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農業経営者の横顔



農業生産を柱に付加価値求め、地域ににぎわい生み出すレストランや農家民宿をオープン

2015年01月16日

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右から、代表の深沢義一さん、深沢久美子さん、大坂美由紀さん(農事組合法人美郷サンファーム 秋田県美郷町)


 秋田県南部、奥羽山脈のすそ野に位置する美郷町。町の西側は標高40~50mの扇状地の扇端部にあり、豊かな土壌に恵まれ、米どころ秋田県内でも有数の穀倉地帯だ。

 この地で地域農業の活性化をめざし、農業の多角化に取り組んでいる「農事組合法人 美郷サンファーム」代表の深沢義一さん(56)は、平成16年の設立以来、収益性の高い農業経営を目指し、「6次産業化という言葉が一般に浸透する以前から、高い付加価値のある農業に取り組んでいかなければと考えていた」と、法人化に至った思いを語る。


安心・安全・おいしさを重視した農産物を生産
 美郷サンファームは水稲を中心に規模拡大を図りながら、大豆やアスパラガス、メロン、トマトなどの野菜を積極的に導入してきた。また、冬期間の収入確保のため餅の加工販売に取り組み、経営基盤を強化。地元の女性や高齢者を雇用することで、地域の活性化にも貢献している。平成23年3月には加工施設を整備し、米粉パン加工品の製造販売を開始した。平成24年3月には農家レストランと民宿の複合施設をつくり、新たなグリーン・ツーリズムの拠点として話題を集めている。


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 :田んぼの中にたたずむ「米サラダハウス」。訪れた客は食事をしながら風景をながめ、「ここで栽培された米が料理に使われている」と実感できる
 :レストランの一角にある自家栽培の米をはじめ、地元の手作り品などを並べた販売コーナー


 平成24年の作付面積は、水稲約20ha、大豆5.5ha、アスパラガス70a、メロン20a。その他に、ミディトマトやエダマメも栽培する。生産量をふやすだけでなく、安心・安全・おいしさにこだわった栽培方法を取り入れていることも、大きな特徴だ。低農薬・有機栽培のあきたこまち、堆肥投入で味の良さを追求したアスパラガス、米ぬかなどを用いた有機栽培とミツバチによる交配を行い、1株から1個だけ収穫するメロン「秋田甘えんぼ」など、手間や時間を惜しまず、栽培技術を駆使することで、食べ手が魅力を感じる農産物を生産する。なかでも地元で人気なのは、完熟中玉トマト「くみちゃんミディトマト」。秋田県の女性農業士に認定されている深沢さんの妻・久美子さんの名前を付けた商品で、糖度が高いと評判だ。


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 :アスパラガスは料理に使われるほか、デザートのアイスにも活用される
 :早出し用に畑に新植されたアスパラガスの苗


「本物を食べてほしい」魅力あるメニューを揃えて、地元客に提供
 「畑で熟したトマトは、本当にうまいんですよ。アスパラガスもそうです。毎年、仙台から田植え体験に来る中学生たちは、市場に出回らないような太いアスパラガスに、『おいしい!』って目を丸くしますよ」。

 平成24年3月に、JR奥羽本線後三年駅から徒歩5分ほどの場所に誕生した「米(マイ)サラダハウス」は、農家レストラン・民宿・直売所を兼ねた施設。接客サービスは「ズブの素人」と言いながらも、新たな事業に取り組むことにしたのは「本物を食べてほしいと思ったから」と深沢さんは話す。


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 :「本物を食べてほしい」。収穫したばかりのアスパラガス
 :日替わりセット。野菜が豊富で品数も多い。この日のメインは「チンジャオロースー」。


 理由はまだある。地場産の米や野菜をふんだんに使った食事を味わえる場所、人が集い交流する場所をつくり、地域のにぎわいを創出したいという気持ちも強かった。

 そんな願いが込められた「米(マイ)サラダハウス」は、いま話題の6次産業化の実践例として、テレビなどで何度も紹介され、オープンから連日大盛況が続いた。スタッフも日を追うごとに仕事に慣れ、1年半たった今ではすっかり板についた接客ぶりだ。レストランは人気が定着し、地元の女性客を中心ににぎわっている。


201501yokogao_misatoSF_5.jpg レストランの支配人は久美子さんがつとめる。米粉食品指導員の認定資格も持ち、野菜作りとともに料理も得意で、経験とアイデアを生かして店づくりを行っている。

 レストランの看板メニューは、深沢さんの娘さんで管理栄養士でもある大坂美由紀さんが作る「米(マイ)サラダガレット」。ガレットは、もともとはフランスの郷土料理で、薄く丸く焼いた生地に肉や魚介、チーズ、卵などを自由にトッピングしたもの。日本では長野県の白馬で「白馬ガレット」を新名物として売り出し、注目されている。美由紀さんは白馬ガレットの作り手として認められた人に与えられる「白馬クレーピエ」の資格を持つ。さらに、この道35年のベテランシェフも加わり、伝統的な秋田の食文化にとらわれない、斬新で幅広いメニューを生み出している。
右 :米(マイ)サラダガレット。そば粉の生地に、自家栽培の米や野菜など美郷町産の農産物が、たっぷりのっている。


 レストランの2階は民宿になっており、3部屋に20人収容できる。さらに、レストランに隣接する研修館「蔵座敷」も整備した。県内外から訪れる視察研修の団体との会合の場になったり、夜には宴会の会場となったりと、多目的に利用できる。深沢さんは「私はいつも、『酒を飲んで、夢を語ろう』と言っているのですが、蔵座敷がそんな語り合いの場になってほしい」と話す。


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 :レストランの2階は民宿で和室が3室用意されている。部屋から一面田んぼののどかな風景が見られる
 :平成16年にできた「もち工房」


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 :農家レストランと民宿の棟の奥にある研修館「蔵座敷」
 :研修館「蔵座敷」は多目的に利用できる


これからも理想の6次産業化を追求
 レストランでこれから力を入れていきたいのは、「米粉100%の手打ち麺を使ったメニュー開発」と深沢さんは言う。米粉うどん、玄米と白米の2つの米粉麺を合い盛りしたつけめん(夏季限定)、かた焼きした米粉麺の肉野菜あんかけの3種類がメニューに載っているが、さらに充実させ、特色を打ち出したいと考えている。

 「農家レストランとして、田舎料理も大事にしながら、新しいメニューを取り入れていきたいです。地元の方々に親しまれ、ここで料理を味わうことで、ちょっとリッチな気分になっていただけるような、非日常を味わえる空間をつくりたいと思っています」

201501yokogao_misatoSF_6.jpg レストランで提供しているアイスクリームを輸送可能な商品にして、県内外で販売する計画も進行中だ。「こうしてみると、3次(産業)から2次(産業)へフィードバックしている気がします」と話し、各部門が関連し合うことで、新たな可能性が生まれることを実感している。
右 :玄米アイス(左)と5~9月限定のアスパラアイス(右)。自家栽培のアスパラガスを細かくした粒が、ほのかな風味を与える


 今後は体験メニューの開発にも着手し、「子どもたちに遊び場的な体験をさせたい」と深沢さん。しかし、「あくまでも農家の本業は農産物を生産すること。1次産業を土台にして、ピラミッドの形になるような6次産業化を図るべきだと思います」と述べる。農業を柱にした事業展開により、将来につながるヒントを見つけ出し、新たな挑戦を続けていくというやり方で、理想とする6次産業のかたちを実現しようとしている。


(橋本佑子 平成25年8月27日取材 協力:秋田県仙北地域振興局農林部農業振興普及課)
●月刊「技術と普及」平成25年11月号(全国農業改良普及支援協会発行)から転載


農事組合法人 美郷サンファーム
「米(マイ)サラダハウス」 ホームページ
秋田県仙北郡美郷町金沢西根字上四ツ谷163-3
0187-88-8866