温州みかん、じゃばらの次、新しい柑橘類の誕生間近! みんなの協力があって、思いが現実になる!
2020年06月02日
日本一のみかんの産地といえば和歌山県。なかでも「有田みかん」は2006年に地域団体商標で最初の認定を受けたブランドで、有田は江戸時代の初めからみかんの栽培が行われている"みかんの故郷"である。紀勢本線の和歌山駅を南に走りだすと、車窓には一面に広がるみかん畑の情景が続く。
有田郡広川町で代々みかん農家を営んできた紀伊路屋合同会社の長谷(ながたに)光浩さんは、定番の「温州みかん」に加え、疲労回復や花粉症に効果があるといわれる「じゃばら」を栽培し、加工品として販売している。
「じゃばら」に出会う
有田みかんを生産する「長谷農園」を営む長谷さんがじゃばらに出会ったのは、花粉症の妹夫婦がじゃばらを用いたところ効き目があり、「兄さんのところでこんないい果実を作れないの?」と言われたのがきっかけだった。
じゃばらは、和歌山県北山村に自生するユズ、カボス、橙などと同じ柑橘類だ。花粉症やアレルギー症状の原因である脱顆粒現象を抑制する、柑橘系フラボノイド成分のナリルチンが多く含まれている。近年、テレビや雑誌で取り上げられて注目を集め、人気が高い。「2003年に初めてじゃばら栽培を始め、6年かかってようやく出荷できるようになりました」。
長谷さんは前もって商品化の準備を進めていた。地元広川町商工会が開催した「アグリビジネス塾」を受講。農産物をどう加工し、販売し、採算を取って収益を上げるかを学び、6次産業化のためのアプローチを重ねた。「じゃばらはそのままだと酸味が強いので、料理などに使う果汁、ジャムや果皮粉末に加工して、まず地元の産直市場などで販売しました」。結果は好評で、よく売れた。「価格は結構高いんですよ。でも人気がありましたね」と長谷さんは振り返る。
左 :2003年から栽培を始めたじゃばら
右 :じゃばらの無添加ストレート果汁は人気商品
みかんに比べ、じゃばらの収量は同じ面積で3分の1程度。当然、価格に反映する。「だけど、地元和歌山の人が買ってくれる。ということは都会でも売れると確信したんです」。
和歌山県が産品販売を応援するようになり、東京や大阪の商談会や販売会に出かけ、じゃばらをアピールした。やがて、全国ネットのテレビや新聞が「じゃばらは花粉症に効果がある」と取り上げたことで、認知度は一気に上昇した。
ネットショップの重要性に気づく
紀伊路屋の屋号は2010年から使い始めた。「それまで長谷農園だったけれど、これからは全国のお客さんが相手。家の前の道である熊野古道に興味がある人が多いことから『紀伊路屋』を名乗ることにしました」。そんなとき、町からの補助金でWeb構築の援助を受け、自社サイトを立ち上げた。「最初はプロに丸投げしていたのですが、だんだん自分で更新したくなった。"今、旬の果実は○○ですよ"といった最新情報を載せたいと思い、今は自分でWeb構築をやっています」。
ネットショップを開設してSNSなどで商品や情報を発信し、さらに注文が舞い込んでくる好循環が今も続いている。
「全部、自分でやっています。ネットは24時間営業なので、注文を受け、宅配業者に伝票を出したら、あとは奥さんとパートさんが発送してくれます」。また、eコマース(電子商取引)では、果汁や果皮粉末製品入りの箱を各センターに送るだけで、販売はそれぞれのECサイトが行うため手間がかからない。「ネットの力はすごいです。日本全国から注文が来る。それに去年、紀伊路屋の法人化でアマゾンペイなどの電子決済が使えるようになって、とても便利です」と長谷さん。それまでは会員登録をし、クレジットカード番号を打ち込むなどの手間がかかったが、ワンクリックで買い物ができる。変化する買い物のスタイルに、長谷さんはすぐに対応している。
左 :じゃばらのジャムとマーマレード
中 :じゃばらの果皮を使った和紅茶と粉末
右 :子どもたちに人気の柑橘じゃばらグミ
ネットの便利さを言う一方で、お客さんとの直接対話も続けている。「電話番号を公表しているので、直接注文してくる人も多いんですよ」と、取材中も頻繁に鳴る電話に対応している。忙しいのにと思うが、「子どもに飲ませたいのだけど酸味が強くて」というお客さんの声に、子どもも食べられる「柑橘じゃばらグミ」を思い付き、広川町のクラウドファンディングに登録して商品開発した。消費者との直接対話は、長谷流マーケティングなのだ。
新しい柑橘系果実の誕生?!
紀伊路屋は長谷夫妻とパート3名の5人体制で運営している。2018年10月に合同会社として法人化したが、その背景には県の「アドバイザー派遣事業」による支援があった。現在は税理士の協力を継続中だ。「法人化したことで電子決済などのメリットはありましたが、自分たちの本分は生産者。じゃばらは15tの収量がありますが、果実としては1t程度の出荷で、残りはすべて加工品になります。捨てるところがないのがじゃばらの強みで、果汁はビン詰めしてストレート果汁に、果肉は砂糖で煮込んでジャムに、果皮は乾燥、粉砕、選別して果皮粉末にして、袋詰めやお菓子の材料になったりします。いずれは化粧品になるかもしれません」と、じゃばらの持つ大きな可能性を語る長谷さんだが、商品化に関してはプロに任せたいと言う。自分たちはあくまで、より良い農産物生産にこだわっている。
左 :出荷前の倉庫にはじゃばらの芳香が漂っている
右 :じゃばらの果皮の粉末加工工程
左 :何より衛生を重視する加工場
右 :ラベル張りは手作業で行う
そんな長谷さんが今、取り組もうとしているのが、和歌山県果樹試験場と開発した柑橘系新品種で、じゃばらを中心にいくつもの品種をかけ合わせた独自の新しい果実だ。「2005年に134品種ができて、そこから徐々に絞り込み、2019年現在、2種類にまでなりました。それを品種登録後に栽培し、加工まで行いたいと思っています」と声が弾む。
3年前から農林水産省の「機能性農産物等活用バリューチェーン構築調査」の対象になり、機能性関与成分ナリルチンを含有するじゃばらの実証調査が進められている。2019年3月には、消費者庁に機能性表示食品の届け出も行った。「機能性表示食品の認可が取れればいいですね。そうなれば今までの取り組みが花開きますし、それを契機に地域に普及していってほしいと思います」と笑顔になった。(ライター 上野卓彦 平成31年2月15日取材 協力:和歌山県有田振興局 農林水産振興部 農業水産振興課)
●月刊「技術と普及」令和元年6月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
紀伊路屋合同会社 ホームページ
和歌山県有田郡広川町井関611
0737-62-4925