提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


自家製の麹、米粉を使って味噌やスイーツを手作り! 体験工房も備え、地域の憩いの場へ

2021年04月02日

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左から 寺坂康夫さん、長女のさくらさん、三男の大地さん、奥様の律子さん(福井県越前町 あさひ愛農園)


「子どもに安全なものを食べさせたい」と就農を決意
 福井県越前町は、嶺北地方の西端に位置する人口約2万1000人の町。2005年に4つの町村が合併して新生「越前町」が発足した。その中の一つ、旧朝日町にある「あさひ愛農園」のスタートは、現代表を務める寺坂大地さんの父、康夫さんが34歳で脱サラし、米と桃の栽培を始めた時にさかのぼる。
 「きっかけは長男がダウン症で生まれてきたことでした。最初は『なぜ自分の子どもが?』という思いに駆られましたが、次第に『この子と人生を楽しもう』という気持ちに変わっていきました。そして、豊かな人生を送るには『食』や『健康』が大切であり、『体によいもの、安全なものを子どもに食べさせたい』と米作りを始めました。とはいえ現実は厳しく、田んぼの畔塗りには苦労しましたね。農業だけでは食べていけないので、一時期は土木作業もかけ持ちしていました」。
 康夫さんは就農当初から無農薬栽培に挑戦。「雑草のヒエが繁って、田んぼが真っ青になったこともありました」と当時を振り返る。その後、経験を積みながら技術を磨き、今日に至るまで無農薬(一部、減農薬)・無化学肥料の米作りを続けている。


米麹を多く配合した甘くまろやかな味噌を作る
202103_yokogao_asahiaino2.jpg あさひ愛農園が水稲栽培とともに長年取り組んでいるのが、味噌の製造だ。「寺坂家は代々麹屋を営んでいたので、それを引き継ぎ、自家製の米麹と福井県産の大豆を使って味噌作りを始めました」と話すのは、康夫さんの妻の律子さん。「商品には地元の人に愛されることを願って『朝日みそ』と名付けました。消費量が減ってきた味噌を作って、日本の食文化を守りたいという思いもありましたね」。

 「朝日みそ」は塩(赤穂の天塩)を控えて麹を多めに配合し、甘くまろやかな味わいが特徴。生きた麹を食卓に届けるため、保存料などの添加物は使用していない。しかし、当時は味噌を常温で販売するのが通常で、発酵ガスが発生して中身が容器からあふれ出すこともたびたびあった。寺坂夫妻は何度もスーパーに足を運び、「冷蔵ショーケースで保管してほしい」と頭を下げたという。その熱意が実り、また品質と味を支持する顧客も増え、「朝日みそ」の評判は広まっていった。
右 :あさひ愛農園の「玄米みそ」


 律子さんはさらに、地域婦人会や公民館、学校、保育園などに出向いて味噌作りの教室を開催。「味噌の作り方はシンプルで、材料は大豆と麹と塩のみ。それらを混ぜて放っておくだけで完成します。かつては『手前みそ』として各家庭で作られていた味噌を、今の人たちにも手軽に作ってもらい、各家オリジナルの味を楽しんでほしいと思いました」。


味噌とスイーツの販売と味噌作りの体験コーナーを開始
 2009年、自家製味噌の製造・販売と味噌作りの体験コーナーを設けた「手づくりみそ工房」を、2013年にはスイーツ部門の「ハレノヒ」をオープン。店内は明るいながらも落ち着いた雰囲気で、一角には薪ストーブやソファーなどが配置されている。内装のデザインは律子さんが手がけた。「若い人から年配の方まで、訪れた人が一息つける地域の憩いの場を作りたかったのです」。


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左 :手づくりみそ工房・ハレノヒ外観(左)と内観(右)


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左 :ショーケースには味噌やスイーツが並ぶ
右 :薪ストーブやソファーなどが置かれた店内


 店舗では味噌のほかに、米粉や麹などを使ったスイーツも販売。「初めは米粉のシフォンケーキなどをこじんまり提供する予定で、そもそもの設計では1日に4つぐらいしかケーキを焼けない小さなオーブンでした。でも、いざ作り始めると『いろいろなスイーツにチャレンジしたい』と意欲が湧いてきて、最終的には2階を大改装してスイーツ専門の厨房を作ることにしました」と律子さん。


こだわりの原材料でおいしいスイーツを開発
 スイーツの商品開発は、大学在学中に家業に携わることを決意した三男の大地さん主導で進められた。「帰省した時に両親から店を作る計画を聞きました。2人とも50歳を過ぎていましたが、常に前を向いている姿がすばらしく、自分もそんな生き方をしたいと思いました」。
 大学卒業後、大地さんはプロのパティシエからスイーツ作りの基本を教わり、何度も試作を重ねた。「当初は体によいことを突き詰めて、味が二の次になっていました。でも、『おいしく笑って健康で』と農園の理念にあるように、まずおいしくなければ笑顔にはなれません。原材料には自家産の特別栽培米(無農薬の米)や生きた麹などを使用し、添加物は使わず、納得できる味を追求しました」。


加工品の製造・販売で米の付加価値を高める
 店舗で販売されているスイーツは、開店時から人気を誇る米粉100%のシフォンケーキやロールケーキ、焼き菓子、プリン(自家製味噌入り)、麹のレアチーズなど。味噌は定番の「朝日みそ」や玄米麹を使った「玄米みそ」のほか、「柚子味噌」「胡麻味噌」「山椒味噌」などの田楽味噌も展開している。味噌作り体験には年間500件近くの申し込みがあり、観光ルートにも組み込まれ、県外や海外からの参加者も増加。出張味噌作り教室も継続して行っている。


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左から 人気商品「農家のプリン」、麹のレアチーズ、スイートコーン入り米粉のパン


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左 :みそどら(あん・バター)
右 :ショップでは特別栽培米の販売も


 2019年度は水稲、味噌、スイーツの3部門の合計で約5000万円の売上を計上。一方、農場の規模は5ha強で、ピーク時の半分以下に縮小している。「今は収量の8割を加工米として利用しています。加工することで付加価値が高まり、面積当たりの収益も上がります。60kgの米の価格が2万円ならば、加工品は7~8万円になり、5haでも20ha分の売上になる感覚です」と大地さん。

 現在、従業員はパートやアルバイトを含め11人。店舗および味噌部門は、長女のさくらさんが責任者を務めている。次男の寛志さんも一時期店の仕事に関わっていたが、今は独立して神奈川県鎌倉市に麹を扱う店を構えている。


味噌を使った仕掛けで和食文化を世界へ
202103_yokogao_asahiaino13.jpg 2019年6月にあさひ愛農園の代表に就任した大地さんは、どのような経営をめざしているのだろうか。
 「まずは、両親がこだわってきた『本物のおいしさ』を引き続きお客様へ届けていきます。その上で、麹や味噌を使っていろいろな仕掛けを作っていきたい。たとえば、味噌をクッキーや紅茶みたいなオシャレな箱に入れて、使うのが楽しくなるような、今までにないアイデアを練っています。近年は世界的に和食がブームなので、いつか海外にも進出したいですね。それが味噌汁カフェのような形なのか、まだ定かではありませんが、味噌および和食文化を発信し、その拠点が福井にあることを伝えていきたい。そんなことを兄や姉と話し合っています」。地域のつながりを大事にしながら、世界を視野へ。大地さんの夢はふくらむばかりだ。
右 :味噌作りの厨房
(ライター 北野知美 令和元年11月15日取材 協力:福井県丹南農林総合事務所農業経営支援部)
●月刊「技術と普及」令和2年3月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


あさひ愛農園 手づくりみそ工房・ハレノヒ ホームページ
福井県丹生郡越前町東内郡4-604
TEL:0778-34-0643