提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


きちんとした農場経営の意思を持って進めていく。それが会社の成長にもつながる

2021年09月10日

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(山本裕之さん 長野県御代田町 株式会社ベジアーツ)


 長野県の東端、浅間山の麓に広がる佐久平は、冷涼な気候と関東圏にも近い立地を活かして、古くから高原野菜の産地として知られている。佐久平の東部、避暑地として名高い軽井沢や、旧跡が多い小諸に隣接する北佐久郡御代田(みよた)町に、株式会社ベジアーツはある。

202108_yokogao_vegearts2.jpg 社員は10名、パートや外国からの技能実習生など40名近い従業員を抱える、農産物の生産と販売を行う会社である。主な品目はレタス類で、ほかにハクサイ、ホウレンソウなど約30haの栽培面積を有する。農地の標高は700~1300m、昼夜の寒暖差が大きいことから、糖度の高いおいしい野菜を生産できる利点の反面、露地野菜は栽培期間が限定されてしまう。このため、気温が低い季節に県外へ農地を求めて栽培期間の延長を図った時期もあったが、昨年から施設化を推進し、パクチー(シャンツァイ)の生産を始めた。また、大手ハンバーガーチェーンと共同出資の会社を設立するなど、経営の多角化にも取り組んでいる。
右 :浅間山を望むハクサイの圃場


社長の意思を社員みんなが共有する会社
 ベジアーツの山本裕之社長は、今年40歳。とにかく従業員からの評価が高い。この社長に惹かれて就職したという社員が大勢いる。それほど信頼されているので、社長の考えを社員みんなが理解する。社長は社員の意見を取り入れ尊重する。
 山本さんは大学で経営法学を学び、営業マンとして半年過ごしたのち故郷へ戻り、父親の経営する北佐久園芸出荷組合に就職。野菜を中心とした農産物の流通販売とともに農業にも取り組むようになった。学生時代はそれほど関心がなかった農業も、「やってみたら面白いし、体を動かした分だけ成果が出る」と、のめり込んだという。北佐久園芸は仲卸がメイン。仕入れや販売の業務に従事しながら、併設された直営農場の仕事も任されるようになり、次第にその農場を大きくしたいと思うようになった。


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左 :ベジアーツ本社全景
右 :社員や研修生とともに。20代から30代前半が多く、みんな若い


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左 :早朝から進められるレタスの収穫作業
右 :レタスの植え付けは、間隔表示されたマルチを使用


「作った野菜は自分のアート作品」社名に思いを込める
 父親が登記してあった農事組合法人を、平成21年に全面的に任されることになったが、当時はまだ20代後半の若さで、プレッシャーも相当あった。3年後にベジアーツへと名称を変え、さらに3年後の平成27年には株式会社へ組織変更した。
 組織変更は、人材の雇用が大きなきっかけだった。大学への勧誘や各種就職相談会へ出かけた際、「農事組合法人では分かりにくい」「ダサい」という声を聞き、名称変更と併せて株式会社化を思いついた。
 名称変更では「仕事は自分の作品」という先輩社員の口癖を思い出し、「できあがった農産物は自分の芸術作品である」という思いから、ベジタブルとアートを合わせた「ベジアーツ」という社名が浮かんだ。今でも山本さんは「育てている『人・土・野菜』すべてが我々の作品である」をモットーとしている。


「おいしい野菜を作る」という信念で野菜を生産
 同社の特徴の一つは、オリジナル肥料「収穫の朝」を使っていること。葉物野菜に適した成分組成を研究し、現在も少しずつモデルチェンジしている。この肥料は「おいしい野菜を作っていきたい」という信念がベースになっており、一緒に出荷する協力農家も利用している。


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左 :協力農家も一緒に出荷するために、早朝から荷を運び込んでくる
右 :収穫されたレタスはすぐにパック詰めされ、真空予冷庫へ


 市場出荷もあるが、メインはスーパーへの直接販売。需要が一番多い首都圏に加え、県内の大手スーパーや関東および静岡県まで出荷範囲は広い。このほか、モスバーガーを展開する株式会社モスフードサービスと共同出資で作った株式会社モスファーム信州では、農産物を各地の店舗へと出荷している。
 昨年7月には、レタス、ホウレンソウ、ハクサイ、パクチーなどの品目でASIAGAPを取得した。第三者のお墨付きがもらえたことで全社員の意識が大きく変わった上に、農場内のわかりやすい表示は外国からの技能実習生にも好評だ。


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左 :ASIAGAP取得を機に、分かりやすく整理整頓された農機具置き場
右 :分かりやすい表示は建物の随所に見られる。外国からの技能実習生にも理解できる言葉で書かれ、好評だ


自らの経験をもとにした人材育成
 大学生の新卒採用は平成26年から始めた。研修生として入ってきた人も、最初から社員として雇った人もいる。それぞれの人柄や仕事ぶりを見て判断するが、最も尊重するのはその人の考え方だ。経営者タイプの人には独立を応援するし、ベジアーツを大きくしたい人とは一緒に歩んでいく。県の里親研修制度に基づいた就農希望者の里親にもなっており、独立希望者の支援もしている。


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左 :仕事に対して前向きに取り組む社員は、いつも明るい
右 :定植を待つ育苗ハウスのレタス苗


 規模拡大が進んで社員が増えたとはいえ、全員が40歳の社長よりも若い。「意欲を持って取り組む人たちを活かす方法を」と、部門別に農場長制を敷いて任せることにした。これは社長自らの経験によるところが大きい。20代で任された農場経営という仕事は、すべてが順風満帆だったわけではない。しかし、仕事を展開するためのノウハウは、重圧があったからこそ得られたもの。社員の成長を促し、会社全体の成長を考えれば、この方法を取ることが、今はベストと考えている。社員に責任感も生まれ、より良い方向に舵取りができていると感じている。


202108_yokogao_vegearts15.jpg組織活動への積極的な参加が、人とのつながりを広げる
 山本さんは20代の頃から農業青年クラブ「PALネットながの」で活動してきた。現在は、より上の年代が中心の「長野県農業士協会」に所属し、副会長としてその活躍は目覚ましい。
 PALネットながのに加入したのは、普及指導員からの勧めだった。気軽な気持ちで参加したのだが、とても楽しかった。30代前半にかけては外に出ていくのが面白く、そこで多くの人に出会ったことが今に生きている。ただし、組織活動と農業経営のバランスを取るのは難しい。社員をはじめとするまわりの人たちの理解と後押しがあってこそだと感じている。
右 :普及指導員との打ち合わせ風景


世の変化に合わせて柔軟に、果敢に挑戦
 「きちんとした農場経営の意思を持って進めていく」。これが会社の成長にもつながると山本さんは考えている。
 ITへのこだわりはないが、使えるものは使っていきたいと、ハウスのモニタリングや社員との情報共有で大いに活用している。
 経営の核であるレタスは、相場の変動が大きい品目だ。異なる品目にも取り組むことが必要と、パクチーやケールにも手を広げてきた。また、千葉のハーブ専門会社と共同出資で新しい会社を立ち上げ、ハーブの包装ラインも整備した。


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左 :新しい品目のパクチーを栽培するハウス群
右 :生育中のパクチー。ステイホーム期間中には「おうちでパクチー」という商品展開も行った


 新型コロナウイルスが猛威を振るう世の中になり、生鮮野菜を裸で店頭に並べることの是非が言われる時代になってくるだろう。レタス1個でも包装で付加価値が上がるなら、それに対応しないといけない。産地でやれることはやっていく。そのために包装のラインも設けた。さらに、栗を新規品目として導入し、生産から加工までを行う計画も進めている。

 従来品目での規模拡大か、品目の多様化か、あるいは包装という形を取るのか。会社の成長に向けて、検討しなければならない課題はいくつもあるが、今までと同じようにしていこうとは考えていない。GAPへの取り組みと同じように、難しいといわれれば余計に燃えてくる。チャレンジ精神を持って進んでいくことは、これからも変わらない。(山本宗輝、福田 久 令和2年5月12日取材 協力:長野県佐久農業農村支援センター)
●月刊「技術と普及」令和2年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社ベジアーツ ホームページ
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