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農業経営者の横顔



生産から加工、販売、直売店の運営まで一貫 優良企業をめざし、農業界に貢献したい

2017年08月18日

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輕部英俊さん (石川県白山市 株式会社六星)


 株式会社六星(ろくせい)の成り立ちは、1977年、レタス栽培の拡大を図る5人の若い農業生産者が、生産組合を設立したことに始まる。その後、米や野菜の栽培を拡大するとともに、加工品の製造や直売店の運営など、新しい事業を次々と展開。さらなる成長を続けるなか、その業績が評価され、平成26年度(第53回)農林水産祭において内閣総理大臣賞(農産部門)を受賞した。


米の耕作面積は石川県で最大
201707_yokogao_rokusei_2.jpg 株式会社六星と併設する直売店「むっつぼし松任本店」は、霊峰白山のふもと白山市(前、松任市)にある。同社は1977年、5名の農業生産者が「中奥六星生産組合」を設立し、創業した。
 その後、農業の大規模経営と組織の強化を図るため、農事組合法人、有限会社へと改組し、2007年に株式会社となる。これを境に、経営陣が創業メンバーから世代交代し、輕部英俊さんが代表取締役社長に就任した。
右 :田んぼや畑に囲まれたのどかな立地にある「むっつぼし松任本店」と本社


 現在、六星は約145haの農地を耕作。そのうち米が139haと全体の95%を占め、水稲耕作面積は、石川県で最大である。農地の大半は、高齢化などの理由で作業ができない農家から請け負ったもの。さらに同社は、農産物の生産のほか、餅や惣菜、和菓子といった加工品の製造販売、直売店の運営を展開。約120名のスタッフ(役員9名、社員33名、パート・アルバイト約80名)がおり、地域農業の活性化や雇用の提供にも貢献している。


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 :無農薬、減農薬でコシヒカリの栽培に取り組む
 :加賀平野の中心に広がる六星の農地にて


冬場の仕事確保で生まれた「かきもち」
 六星のターニングポイントになったのが、1982年に着手した加工品の製造販売だ。その第1号商品が「かきもち」である。冬場の仕事を確保するために作られた商品だったが、予想以上にヒット。2年後には加工場を建設し、そこで製造したかきもちや餅類は、全国の物産展にも出展され、取扱店が増加した。「ふるさとの懐かしさや手作り感が、当時の消費者ニーズにマッチしたのだと思います」と、輕部さんは分析する。


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 :直売店では、米、餅、弁当、惣菜、和菓子など自家栽培のものを使った商品を中心に販売
 :たっぷり入った黒豆が香ばしい豆板餅は、六星を代表する商品


 1995年には食糧法が施行され、米などの作物の販売が自由にできるようになり、これを機に大規模なライスセンターを建設。加工場も新たに建て直し、直売所を新設した。ちょうどその頃、東京で大手建材メーカーの営業マンとして働いていた輕部さんが、六星に入社する。当時、社長をしていた妻の父親から、経営改善を期待されての要請だった。


作り手の顔が見える直売店で販売強化
 輕部さんはまず、これまでの経験を活かし、営業に力を注ぐ。首都圏にも足を運び、スーパーや百貨店の販路を広げていった。また、事業計画やコスト管理などを徹底。加工場には外部からコンサルタントを招き、HACCP方式の品質衛生管理を導入した。
 次に目をつけたのが、直売所の強化だ。「米の販売競争が激しくなり、突然、取引を停止されることもあって、売上が安定しませんでした。そこで、『むっつぼし松任本店』をリニューアルし、『実際に作っている人の顔が見えて、安心感がある』『とれたての新鮮な商品を扱っている』をアピールしようと考えたのです。米や野菜、餅類だけでは物足りないので、惣菜や弁当、和菓子なども自社で作り、お客さんに毎日来てもらえる店をめざしました」。


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 :品質衛生管理を徹底している餅加工場
 :豆の塩味とあんこの甘さが絶妙に合う塩豆大福


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 :本社に隣接する工場で手づくりをしている惣菜
 :小さな袋においしさの福を詰めた「お福分け」はギフトに最適


 その後、「むっつぼし金沢長坂店」も開店。ここでは惣菜の量り売りを行い、レストランを併設した。また、金沢駅には「金沢百番街すゞめ」を構え、現在、3カ所で直売店を運営している。さらに、商品のブランド化にも取り組み、和菓子の「豆餅すゞめ」、米や餅を小袋に入れて詰め合わせた「お福分け」を新たに開発した。洗練されたパッケージデザインも相まって、どちらも売れ行きは好調である。


他と差別化し地域性を出した商品づくり
 「加工品は、自社の素材が活かされ、ナショナルブランドと差別化できたことが、売り上げにつながったのでしょう。例えば、豆餅などはつくるのに手間がかかるので、大手は手をつけないですからね。また、軽い塩味は石川県の特徴でもあり、『六星』らしさを打ち出すことができました」。

 しかし、「今後加工品の販売量を大きく増やしていくことは、今の時点では考えていない」と、輕部さんは言う。「惣菜や弁当に関しては、作り手が不足する問題があります。かといって、機械化をすれば手作りの良さがなくなるので、それはしたくない。餅も、これ以上製造すると、自社のもち米だけでは足りなくなります。当社は餅メーカーではなく、農業に最も重きを置いているので、他から仕入れてまでも加工するというのは、会社の方針と違うのです」。


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 :昔ながらの杵つきにこだわったお餅は、ほんのりとした塩味が特徴
 :店内で販売している六星のコシヒカリ。つや、香り、甘みが三拍子そろい、モチモチとした食感は、冷めてもおいしいと評判


米のブランド化など新たな販売方法を模索
 今は規模拡大よりも、「それぞれの事業をブラッシュアップすることが大切だ」と輕部さん。「加工品の売り方も、工夫していかなくてはなりません。現在、餅の購買層の多くは、やはり年配の方々。若い世代に対しては、『お福分け』のようなバラ売りの商品を雑貨屋に置いてみたり、『餅はすぐエネルギーに変わり、腹持ちのよい食品』といった効能をスポーツ業界に提案するなど、新しい切り口も必要になるでしょう。また、餅以外の米の加工品の開発や、米をブランド化して米の専門店として出店するなども、考えていきたい」。

 そして最後に、今後の六星について、次のような思いを語ってくれた。「農業は食料の根幹です。すべてを国任せにするのではなく、自分たちも知恵を絞りながら継続していかなくてはならない。6次産業化で成長した六星が、これからも良い経営を続けていくことで、農業の底上げと発展に尽くしたいと考えています」。
(ライター 北野知美 平成28年4月7日取材 協力:石川県石川農林総合事務所)
●月刊「技術と普及」平成28年7月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


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