提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


茶葉から作ったスイーツとともに高知・仁淀川町のお茶をアピール

2020年09月04日

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山中 由貴さん(高知県仁淀川町 株式会社池川茶園)


 高知市内から車で小一時間、四万十川と並ぶ清流として知られ、その神秘的な水の色から「仁淀ブルー」とも呼ばれる仁淀川。上流域では約400年前からお茶が作られ、土佐藩主に献上されてきた。水清く、山は高くて深い渓谷があり、短い日照時間と寒暖の差が作る川霧。その気象環境が揃う仁淀川のお茶は、繊細で風味豊かな逸品となる。
 「『高知県でお茶を作っているの?』とびっくりされることがあるんです」と苦笑するのは、株式会社池川茶園代表取締役社長の山中由貴さんだ。お茶を飲んでもらうためには、お茶だけでなく「やっぱりスイーツも必要」と、茶葉を使ったプリンやパフェ、ロールケーキを作ろうと決意した背景には、茶の原料原産地の表示義務化があった。


「お茶に合うお菓子」でお茶を飲んでもらおう
202009_yokogao_ikegawa2.jpg 仁淀川町では、個人経営の茶農家が荒茶工場を持つことが難しかったため、平成5年12月、茶農家8軒が集まって池川茶業組合が結成された。環境に配慮して栽培された「旨い茶」は好評で、平成13、14、16年と高知県茶品評会で農林水産大臣賞を受賞。平成20年には関西茶品評会でも農林水産大臣賞を受賞したことで、ブレンド茶として京都や静岡に出荷、売上向上に結びついた。

 ところが、平成16年度から農産物加工品の原料原産地表示が義務づけられることになり、納入先は県産以外の表示を避けたいと、需要が大幅に減少。茶葉の買取価格の大幅な下落に直面することになった。また、ペットボトル茶の普及とともに急須のない家庭が増えるなど、お茶を取り巻く環境に変化が現れていた。
 「何とかしなければいかん!」と思い立った山中さんたち池川茶業組合の茶農家の女性たちは、「旨い茶」を生産する男たちを助け、さらに、先祖代々受け継いできた茶畑を未来へ残していくために一念発起。女性ならではの発想でたどり着いたのが、「お茶を飲んでもらうためには何が必要か?」→「お茶に合うお菓子だ」というアイデアだった。
右 :清流仁淀川の河岸斜面に広がる池川茶園の茶畑


プロの力を借りプリンを完成
 茶農家の女性たちは役場の調理室に集まり、茶菓子の試作をスタートさせた。茶だんご、茶羊羹、茶の花を使った菓子など創意工夫を重ねていったが、「しょせんは素人。『何か足りないね~』なんて言い合って困り果てていました」と山中さん。そんな時に声をかけてくれたのが、仁淀川町役場の企画課長だった。

 平成21年、農商工等連携事業化支援事業を活用し、地元で商品開発などを手がける株式会社フードプランと提携して、茶を原料とする菓子の試作を開始する。さらに、平成22年から始まった高知県の個人・小規模事業者対象のビジネス実践研修「目指せ!弥太郎 商人塾」に参加し、郷土の実業家で三菱財閥創始者の岩崎弥太郎のような大商人になるべく、女性たちの奮闘が始まった。


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左 :一番人気の「茶畑プリン」。左がかぶせ茶、右がほうじ茶
右 :池川茶園で手塩にかけて育てられたお茶がスイーツの素材に


 「東京にある県のアンテナショップ『まるごと高知』で、20~60代の女性に試食してもらい、私たちが作るお菓子で何が一番おいしいかをリサーチしたんです」。10種類の菓子のうちプリンと水餅に人気が集まり、商品化が決定。さらなるおいしさを求めて県下香南市の「菓子工房コンセルト」のシェフを招き、6人の女性たちの池川スイーツ作りがスタートした。「無我夢中でしたね。特にプリンにはこだわり、試行錯誤の連続でした。グラニュー糖だと甘くなり過ぎてお茶の風味が消えてしまう。ある時、ハチミツの箱を見てピンときました」。

 こうして完成したのが、かぶせ茶とほうじ茶のプリン。茶樹に覆いをかけて遮光するなど手塩にかけて育てられるかぶせ茶は、玉露のような深い甘みとうま味がある。緑茶を強火で焙煎したほうじ茶でプリンを試作した時には「一口食べたスタッフが悲鳴をあげるほどおいしいかったんです」と山中さんは笑う。


池川茶園工房カフェでバラエティ豊かな手作りスイーツを提供
 平成23年4月に株式会社池川茶園を設立。清流仁淀川のほとりにある元居酒屋の建物を借り受け、ご主人たちが総出で店舗を改装し、「池川茶園工房カフェ」をオープンさせた。現在正社員は3人で、パートを含め女性ばかり7~8人で加工・販売を手がけている。「『スイーツ作りを機械化したら?』と言われましたが、うちの特徴はあくまで手作り」と山中さん。初年度の売上は予想もしなかった1500万円。たびたびテレビや雑誌に取り上げられ、令和元年には売上が初年度の2倍以上に伸びた。


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左 :カフェは仁淀川のほとりに建つ元居酒屋を改装したもの
右 :カフェ入口にある手書きのメニューボード


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左 :池川茶園工房カフェで加工・販売を手がける女性スタッフたち
右 :白を基調としたカウンターにはお土産用の商品が並ぶ


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左 :池川茶園のスイーツはあくまで手作りにこだわる
右 :商品の包装も、すべて女性スタッフが行う


 商品も「プリンだけではさみしい」と、中小機構の補助金制度を利用して開発に取り組み、現在は「プレミアム茶畑プリン」をはじめ「茶畑ロール」「茶畑ティラミス」「ブランデーケーキ 茶(さ)くら」「茶畑パフェ」「茶畑の生チョコ 茶のつぼみ」「パウンドケーキ」「クッキー」など多くの商品を提供している。カフェには、高知市内をはじめ四国各地から老若男女が訪れる。「仁淀川のきれいな流れを楽しみながらカフェでくつろいでもらえる、この環境はありがたい」と山中さんは話す。


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左 :一番茶の中でも高級な茶葉を厳選した「霧の贅」(左)と、まろやかな味と香り高い煎茶「霧の薫」(右)
右 :一般的な抹茶ではなく、煎茶パウダーが入った自家製ソフトクリーム


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左 :香りしっかり、味わいしっとりの「茶畑パウンド」
中 :「1年に1個の新スイーツ」を目標に商品化されたダックワーズ「茶畑 小判」
右 :「茶畑クッキー」


池川茶の文化と魅力を伝え残す
 仁淀川のお茶のすばらしさを誇りとする山中さんだが、その一方で地区で進む過疎化を憂いている。「だからこそやめたくない」と山中さん。仁淀川のお茶のおいしさは、NHKの人気番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」に出演した茶師十段・前田文男氏にも高く評価されている。「仁淀川においしいお茶があることを多くの人に知ってもらうことが目標ですから、やり続けます。主人も『お前が頑張っていれば、僕も頑張れるんだ』なんて言ってくれます。私がのんきにしていたら、主人が許してくれませんよ!」。そう言って、山中さんは照れたように微笑んだ。


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左 :カフェの一角に設けられたおしゃれなテーブル席
右 :カフェのオープンスペースでは仁淀川のせせらぎも聞こえる


 過疎化、後継者不足はこの地だけの問題ではないが、自らの生産物をこよなく愛し、最高の商品としてお客さんに楽しんでもらうことに情熱を傾ける山中さんに、土佐の女性の明るさと負けん気の強さ、そしてお茶への深い愛情を感じた。

 池川茶園のホームページには「真直ぐに丁寧に~茶農家が手間隙かけたお茶をスイーツにしました。」と書かれている。茶葉、手作り、地元素材にこだわる池川茶園。「継続は力なり」という言葉を実感する出会いだった。
(ライター 上野卓彦 令和元年6月3日取材 協力:高知県農業振興部農産物マーケティング戦略課/高知県中央西農業振興センター高吾農業改良普及所)
●月刊「技術と普及」令和元年9月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


株式会社池川茶園 ホームページ
高知県吾川郡仁淀川町土居甲695-4
TEL 0889-34-3100