レストラン・カフェ「花茶」を拠点に、都会の人と生産者をつなぐ
2019年04月25日
北海道の新千歳空港から車で30分弱走ると、農村風景の中に「花茶」の建物が見えてくる。洋風の建物にはウッドデッキがあり、黄色い壁がとてもおしゃれだ。
女性起業の草分けである「花茶」は、季節の野菜や果物を使った豊富な種類の手作りアイスクリームと、併設のレストランでイタリア製石窯が焼き上げるナポリピッツァを始めとする、花茶の農園や地域の食材を使った食事メニューを提供している。アイスクリームはテイクアウトして屋外の庭で美しい風景を眺めながら食べることができ、持ち帰りも可能だ。また、季節によりイチゴ狩りやトウモロコシの釜ゆでなどの体験やイベントも行っている。創業者の小栗美恵さんは「きっかけは、平成元年(1989年)に始めたイチゴ作りでした」と話す。
左 :黄色が遠くからも目立つ、「花茶」のかわいらしい建物
右 :美恵さんの出身地、高知県の加工品や商品も取り扱って、故郷を後押し
自立のために始めた自分の農業
美恵さんは非農家出身で専業農家に嫁いだ。言われるままの農作業にあきたらず、「お金を持てば精神的にも自立できる」と考えて、イチゴ作りを始めた。数年後には現在の場所に店を建ててアイスクリームを売ろうと計画。しかし農地かつ市街化調整区域ゆえに、断念せざるをえなかった。
それでもあきらめきれず、道路沿いで釜ゆでしたトウモロコシを売り、イチゴ狩り、花摘み、野菜の直売などをやってみた。すると、これだけ客が来るならば店をやったほうがいい、と農業委員に言わせるほど人が集まったので、農産物加工場として申請し、7×9mサイズの"小屋"を立てた。壁の色は、目立つように黄色にした。開業にあたっては、お隣の雪印種苗会社の場長さんの「本物を作りなさい」という言葉を胸に、食品加工センターでアイスクリーム製造の指導を受け、平成8年に初めてイチゴのアイスクリームを売り始めた。
きなこ、ビスコッティなど、オリジナルメニューが豊富なアイスクリーム
子供たちが経営に参画
「花茶」の経営に取り組むため、美恵さんは商工会議所の簿記講座に通い、ホテルマンからはクレーム対応や危機管理等の接客技術を教わり身につけた。それがとても役に立っているという。アイスクリームは、花茶の農園で採れた旬の野菜や果物や、地域産の野菜を使って工夫して種類を増やし、季節限定の味も含めて今では50種類以上になった。
そんな母の姿に、子供たちは「お母さんはやりたいことをやって輝いてほしい」と言い、成長すると次々に経営に加わった。長男はレストランをやりたいと札幌で料理学校に通って、増築したレストランで料理の提供をはじめた。その後イタリアへ修行に行き、戻って今は本格的なピザを焼いている。次男はアイスクリームを担当、長女はレストランのホールにと、次の世代が皆経営に参画することになった。「もともと仲の良い姉弟で、HPで発信してきたブログを見ていて、私の思いを理解していたのだと思います」。その後、「私も加わりたい」と長女の夫も脱サラして、農園で働くようになった。
このように家族が経営の中心だが、パートを店で4~5人、農園で3人雇用している。冬季は2カ月ほど休業することもあり、正社員は現在、雇っていない。
地震の被害を乗り越えて
平成30年9月、北海道の道東地域は大きな地震に見舞われた。「花茶」では停電が長引いたことにより、アイスクリームを全量廃棄せざるをえなくなったが、2日後にはレストランをオープンし、手元にある食材を工夫して500円のランチを提供。食料が手に入らず困っていた近隣の人たちにたいへん喜ばれた。
右 :「花茶」の周囲には美しい風景が拡がっている
「花茶」という名前には、花をみながらゆっくり一服してほしい、農村浴で癒されてほしいという美恵さんの願いが込められている。「ぜひここに来てもらって、景色を楽しみながら食べてもらいたい、季節も味わってほしいです。そして、これからもお客様とのコミュニケーションを大切にして行きたい」と、美恵さんは語ってくれた。(水越園子 平成30年9月20日取材)
●アイスクリーム&レストランカフェ 花茶
北海道千歳市泉郷479
TEL&FAX 0123-29-2888
営業時間
10:00~18:00(5月上旬~8月下旬、不定休)
10:00~17:00(9月上旬~4月下旬、火曜休、12月25日~2月中旬は冬期休業)
取材は北海道胆振東部地震の約2週間後、アイスクリームの販売は再開したものの、牛乳の流通が回復せず地震前の状態に完全には復旧していない状況で行われた。非常時にもかかわらず受け入れていただいた小栗さんに感謝申し上げます。