良質な素材をていねいに加工し、おいしさと安心を食卓に届ける
2016年05月20日
永田修一さん (茨城県笠間市 農業生産法人(有)ナガタフーズ)
茨城県の中部に位置する笠間市は、日本三大稲荷に数えられる笠間稲荷神社や、笠間焼などが有名な、県内でも有数の観光地。その笠間市の岩間地区に、ナガタフーズはある。6次産業化の取り組みは、約30年前に、干しイモやダイコンのツマを製造、販売したことから始まった。現在は、スイートポテトやダイコンドレッシングなど、加工品の種類も増加。原料にこだわり、品質管理を徹底し、おいしさと安心安全を提供する。こうした方針を展開し、売り上げを着実に伸ばしている。商品開発から販売まで一手に担っている永田修一さんに、経営方針や今後の展望などについて話を聞いた。
新鮮なダイコンをツマに加工。品質管理も徹底
永田さんの父でナガタフーズ社長の永田良夫さんは、以前、この地で養豚と畑作を営んでいた。しかし、それだけでは経営が厳しいと加工品に目をつけ、干しイモを製造。次に刺身のツマ加工に乗り出し、養豚業から、ダイコンやサツマイモの生産、加工に経営をシフトしていった。干しイモは自家栽培のサツマイモ(いずみ種)を原料にして、100%天日で乾燥。ツマも青果で出せるくらい新鮮なダイコンを使用し、パリッとした食感が評判になった。
「当時から、原料にはずっとこだわっています。例えば、ツマ加工というのは、簡単に言うと皮をむいて切るだけです。なにかと混ぜ合わせたりするわけではありません。だからこそ、素材そのものの味が重要になる。うちでは有機肥料を使ってダイコンを育て、皮むきもすべて手作業。自社の品質管理室で検査をするなど、衛生面にも十分に気を配っています。新鮮かつ安心安全を徹底していることが、当社のセールスポイントですね」と、永田さんは話す。その後、ダイコンおろしの製造も始めた。常に新鮮なダイコンを使用できるよう、北海道から九州まで、農家と契約を結び、1年を通して安定した原料供給を確保している。
左上 :(有)ナガタフーズ本社第1工場看板
右下 :細菌検査、金属探知機検査等で品質管理を徹底し、安心安全にこだわる
サツマイモのスイーツで干しイモ工場をフル稼働
永田さんがナガタフーズに入社したのは9年前。大学を卒業して6年間は、食品の加工会社に勤務していた。「この間に、衛生管理のノウハウや営業、商品登録の方法などを学びました。それが今の仕事に役立っています」。入社後、永田さんが最初に手をつけたのが干しイモ工場のリニューアルだ。当時、工場の稼働期間は12月半ばから2月までの2カ月半だけで、あとは倉庫代わりになっていた。通年でつくれるものはないかと思案し、スイートポテトと芋ようかんを商品化した。
「以前の会社で営業をしている時に、サツマイモを扱っていました。茨城県はサツマイモの産地ですが、味は良くても形の悪いB品は使われないことも多い。それを有効活用できないかと考えたのです」。初年度(平成19年度)の売り上げは1800万円だったが、2年目からは倍増し、その後も堅調に推移している。好調の要因はどこにあるのだろうか。
左上 :ひとくちサイズの「すいーとぽてと」
右下 :サツマイモの食物繊維を活かした「芋ようかん」。原材料は茨城県産のベニアズマとパープルスイートロード
「最初はスーパー1店舗に置いてもらったのですが、味や値段が消費者のニーズにちょうどマッチしたようです。その店はチェーン展開をしていたので、他の店舗にも置いてもらい、そこで評判になり、また違うスーパーへ......というように取り扱う店が一気に増えました。運に恵まれ、商品が独り歩きした感じです」。永田さんはそう謙そんするが、休日に自らスーパーへ出向いて店頭販売をしたり、サンプルをもって飛び込み営業もしたのだという。その努力によるところも大きいに違いない。
地元の栗を使ったお菓子とダイコンドレッシングを商品化
平成22年には、以前の勤務先の食品加工会社と共同で、ダイコンドレッシングを開発した。「刺身のツマは、食べられずに捨てられることが多いんです。でも、うちのツマは質もよくおいしいので、食べてもらいたいと思ったのがきっかけです」。当初は、ツマを食べる専用ソースを小袋に詰め、刺身と並べて販売していたが、コスト面で採算が合わずに断念。「そこから発想を切り替えました。鮮魚コーナーで売るのではなく、ボトル詰めにしたものを土産店や道の駅、直売所、空港やゴルフ場の売店などで販売することにしました」。
その戦略は当たり、ダイコンのあらびきおろしのドレッシングは、ツマ以外にも幅広く食卓で利用されるようになった。現在、ドレッシングの取引先は82社にのぼり、2種類から始まった味も8種類までに増えた(2015年7月現在10種類)。
左上 :ダイコンのあらびきおろしのドレッシング「大根百笑」は、8種類の味わい
右下 :笠間産の栗を使用した「すいーとまろん」。パッケージの文字は、永田さんによるもの
さらに平成24年には、地元笠間産の栗をふんだんに使った「すいーとまろん」を商品化した。「笠間市は栗の産地であり、また観光地でもあるのに、栗を使った土産品が少なかったのです。地元のPRにもなり、おかげさまで人気のお菓子になりました」。
健康を追求した商品開発。従業員の研修にも着手
現在、ナガタフーズの売上高は約7億5000万円。今後も商品開発を促進し、販売店も増やして、年商10億円の企業をめざしている。「これからは、安全で健康的な食べものが、さらに求められる時代になるでしょう。ですから多少値段が高くても、健康とおいしさを追求した商品を開発していこうと考えています。近々、プレミアムなダイコンドレッシングと、栗を使った贈答品を展開する予定です」。
永田さんは、今後会社が発展していくには、50数名の従業員1人ひとりが、目標をもって働くことが不可欠だと言う。
「これまで明確な企業理念や経営方針がなかったので、それを設定しました。同時に、昨年から月に2回社内塾を開き、モチベーションをアップするプログラムを導入。会社の目標と個人の目標を並行して達成しよう、そのためにはどうすればいいか、みんなで話し合いながら考えよう。そんな内容の研修を行っています」。
左上 :従業員のミーティング / 右下 :ダイコン畑の前で。(有)ナガタフーズのみなさん
楽しい職場をつくることで、個々のモチベーションが上がり、仕事の成果も出るのだと、永田さんは考えている。「私の夢は、今の従業員のお子さんがナガタフーズに入社してくれること。そのためにも、よい商品を開発して、今以上に活気のある会社にしていきたいですね」。(北野知美 平成27年2月16日取材 協力:茨城県県央農林事務所 笠間地域農業改良普及センター)
●月刊「技術と普及」平成27年5月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載
農業生産法人(有)ナガタフーズ ホームページ
茨城県笠間市福島672
0299-45-4542