提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


神奈川県初の小ロット、多品目農産物加工への挑戦

2019年05月07日

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瀬戸利彦さん (神奈川県平塚市 社会福祉法人進和学園 しんわルネッサンス)


 日本三大七夕まつりの開催地として知られる、神奈川県平塚市。その北西部、富士山を正面に望む小高い丘に、社会福祉法人・進和学園の事業所の一つ、「しんわルネッサンス」がある。

201904_yokogao_shinwa_14.jpg 2006年に開所された事業所で、現在は大手自動車メーカーの自動車部品の組み立て作業部門、農作物の加工部門が稼働している。湘南の太陽のもと丁寧に育てられたトマト、ニンジン、ブルーベリーなどの加工品は、その味の良さから大手通販サイトでも人気上昇中だ。


農業の歴史は50年以上
 進和学園は1958年に障害児のための施設として産声をあげた。設立当初から、利用者の日中活動・就労支援として原木シイタケの栽培を行っており、農業の歴史は長い。その後、トマト、ニンジンなど栽培品目が徐々に増え、5年ほど前からブルーベリーの栽培を開始。年々収穫量が増加したことで、ジャムなどの加工販売を行ってきた。
 しんわルネッサンスでは、もともと自動車部品の組み立てが主な業務であったが、リーマンショックにより受注が激減。新たな活路を見出す必要に迫られた。そこで、2013年、6次産業化ネットワーク事業計画の認定を受け、それまで行っていたブルーベリーの加工から、さらに農作物加工事業の拡大に踏み切った。事業所内に加工場を作り、翌年6月からスタート。支援員(※)を新たに雇用し、自動車部品組み立て作業から農作物加工へ仕事の内容が変わった従業員の指導を行った。

支援員:ジョブコーチともいう。障害者の職場適応援助者。本人だけでなく事業者や従業員へも助言を行い、就労を支援する


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「一人には一人のひかり」を標語にがんばる仲間たち(右)


一番人気はトマトジュース
 現在、加工の仕事に携わっている従業員は22名。農作業はしんわルネッサンスとは別事業所(進和学園運営施設)が担当しており、15名ほどが関わっている。
 経営規模はトマト3a(1t)、ニンジン2a(0.04t)、ブルーベリー26a(0.3t)。売り上げは、加工場収入で3800万円。これに、農業・シイタケの収入400万円が加算される(平成30年3月期見込)。販売品目は、トマトジュース、トマトソース(ピューレ)、トマト、ブルーベリー、ニンジンのジャムなど。販路で一番大きいのはネット販売で、楽天市場に「湘南とまと工房」のネーミングで売りだしている。
 売れ筋はトマトジュース。小ビンの3本セットを送料込み1000円で販売したところ、反響が大きく、繰り返し購入する顧客が増えた。また、贈答用のセット商品も人気だ。JAの販売所、平塚市庁舎内にある福祉ショップ、その他福祉事業所などでも販売を行っており、その際は、「湘南工房」という名前を使っている。


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左 :水や食塩を一切加えない濃厚なうまみは、まさに「食べるトマトジュース」
右 :生産者の顔が見えるオリジナルブランド「湘南工房」


手間暇かけトマトのうまみを引き出す
 加工工場では、トマトのうまさを引き出すために、さまざまな工夫をしている。たとえば、完熟トマトをさらに追熟させ、ジュースに最適な完熟以上のトマトだけを選定。へたを取り除いて青臭さをなくし、トマトを横にカットすることで、苦みのもととなる芯や黒い種を除去する。さらに、水も塩も一切加えず、二度にわたる加熱濃縮を行うことで、おいしいトマトジュースの指標となる「甘味・酸味・うま味」の絶妙なバランスを生み出している。うまみたっぷりで濃厚な上、飲みやすいと評判の味には、神奈川県農業技術センターによる加工技術や品質向上のアドバイスが生かされている。


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左 :湘南の太陽と豊かな土で育てた風味豊かな野菜
中 :地域の農家から専門的なアドバイスを受けることも
右 :ブルーベリーの収穫作業


神奈川県内初の小ロット多品目加工
 しんわルネッサンスでは、6次化に踏み切る際、地元企業や団体との提携、近隣農家の受託を含めた生産を視野に入れていた。その一つが、神奈川県内初の小ロット多品目加工である。


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左 :一本ずつ丁寧にびん詰め作業を行う
右 :地域との連携事業の一つ 摘果ミカンの選別作業


 農家は、「加工工場には大量に納品しなくてはならない」というイメージを持っている。しかし、小規模農家では1日に10kgほどしか収穫できない場合もあり、取り引きが難しいとされていた。しかし、しんわルネッサンスでは小さな単位でも加工の受託をしているため、以前なら余って捨ててしまうぶんを有効活用できる。流れとしては、農家から原料を買いとり、加工品として販売。トマトに限らず、カボチャなどの野菜ピューレも作っている。さらに、JA湘南・JAさがみからも規格外トマトを仕入れている。リアルタイムで加工できないトマトは、下処理をしてから冷凍保存しているため、農家からの買取分も含め、年間30tの保管が可能だ。
 さらに、「みかんの木パートナーシップ」の一環として、NPO法人湘南スタイルと連携し、摘果ミカンの選別、搾汁、加工、ギフト商品の梱包発送などを一手に引き受けている。


いのちの森づくり
201904_yokogao_shinwa_13.jpg また、しんわルネッサンスでは、ドングリや木の実を育てる「いのちの森づくり」事業を行っている。大型ハウス3棟で7万本の苗木を育てており、東北の被災地の防潮堤や、トンネル掘削で出た残土(山に捨てられるが栄養がないため草が生えない)などに植樹され、CO2の吸収や自然の森の再生に貢献している。また、学校教育とも連携する。これらの活動が評価され、2017年には、「かながわ地球環境賞」を受賞した。今後もさらなる活動の広がりをめざしている。
右 :どんぐりや木の実から苗木を育てる「いのちの森づくり」プロジェクト


高品質に胸を張って
 しんわルネッサンスでは、自動車部品組で障害者も組織員として、ISO9001の認証を取得。また、神奈川県農業技術センター生産環境部の吉田農業革新支援専門員のサポートの下、食品加工場を対象にHACCP取得の準備も行っている。商品ラベルに「社会福祉」の文字はあるが、品質には自信があるので、それを前面に出すことはしていない。
 利用者の平均賃金は、就労継続支援A型事業で約14万円、B型事業で4万7000円。全国平均と比較するとかなり高額だが、このレベルを維持するために、業務内容を取捨選択している。福祉事業所の中には、月額工賃を1000円しか払えないところもある。そういった事業所に仕事を回すなど、持ちつもたれつの関係も温かい。


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左 :所長の瀬戸さん(中)と農業技術センターの吉田さん(左)、池田さん(右)
右 :事業所入口では製品を直売価格で販売


福祉の充実そして地域の活性化へ
 「我々は福祉事業をしているので、基本は利用者の工賃を一円でもあげるのが目的です。そして、大きな目的として、地元農家や農業団体とうまく連携して、地域の活性化になればいいと考えています」。今後の展望について、瀬戸さんはそう笑顔で答えてくれた。
 「ルネッサンス」という言葉には、再生、復活のほか「個性の重視」という意味がある。一人一人の力を大切に、しんわルネッサンスの挑戦はこれからも続くだろう。(ライター 松島恵利子 平成30年1月15日取材取材協力:神奈川県農業技術センター)
●月刊「技術と普及」平成30年4月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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