提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


地域の米と野菜や果物で加工品づくり 地の利を生かし"お母ちゃんの味"を届ける

2019年06月05日

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左から2番目が久保充己さん (大阪府和泉市 有限会社いずみの里)


 泉州地方は大阪府南部の温暖な気候の地域。有限会社いずみの里の拠点「道の駅いずみ山愛(やまあい)の里」がある和泉市は、中部と北部に丘陵地が伸び、南部には和泉山脈の裾野が広がる恵まれた自然環境の町だ。古くからミカンの産地として知られ、大阪市内まで車で1時間足らずという利便性もあり、直売所は車で訪れる買い物客でにぎわう。
 中心となる商品は、地元産の野菜や果物と、それらを原料とした加工品だ。山菜の佃煮や手作り味噌、自家製梅干しなど、農家の食卓では当たり前の"お母ちゃんの味"が並んでいる。農家の女性たちが設立した有限会社いずみの里の代表取締役、久保充己(あつみ)さんは「手作りの味、本物の味にこだわっています」と話す。


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左 :「道の駅いずみ山愛の里」の外観
右 :暖かい雰囲気が漂う店内


「夏ミカンが売れない」がはじまりだった
 有限会社いずみの里は、平成13年に和泉市内の生活改善グループの女性50人が出資して設立した、大阪府内初となる、農家の女性による農業法人だ。久保さんら、生活改善グループが収穫した作物を始めたのは、昭和60年頃のこと。それまで需要のあった夏ミカンが競合品に押され、売れなくなっていた。

 収穫されなくなった夏ミカンを見た女性たちが、「もったいない」「かわいそう」と、普及センターに指導を仰いだところ、「マーマレードにしてみては、と言われたのです。作ってみたところ、1年目は苦い。2年目も今ひとつ。3年目にしてようやく、皮も実も入れたおいしい夏ミカンのマーマレードができました。そこで和泉市の農業祭に出店してみたら、よく売れたのです」と、久保さん。「自分たちが作ったものに自分たちで値段を付けて売るということは初めてだったし、農家の主婦だから、勤めに出たこともなかった。販売の対価、手当てをいただくという経験ははじめてで、とてもうれしかった」。農業祭では、麦味噌やタケノコの佃煮など、地域の農家が以前から作っていた加工品も出品し、好評を得たという。


生活改善グループから会社組織へ
 農業祭での販売を契機に、生活改善グループの活動は活発になった。商品販売だけでなく、地域の子供たちへの食育活動や、さまざまな野菜を植える試みなどに積極的に取り組んだ。バブル経済が終焉を迎えた平成3年頃、各地で朝市が開かれ、地産野菜が評判を呼んでいるのを聞いた久保さんたちは、見学にでかけてはノウハウを学んだ。そして、自分たちもJAや地域のイベントに採れたての農作物を出荷したり、葉ボタンを育てて販売して、将来への地固めを始めた。「生活改善グループは当初15~6人から始めたのですが、だんだん人数も増えて、市のふれあいセンターで朝市を開いて、いろいろなものを販売するようになったのです。当時は、JAの加工場を借りて加工品を作っていたので、拠点づくりの必要性を感じました」。


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左 :焼き立て米粉パン、旬菜カレーなどの加工の場、手づくりコーナー
右 :お弁当や軽食で提供するコロッケづくりの真っ最中


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左 :地域で収穫された葉物野菜が新鮮なまま並ぶ
右 :地域の農家が出荷したミカンが売られている


 そんな折、大阪府の広域幹線道路である外環状線の沿道に、和泉市の建物の建設計画が持ち上がる。久保さんたちは早速、そこに活動拠点となる加工施設の建設を市に要望するが、個人の集まりである生活改善グループに貸すのは、市民に対して公平性を欠くとの返答があった。個人ではなく会社組織なら契約できるとわかって、法人化が急務となった。「最初は、法人化ってなんですか? という調子でした。経理や役員体制のことなど勉強しました」と久保さん。時間はかかったが、平成13年に50人で有限会社を立ち上げた。


米粉パンをはじめ、新しい商品づくりへの取り組み
 会社を立ち上げたものの、拠点の建設が遅れ、「道の駅いずみ山愛の里」がオープンしたのは平成20年夏のことだった。それまで久保さんたちは、朝市での販売をしながら、資金確保のために商品開発に注力した。
 その一つが米粉パンづくりだった。「普及員の方から、『お米でパンが焼けるんですよ』と教えられて、早速米粉パン製造技術の勉強をはじめました。日々の温度、米の質などパンづくりは難しかったですね。JAの加工所を借りて、餅つき機を使って生地を作ったり、近所の工場で使わなくなったオーブンをもらえるというので大喜びしたら、輸送費が結構かかってしまったり。それでも、自分たちで作るという喜びがありました」と久保さん。


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左 :定番のこしあんパンと粒あんパン、卵とポテトパンなど、子どもたちにも人気
右 :丸餅、のし餅ともに、とてもよく売れる人気商品


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左 :昔ながらの製法で作られた麦、米、白、金山寺の味噌
右 :実山椒の佃煮、イチジクのジャムはすべて地元産


 また、餅をはじめ麦みそ、米みそ、金山寺みそや実山椒、シイタケ、山フキの佃煮、ジャムなど多くの加工品づくりにも取り組んだ。「なにしろ50人の社員がいますから、みんなが知恵を出し合い、こういうものは喜ばれるのではないかしら? と商品づくりに熱中しました」。そうした努力が、農林水産省主催の食アメニティコンテスト優良賞受賞(平成14年度)や、地産地消優良活動表彰「農林水産省経営局長賞」(平成18年度)などに結びついた。
 

次の課題は後継者づくり
 平成20年7月にオープンした「道の駅いずみ山愛の里」に向けた、米粉パン製造器具や喫茶部門の備品などの購入資金は、それまで積み立てた資金と農業改良資金で調達した。ちょうどその頃、6次産業化事業の話が舞い込んだ。「普及センターの先生たちに手伝ってもらい申請しました。米粉パンだけではなく、特産みかんを使った新しい加工品を作ろうと、ちょうど考えていた時でした」。


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左 :「2013いずみの国グルメグランプリ」でグランプリを獲得した「みかんくるみもち」
右 :新商品化したみかんペーストは業務用でカレーなどにも合う


 平成25年には、6次産業化ネットワーク活動交付金を活用して、みかんペーストなどの商品化に成功した。翌年には、パイローラー、冷凍庫、乾燥機などを導入した。「みかんペーストは、皮も実も全部使ったもので、甘味と酸味が程よくコクもあり、パンや餅、カレーなどに入れてもおいしいです。冷凍の加工品も作って、これから販売促進にがんばらないと」と久保さん。


 現在43人となった社員の平均年齢は70歳。「若い後継者が必要です。学校やPTAなどで、味噌やマーマレードづくりの食育をおこなっています。子どもたちの食育はもちろんのこと、若いお母さんたちの中から、私たちの後を継いでくれる人が現れてほしいですね」。久保さんたちは、後継者となる次の世代の登場に期待している。(ライター 上野卓彦 30年2月1日取材 取材協力:大阪府泉州農と緑の総合事務所農の普及課)
●月刊「技術と普及」平成30年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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