提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


サツマイモ輸出のトップランナー、くしまアオイファームの取り組み

2020年11月10日

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池田 誠さん (宮崎県串間市 株式会社くしまアオイファーム)


サツマイモの輸出シェア36%超
 宮崎県の最南端に位置する串間市では、"赤ほや"と呼ばれる水はけのよい火山灰土壌の台地で古くからサツマイモの栽培が行われ、日本有数の産地となっている。同市の株式会社くしまアオイファームは、サツマイモの生産・加工・販売を一貫して手がける農業法人として2013年に設立された。設立当初より東南アジアに向けた輸出に乗り出し、年間輸出量は1025t、売上高は3億1500万円に及ぶ(2019年7月期決算)。日本から輸出されるサツマイモの、実に約36%のシェアを一農業法人が占めている計算だ。
 「平成28年度輸出に取り組む優良事業者表彰」で農林水産大臣賞を受賞するなど、急成長を続けている。


地域の農業を変えられるのか
202011_yokogao_kushima2.jpg 同社の創業は昭和初期、代表取締役社長である池田さんの祖父がデンプン用サツマイモの栽培に着手したことに始まる。1992年、父親の病を受けて池田さんが就農すると、市場出荷を縮小しつつ全国に直接営業を展開していった。
 一方、串間市の地元JAでは、2004年頃にサツマイモの輸出を日本で初めてスタートさせる。香港を皮切りに宮崎産サツマイモは人気を博し、シンガポールや台湾にも販路を拡大。当然、池田さんが作ったサツマイモも輸出されることになった。
 「当初は香港の高級スーパー向けの微々たる出荷量で、1袋500gの商品が日本円にして800円で販売されていました。ところが、袋代やその他の経費を差し引くと、私の手取りは45円ほど。これはどう考えてもおかしい。だったら自分が作ったサツマイモを自力で、もしくは私に賛同してくれる農家を集めて輸出できれば、消費者には安く、生産者の手取りは、より高くできるのではないか。そう思ったのが法人化に至る、そもそものきっかけです」。
右 :くしまアオイファームの自社農場


 もう一つ、池田さんには地域の農業に対する忸怩(じくじ)たる思いがあった。
 「串間は保守的で閉鎖性が強い地域で、そのくせ郷土愛には乏しく、農家も総じて自分の仕事に誇りを持てずにいます。かくいう私も、かつては農業があまり好きではありませんでした。でも40歳を迎えて、農業という仕事を誇れるようになろう、そのためには退路を断って、まず自分自身が変わらなければならない。九州一の産地である串間市の青果用サツマイモに絞った私の事業は、絶対に間違っていないという確信がありました。そして私が起業し、スピード感を持って有言実行することで、地域の農業に活力を与えられるのではないかと思ったのです」。


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左 :契約農家から荷受けされたサツマイモ
右 :2017年に完成した出荷場。左の建物が大型低温貯蔵庫


輸出に向けた取り組み
(1)小ぶりのサツマイモを生産
 東南アジアでは、小ぶりのサツマイモを炊飯器や電子レンジで蒸して食べることが多く、需要も高いことから、独自に小畦密植栽培法を開発。輸出に特化した小ぶりなサツマイモの効率的な生産が可能となった。

(2)輸出用包装資材の開発に協力
 輸出の船便では、結露によるカビや腐敗が問題となっていた。同社は住友ベークライト(株)の包装資材開発に協力、結露を防止するフィルムを採用したことで、廃棄率は従来の6分の1ほどに低減した。

(3)安心・安全への取り組み
 化学肥料を減らす取り組みに加え、農薬の使用は作付け時期の数回のみにとどめ、宮崎県農作物栽培慣行基準の50%以下を実現している。また、土壌で分解される生分解性マルチシートへの切り替えを進め、廃棄していたフィルムの削減につなげている。令和元年11月にはJGAP認証を取得予定で、出荷場ではHACCPの認証取得もめざしている。


最先端の出荷場を新設
 2017年、サツマイモ選果場としては日本トップクラスの出荷場を新設した。荷受けから洗浄、乾燥、調製、梱包、出荷までをワンストップで行え、日量約20tのサツマイモの出荷が可能だ。
 「当時、サツマイモの自動出荷ラインは、外皮が傷だらけになってしまうため存在しませんでした。ひとまず効率を求めて設計したのですが、実際に動かしてみないとわからないことも多く、今でも日々改善を続けています。ただ、以前の出荷場は、同じ量を出すにしてもすごく時間がかかっていたので、スタッフの負担は比べ物にならないぐらい減っているはず。今後も最新技術を採り入れて、機械化できるところは可能な限り機械化する方針です」。
 また、収容量1200tの大型低温貯蔵庫に加え、収穫時についた傷を一定の高温多湿条件下で修復するキュアリング貯蔵庫(250t収容)も南九州で初めて導入。光センサーで糖度、空洞、腐れを測定できる非破壊内部品位計もサツマイモで初めて導入した。


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左 :大型低温貯蔵庫 / 右 :サツマイモ洗浄機


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左 :ひげ根の処理も機械にはできない重要な仕事だ
右 :サツマイモの袋詰めは人の手で行う


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左・右 :効率を追求した出荷ライン


 「輸出においては、なにはともあれシェアを取りたかった。シェアは力です。当社はどうしても対JAという形で見られがちですが、シェアを持った時にはJAも当社を認めざるを得ない。よって、高いシェアを獲得・維持するためにも、高品質なものを安定的に供給できるこの出荷場は、是が非でも必要でした」。


今後の展望
202011_yokogao_kushima8.jpg  現在、同社が輸出するサツマイモは香港、シンガポール、台湾の3国で99%を占めている。だが、直近の1年ではタイ、マカオのほか欧州にもわずかながら輸出実績がある。令和元年2月には、中東のドバイで開催された世界最大級の食品見本市「ガルフード」に出展して、日本のサツマイモを積極的にアピールした。
 「中東、欧州、北米など、まずは青果で輸出できるところを開拓して、加工品につなげるプランです。最初は少量でも、徐々にお客様がついて広まっていけばいい。プラスアルファの要素として一緒にやきいもを販売したりと、食べ方の提案や日本のサツマイモの食文化を伝えることにも力を注ぎたいと考えています」。
右 :社屋の一角では日替わり品種のやきいもを販売している


輸出は地域の活性化のために
 2018年10月、同社は宮崎大学農学部との共同研究講座「MTALab」を設立。育種、機能性、栽培貯蔵技術、未利用資源活用など、サツマイモに関する複数の共同開発研究を通して、新たなイノベーションの創出と人材育成を目指している。

 また、契約農家の事業継承を支援する取り組みも始めている。高齢化や後継者不足に伴い、農地を借り上げ、農家は社員として農業を続ける仕組みだ。併せて農業機械のリース代行や繁忙期の作業代行なども行っている。現在、4名の元農家が社員として働いている。


202011_yokogao_kushima12.jpg 同社の事業は農業界のみならず、地域の幅広い資源を巻き込みながら新たなフェーズに突入したといえるだろう。
 最後に、池田さんに農業法人が輸出に取り組む上で大切な心構えを聞いた。

 「農業は国の補助が手厚い産業です。これだけ各種の助成金が支払われている産業は、ほかにはありません。事実、当社の出荷場も総工費約10億円のうち約4億円は国の助成金で賄われています。とはいえ、助成金には、もらう責任があると思っています。それに見合う効果をお返ししなければならない。
 誰のために輸出するのか? 自分の利益のためだけの輸出ならば、しないほうがいい。私が一戸の農家として輸出を始めることは絶対になかったでしょう。する意味がないからです。第一、単独では、数のロットを絶対揃えられないし、現地が求めているものをたぶん出せないと思います。
 農業法人は経営者の自覚の有無に関わらず、公的機関、公の器としての立場が要求されます。それを忘れると地域の賛同も得られませんし、規模が大きくなればなるほど、いろいろな部分で対立を生んでしまいます。
 日本の農産物を世界に広めていくためには、長期的な視点で戦略的に、生産者にもっと利益を還元できるようなシステムを考えることが重要ではないでしょうか」。(佐々木優 令和元年8月20日取材)
●月刊「技術と普及」令和元年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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