提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


次の世代を見据え、挑戦を重ねて育てた「骨太有明鶏」

2021年10月06日

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(市丸初美さん 佐賀県伊万里市 株式会社百姓屋) 


 住宅地の中にある直売所「百姓屋」で無添加の鶏加工品を味わい、四季折々の花や花苗、多肉植物でいっぱいの花きハウスを見学。
 細い山道をひたすら上がり、経営を支える銘柄鶏「骨太有明鶏」を見にいく。最新式の鶏舎では、ひよこたちがのびのびと育っていた。
 家族の皆が役割を分担し、個性を発揮する百姓屋は、人も花も鶏も生き生きと輝いていた。


「骨太有明鶏」に活路を見いだす
202109_yokogao_hyakushoya10.jpg 北部九州の西に位置する佐賀県伊万里市。三方を山に囲まれ、伊万里湾が深く入り組んだ山あり海ありの地形は、中山間地域で棚田も多く、米麦と合わせて果樹、施設園芸、畜産などとの複合経営が盛んだ。

 株式会社百姓屋の市丸道雄さん・初美さん夫妻も、平成6年の就農時は水田とブロイラーの複合経営だった。道雄さんは、会社員をやめて家業を継いだ。その頃のブロイラー出荷数は年間10万羽。先代の負債もあったため、養鶏はやめることができず、街路樹等で使用する花木の生産もスタートした。当時は自らの人件費も出せず、退職金からの持ち出しで穴埋めする状態だったという。
 そこで市丸夫妻が取り組んだのは、自信を持って消費者に届けられ、付加価値も高い鶏を飼うこと。佐賀県内のJAブロイラー生産農家30戸で生産する「骨太有明鶏」の生産に乗り出した。全飼育期間で抗菌性物質を与えない、いわゆる「無薬鶏」で、「骨太」の名の通り、カルシウムが豊富な有明海のカキ殻を多く含むオリジナル飼料で飼育する若鶏である。

 「こだわりの飼料で育てても、病気をして一回でも治療したら『骨太鶏』は名乗れない。今は全生産量の90%を骨太有明鶏として出荷できていますが、最初は苦労しました」と初美さんは言う。飼育環境の整備には特に気を使う。鶏舎内の適正な温湿度管理や換気、こまめな敷料管理(耕転)などが求められるのだ。
右 :百姓屋の自宅兼事務所


 販路の確実な確保のため、ブランドの認知にも努めてきた。コープかながわ(現在の生活協同組合ユーコープ)とは30年以上のつきあい。初美さんは、消費者との意見交換や交流会に積極的に参加した。「コープかながわの組合員さんは鶏のことをよく学んでくださって、私たちより説明がうまいくらい。全国で鳥インフルエンザが流行した時には募金までいただいて、本当にありがたかった」と初美さん。今でも有明骨太鶏は、固定の取引先である生協や関東圏のチェーンストアを中心に、九州内の一部のスーパーとAコープでしか買えないブランドとして確立している。


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左 :人気の山ん鶏ギフトセット。スモークチキンはムネ肉を使ったあっさり味だが、しっとりとして強い旨みがある。骨太有明鶏を100%使用したソーセージは食べやすくあとをひく味
右 :山ん鶏カレーも化学調味料無添加。冷凍で販売中


ブランド周知のための食肉加工
 「子どもの行事にも参加できないくらい手間暇をかけて育てた鶏を知ってもらいたい。そのおいしさを実感してほしいと始めました。だからB級品を使った加工じゃないんです」。
 平成16年に生まれたオリジナル加工品シリーズ「山ん鶏」には、スモークチキン、ローストチキン、ソーセージなどがある。「無薬の鶏を加工するのだから、無添加でつくりたい」と、県内の燻製マイスターと何度も試作を重ね、塩と香辛料のみのシリーズができあがった。加工にまわす量は全生産量の3%。個人で催事をまわり、販路を開拓していた。鶏肉は買い戻してから加工するので儲けは少なかったが、「安心安全でおいしい」と口コミで拡がっていった。商談会などに積極的に参加することで、大手通販事業者との取引が始まり、県内JAのアンテナショップ等でギフトとして扱われるようになった。現在は通販会社のほかに大手百貨店などとも取引を行い、日本航空の機内食にも採用されて話題となった。


次世代のための投資
 コンピューター制御のセミウィンドレス鶏舎を県内で最初に建設したのは平成19年。後継者である長男が、農業大学校を卒業したことを機に踏み切った。温度管理、給水、給餌など、すべてが自動制御である。わからないことも多く、同様の鶏舎を持つ鹿児島などの農家に視察研修にも出かけたという。


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左 :平成28年に完成した最新式ウィンドレス鶏舎
右 :すべてコンピューター制御の鶏舎。ここで鶏たちは平飼いでのびのびと飼育されている


 「思い切った投資だったけれど、子ども世代につなぐため」だったと語る。現在、百姓屋では、長男、長男の妻、長女、次女、次女の夫と家族全員が就農し、ブロイラー、花き、事務スタッフなど、それぞれの持ち場を守っている。平成28年にも佐賀県内第一号の最新式ウィンドレス鶏舎を導入し、規模拡大と作業の効率化を図っている。


さらなる交流の場づくりを
 平成20年、初美さんはもうひとつの夢の実現へ踏み出す。直売所のオープンだ。鶏糞の有効活用による花きや花苗の生産も軌道に乗っており、自社加工品「山ん鶏」シリーズと合わせて販売する場所が欲しかった。また、伊万里の農産物・加工品を販売しながら、消費者や地域の交流拠点にしたいという願いがあったのだ。


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左 :伊万里市の住宅地に民家のようにたたずむ直売所「百姓屋」
右 :山ん鶏シリーズに加え、鶏飯の具(写真左)なども販売。直売所の喫茶スペースでも味わえる(取材当時は一時休止中)


 「創業時につくった家族経営協定にも、しっかり盛り込んでいたんですよね」と笑う初美さんだが、補助事業申請から資金借入まで、初美さん名義で行うことは困難を極めた。「経営主でない女性が金融機関から単独で融資を受けた例がない」と話が先に進まなかった。
 「そんな時に応援してくれたのが、当時お世話になっていた普及指導員の黒川さん。『初美さんは認定農業者として頑張っているのに、何で認めないのか』と関係機関の間に入って後押しをしてくれました。思えば、人生の節目節目に現れて、背中を押してくれた普及センターの女性職員がいた。『こんな賞があるから応募してみらんね』なんていう情報もたくさんもらえました」。


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左 :花きハウスはのどかな田んぼの真ん中にある
右 :多肉植物など、若い感覚で流行の植物も栽培する


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左 :花担当のスタッフ谷口未佳さん(次女)
右 :女性スタッフは植物雑貨コーディネーターなどの資格も取得し、ギフト商品なども開発


 この時の経験もあり、初美さんは、女性や若者が生き生きと働くことのできる農業を強く意識するようになる。百姓屋でも女性が安心して働けるよう、トイレなどの作業環境の整備、産前産後・育児休暇の創設など、福利厚生の充実と時差出勤制度を取り入れた。花き部門では、ガーデニングコーディネーターなどの資格取得を勧め、スキルアップにつなげている。平成28年には、さが農業女子「カチカチ農楽が~る」(女性農業者グループ)を結成し、令和2年から会長も務めている。
 まだまだ第一線で働きつつ、「これからは後継者の育成に力を入れていきたい」と抱負を語る初美さんの傍らで、若者たちも生き生きと瞳を輝かせていた。(ライター 森千鶴子 令和2年6月19日取材 協力:佐賀県伊万里農林事務所西松浦農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」令和2年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社百姓屋 ホームページ
佐賀県伊万里市波多津町津留2482-1
TEL 0955-25-0363


直売所「百姓屋」
唐津市北波多田中808-10
TEL 0955-51-2061