提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


手摘みの果実をていねいに加工。直営店(カフェ)で生果も加工品も味わってほしい

2019年09月03日

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堀内俊孝さん(奈良県五條市 株式会社堀内果実園)

                
 奈良県吉野は古くから林業の盛んな地域で、吉野杉は秋田杉、木曽檜と並び日本三大美林の一つとされている。吉野川流域は口吉野と呼ばれ、十津川流域の奥吉野と合わせて広大な面積を擁(よう)し、その大半が高地や山間地となっている。
 明治36年、(株)堀内果実園の堀内俊孝さんの六代前が西吉野を開墾。以来、主に林業を営んできた。昭和になり三代目がカキの生産を始めた。そして六代目にあたる堀内さんは、カキを中心にブルーベリー、ウメ、ミカン、スモモ、カリンなどの果実を育て、干し柿、ドライフルーツなどの加工品を販売している。


カキの収穫は年に一回だけ
 「杉や檜などの材木資材を用いて作る土壌は、果実の育成にとてもいいのです」という堀内さん。山の中腹に広がる加工場兼事務所の周囲は、斜面に多くのカキの木が青葉若葉をつけて輝いていた。足を踏み入れると、土はふかふかと柔らかい。「この土で育てたカキやウメなどは、うまいんですよ」と笑顔になる。


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左 :切り開かれた山地に広がる柿畑。遠くに金剛山系が見える
右 :昔ながらの収穫方法でていねいに手摘みする


 この地域では、もともとカキが生産されていた。本格的な育成は、昭和51年からの国営総合農地開発事業(パイロット事業)で果樹用地の造成、灌漑用水の確保などが整備されたことで始まった。品質や収量を向上させ、農家の経営規模を拡大することが目的だった。だが採算を取るためには、個人経営では限界がある。堀内さんは経営を安定させるため、試行錯誤を続けたという。「カキは年に一度しか収穫できないし、収量も気候によって変動する。収益を伸ばすためには、組織化して生産・加工・販売の充実を図らなければいけない。そのためには、会社化するのがいいと考えました」。

 奈良県農林部や農林振興事務所に相談し、2013年に株式会社を設立した。現在、農地は借地も合わせて8ha、スタッフは生産・加工・販売部門それぞれ3人に、堀内社長を合わせて10人の正社員がいる。「中心となっているのはカキです。5haから約150tの収量があります。海外研修生も受け入れていますが、カキは季節ものなので、通年雇用はむずかしい」という。売り上げは、毎年上昇している。


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左 :年に1度、秋の収穫期ともなれば何度もトラックが往復する
右 :収穫期には若いスタッフたちが大活躍


カキ産地としてのプライドを持った商品づくり
 堀内果実園の商品は決して安価ではない。加工品のドライフルーツやシロップ、葛ゼリー、あんぽ柿などのラインナップは、1袋1000円前後の価格帯だ。「おいしいものを作って提供しないとダメだと思います。加工品には出荷できない悪いものを使うイメージがありますが、うちはすべていいものを加工品にしています。おいしい! と思ってもらわないと続かない」と堀内さんは言い切る。


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左 :まるで洋菓子や和菓子のようにも見えるが、いっさい手を加えない自然のままの「あんぽ柿」
右 :「ぶるーべりーこんふぃちゅーる」。完熟したブルーベリーをていねいに手摘みして風味を生かしている


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左 :さわやかな酸味が香ばしい「うめしろっぷ」。冷水、炭酸で割ると口の中に涼風が吹く
右 :「柿ちっぷ」は、熟した柿をセミドライにすることで、甘さがさらに凝縮される


 カキの場合、チップスや干し柿にすると、糖度が高ければ高いほど味わいが増し、食感も良くなる。おいしいものを食べてもらって、商品をおぼえてもらうことが大事。それが結果として会社の利益となり、継続していくことができる。だから、「商品には適正価格をつけることが大切」と堀内さんいう。それはカキ農家としてのプライドでもある。


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ていねいに1枚1枚カットされる「柿ちっぷ」


 加工品でこだわっている点は、素材の良さを引き出すこと。「今、果実の加工品は洋菓子のような商品になる傾向がありますが、行き過ぎは禁物だと思います。素材のおいしさをこそ味わってほしい」と堀内さんはいう。
 「あまり知られていないと思いますが、渋柿と甘柿の両方を栽培しているのは、奈良県と和歌山県だけなのです」。この両県で全国のカキ生産量の35%近くを占めており、「刀根早生」、「平核無(ひらたね)」、「富有(ふゆ)」など多品種が、柿の栽培に適した気候と豊かな土壌で育てられている。


市長から教えられた6次産業化
 加工販売のこれまでの経過を聞いてみると、5年前に株式会社化する前まで、自力で経営していたという。「農業経営については何にも知らなかったんですよ。だから、借入も含め自己資金で生産、加工をしていました」。
 ある時、水道を敷設してもらうために市役所(五條市)に頼んだところ、市長が視察に来た。「建物が建っているけど、まさか全部自前でやっているんやないやろな?」と聞かれ、「はい、すべて自己資金です」と答えたところ、市長から、「もっと勉強せなあかんで。補助や支援事業がある」と教えられた。そこで初めて6次産業化事業を知ったという。「自前でやるのが当たり前だと思っていましたから、ご先祖様の財産をつぎ込んでしまった」と堀内さんは苦笑する。法人化への取り組みも、この時から具体化していった。


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左 :吉野杉の山を切り開いた柿畑の中心に、堀内果実園の事務所兼加工場がある
右 :一つひとつ丹念に品質を見極める干し柿。甘い香りが加工場に漂う


出口となる販売を大切にする
 現在、堀内果実園は全国約100社に商品を卸している。数だけ見ると非常に好調に思えるが、堀内さんは「年間を通じて卸すことは少ないし、相手先とこちらの意向が合わないことも多い」という。「うちには専属の営業マンがいるわけではないので、百貨店のお中元、お歳暮などでは、どうしても大手の商社に負けてしまいます。パンフレット販売なども、1~2年ならうまく販売も伸びるかもしれないけれど、やはり継続していかないと」。一時、インターネットのWeb販売にも取り組んだそうだが、「Webは私たちのような個人規模では難しくて、商品購入となると、やはりアマゾンや楽天など大手になってしまう」と実感した。
 そこで現在、事業の柱としているのが直営店だ。「店を構えて商品を見てもらえれば一番よく分かってもらえると思うのです。毎日何万人も人が通るところであれば、うちの商品のイメージもよく伝わると思ってね」。


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左 :直営店では、毎日変わるメニューを手書き
右 :「くだものをたのしむ店」であり、フルーツサンドイッチやスムージーが大人気。週末ともなれば長い行列ができる


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左 :フルーツジュースはお土産としても人気がある
右 :厳選された南洋果実はソフトクリームとしても提供される


 現在は、「くだものをたのしむお店」「しあわせのくだもの」をコンセプトに、奈良市内に直営店を1店舗出店しているが、今後は東京、大阪、名古屋など大都市圏にも出店したいと計画している。「どんな業態でも、製造販売というように、農業でもそれを当たり前にしていきたい。農家だから農業以外のことが分からないではすまない時代になってきていると思うのです」。堀内さんは夢を実現させたいと、このように語った。(ライター 上野卓彦 平成30年4月11日取材 協力:奈良県南部農林振興事務所農業普及課)
●月刊「技術と普及」平成30年8月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


▼株式会社堀内果実園 ホームページ
 奈良県五條市西吉野町平沼田1393
 電話:0747-20-8013

▼奈良直営店(加工品販売及び喫茶) ホームページ
 奈良市角振町23
 電話:0742-93-8393
 営業時間:10:00~19:00(無休)