして、最後に念を押すようにこう言った。「ほんまに普及指導員さんにはめちゃめちゃ感謝しています。技術・経営全般にわたって一緒に伴走してくれた。ともに京都の農業を発展させていくことが僕らの願いです」と目に力がこもった。生産だけでなく、加工・販売会社とともに作り上げていく農業、それこそチームプレイの経営が村田流の理念なのだと感じた。(ライター 上野卓彦 令和3年4月13日取材 協力:京都府山城広域振興局農林商工部 山城北農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」令和3年7月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社村田農園 ホームページ
京都府久世郡久御山町北川顔馬嶋9番地1
TEL:075‐631‐5620