地元の農産物をドライフルーツに加工 「農家のチカラで農村イノベーション」を。青年ブドウ農家たちの挑戦
2018年02月01日
左から安部元昭さん、宮田宗武さん、園田直彦さん(大分県宇佐市 (株)ドリームファーマーズ)
15年前に農業青年クラブで出会った青年3人が、10年後(平成24年5月)に会社を興し、加工場を建てた。それぞれがブドウ農園を経営するかたわら、ブドウとミカンを加工し、展示会出展や小売店への営業に出た。
今では九州に40店舗、関東25店舗、関西3店舗との取引実績を持つ。平成27年3月からはニューヨークの日系スーパーKatagiriへ輸出も始まった。28年8月には加工場の横に「プラスCAFE&BAR」を開店し、ブドウを使ったソフトクリームや飲み物を提供。地域に雇用を産みだし、宮田ぶどう園のフリースペース「農村ベース」でイベントを開催して人を呼び込むなど、「農家のチカラで農村イノベーション」を着実に進めている。
「農業を続けていくために」会社を設立
宇佐市は大分県内一のブドウ産地である。内陸部の盆地で昼夜の寒暖差が大きく、味の良いブドウが栽培されている。(株)ドリームファーマーズの3人はそれぞれ、ブドウ園を経営している。
社長の宮田宗武さんは宮田ぶどう園の2代目。栽培面積は4.5haで市内最大。巨峰と種入りシャインマスカットを直売する。王様のぶどうブランドでジュース等も販売。会社では経理と営業を担当している。安部葡萄園3代目の安部元昭さんは2.5haで巨峰、ピオーネ、シャインマスカット、瀬戸ジャイアンツ、安芸クイーン、クインニーナを贈答用中心に直売。県農業青年連絡協議会会長を務めたときは年間100日以上、県内外を飛び回った。渉外と営業を担当する副社長だ。園田直彦さんは園田農園3代目。2haでピオーネ、シャインマスカット、デラウエア、ベリーAを作り、野菜と米も栽培する。農協のブドウ部会副部会長を務めた。自宅も自分で建てた猛者で、電気水道修理等、なんでもござれの工房長。
「自分たちは農業を続けていきたい。そのためには産地を守らなくてはならないし、地域のためになることをしたい。その思いは3人共通で、それを軸に動くための会社、それがドリームファーマーズなんです」と安部さんが語る。
産地が干される前にブドウを干す
宇佐市内の青年農業クラブ仲間(当時は5人)と平成21年に結成したグループ「ドリームファーマーズプラス」に、宇佐市から「何かやってみないか」と声がかかった。
自分たちにはブドウがある。作るならば、ワイン、ジャム、ジュースではない新しいものがよい。干しシイタケや干し柿が農家の加工として作られるように、干しブドウはどうだろうと考え、23年の春先から、生育中のブドウを使って試作しつつ、マーケティングを試みた。
左上 :3人が共に栽培するブドウ「シャインマスカット」も干しブドウになる
右下 :宮田ぶどう園敷地の道路沿いに建つ「プラスCAFE&BAR」などの施設
ドライフルーツ市場は、当時120億円。干しブドウはそのうち70億円を占めるが、99%が輸入品だ。国産の干しブドウはほとんどなく、産地でとれたブドウで干しブドウを作れば売れるはずだと考えた。
乾燥の技術は、他県に見学に行った際の記憶を駆使して、設備を設計。乾きぐあい(水分含有率)、温度などの実験をくり返し、技術力を上げた。また、当時は6次化プランナーのサポートが手厚く、プロのコンサルや加工指導を十二分に受けることができた。
何も足さない、ただ水分を引いただけ。素材を活かした加工品
24年5月の会社設立直後に、県の事業により干しブドウ加工場(安心院(あじむ)DryFoods工房)を建設した。初年度は自分たちのブドウ800kgで干しブドウを作り、11月から販売を開始。25年以降は産地のブドウを毎年8t(豊作だった27年のみ5t)、JAを通じてkgあたり350~1000円(品種による)で買い上げた。8~10月末の3カ月間、乾燥機をフル稼働して干しブドウに仕上げた。
形(見映え等)から市場規格外になったものの、味はまったく劣らないブドウを使っている。そういうブドウを加工するので、味は抜群だ。
水分だけを抜いて何も足していない「安心院干しブドウ」。シャインマスカット、種なしピオーネ、種入り巨峰(青春編)、いろいろミックス等、種類は多い
次に目をつけたのは温州ミカン。大分はミカンの産地で材料は豊富だ。12月から3月まではブドウ農家の農閑期でもあり、地域のミカン5tから干しミカンをつくった。干しミカンは珍しく、干しブドウに劣らず人気がある。施設の稼働も半年になった。
そのほか、「トマト」は冷凍して余裕があるときに干しトマトに、「ナシ」は干しブドウとのミックスにと、地域の農産物を使ってレパートリーが広がりつつある。「果物が出回るのはその季節だけ。でもドライ商品ならば一年中、「安心院」の名前を冠して売ることができ、地域のPRにも役立つ」(宮田さん)。加工施設の稼働率を上げられれば、地域の雇用にもつながる。
左上 :ぶどうソフト(カップ)。100%巨峰ジュース+国産米グラノーラ添え
右下 :ドリームファーマーズの加工品が並ぶ「プラスCAFE&BAR」の一角。店内ではソフトクリームや飲み物が楽しめる
地域に雇用の場を作る
従業員(フルタイム)1名と子育て世代の女性等のパート6名を雇用しているが、会社を興したとき、雇用を入れるか入れないかで意見が分かれた。「自分たちが農業を続けるために作った会社だから、雇用は当然」と言ったのは安部さんで、紆余曲折あったが、現在は加工計画も含めて、加工作業や発送の段取り等、夏に開業した店舗での接客等も、従業員とパートが担っている。最低賃金では求める人材が集まらなかった経験から、最低賃金以上を設定。その一方、役員3人は役員報酬のみで給料はない。
平成26年9月には会社名義で農地を1.3ha取得。ブドウの栽培も始めた。3年目となる29年は、シャインマスカットの初収穫をむかえる。「会社が土地を持つことで、新規就農希望者に農地と技術の両方を与えていきたい」。県下一のブドウ産地でも、200ha規模で園地の再編が始まっている。後継者を確保することも、産地の維持には欠かせないアプローチだ。
海外へ。Usa(宇佐)からUSA(アメリカ)へ
海外への輸出も模索した。香港や台湾向けの商談もあったが、最初に決めたのはアメリカ(ニューヨーク)の日系食料品店だった。「売れなければすぐに外される中で、注文が続いている」と宮田さんは品質に自信をみせる。もうけが出るのはこれからだが、輸出していることが品質の証しでありブランドになる。
「農村ベース」で開催された「第1回食農コンソーシアム大分in安心院」は盛況(左上)。続いて行われた交流会(右下)
6次産業化に目を向けたのは20歳代だったころ、ある普及指導員の「広い視野で農業をみる」という言葉がきっかけだった。「当時は品目ごとに勉強会があり、われわれ若手農家も勉強した。刺激を受ける機会がありました」と宮田さん。「自分のブドウで干しブドウをつくりたい」が形になり、新しい事業や地域からの発信となっている一方、人を呼び込むイベント等の開催も進んでいる。産地を守るために、3人それぞれのブドウ作りを原点に、新しい動きが産地の明日につながっていく。(水越園子 28年10月24日取材 協力:大分県北部振興局生産流通部)
●月刊「技術と普及」平成29年1月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
(株)ドリームファーマーズ ホームページ
安心院DryFoods工房
大分県宇佐市安心院町下毛1193-1
TEL 0978-58-3534