地元産米の米粉で地産地消を。「地域で作って地域で食べる」を知ってもらう
2011年10月20日
天野洋子さん(山梨県都留市 (有)エルフィンインターナショナル 代表取締役社長)
山梨県都留市で米粉商品の開発・製造・販売をする天野洋子さん。平成15年4月に(有)エルフィンインターナショナルを立ち上げ、小麦、卵、乳製品をいっさい使わない米粉パン、麺、総菜を作り、学校給食や生協、病院等に納入販売している。都留市産コシヒカリの米粉を使った商品を、市民に知ってもらい食べてもらえるよう、地域でのPRや販売にも力を入れている。
米パンとの出会い
9年前の平成14年、天野さんは、起業家支援のため都留市が開設したSOHO支援センターに入居した。当時は市内でレストランを経営して3年目で、その先の展開をちょうど考えていた頃。食材にこだわり、ITを利用した販売をしながらレストランにも反映していきたいと考えていたが、具体的な形が描けずあせりがあった。
8月に行われたSOHO支援センター開所式で、天野さんがパン作りの講師もしていると知っていた市長に、「お米パンの勉強をしたらどうですか」と声をかけられた。この言葉に刺激された天野さんは米のパンに興味を持ち、すぐ情報を探した。
探し始めて2週間で、100%米粉でできたパン(卵・乳製品は使用)にたどり着き、食べることができた。新しい味との出会いに驚きと感激で、噛みしめるたびに笑みがこぼれて仕方がなかったという。何としても米パンを扱いたいと、話がまとまる方向にいくまで帰らないという熱意が通り、10月に製造許可の契約にこぎつけ、米パンを作るようになった。
小麦、卵、乳製品は使わない米粉パンを提供
製造を始めた翌年の平成15年4月に、(有)エルフィンインターナショナルを設立。個人の事業では販売が難しかったため、会社組織とした。
右 :エルフィンランド(本社と工場)
まず、都留市内の中学校の給食や、生協への販売が始まった。イベントがあればでかけて、米粉パンを売った。当時、米粉パンはまだ珍しく、話題にはなったものの、なかなか買ってもらえる商品には至っていなかった。市内2カ所に工場を立ち上げたものの、販路はこれからの状態だった。
そんな中、イベントで販売していると、「このパンは小麦、卵、乳製品を使っていますか」と毎回必ずというほど尋ねられた。「使っている」というと、がっかりと帰って行く。そのたびに「必ず小麦、卵、乳製品を使わないパンを作りますから待っていてください」と思い、お客様に求められる商品をつくろうと心に誓ったという。
それから工場に2カ月間籠もり、研究と試作を繰り返して、「小麦・卵・乳製品不使用の『笑みの米パン』」が完成した。
やがて全農や、アレルギー対応をしている調剤薬局から引き合いがあり、生協や病院等に販路ができた。問い合わせが増え、県外の自治体の学校給食への納品も始まった。販売量も取引先も増え、「こんな食品がほしい」などの提案も持ち込まれるようになった。アレルギーの子供が口にできる豆乳クリームを飾ったスポンジケーキ(小麦粉、卵、牛乳不使用)、米粉の麺やパスタ、米粉のパン粉を使ったコロッケ等の総菜なども商品化した。
そして「米の特長を活かしたパンを扱う。そのためには、小麦・卵・乳製品は必要ない」と平成16年には、全ての商品を小麦・卵・乳製品無しで開発することにし、工場も原料も徹底管理した。一般の人にも食べてもらえるおいしい米パンを作ることが、それ以来、最大の目標となっている。
左 :小麦粉、卵、牛乳は一切搬入がない
連携事業で地産地消を目指す
平成21年、天野さんは「地元の米粉を使って、地域に根ざした商品を作りたい」と市内の農家に働きかけ、10戸の農家に1haの圃場で米粉にする米を育ててもらうことになった。この試みは「都留市における米粉生産製造連携事業」となり、その年の9月に農林水産大臣の認定も受けることができた。
1年目(平成22年)は1haが対象だったが、年々面積を増やし、5年目には10haからとれる米(約50tの米粉)を活用していかなくてはならない。そこで1年目は、取引先にこの事業と商品のPRをした。少しずつ新しい商談が入ってきているという。
また、地産地消というからには、地元住民に知ってもらい、食べてもらわなくてはならない。富士山や富士五湖等の観光地も近い地の利を生かして、観光客向けのおみやげにもなりそうだ。そこで、市内の全小中学校給食への納入をはじめ、高速道路PAや道の駅、観光地、地元商店など、変わったところではお風呂屋さん(紅富士の湯)や、富士5合目での販売など、多様な場所で、「米を使った商品を知ってもらう」ことを心がけている。富士山の形をしたマカロンやプチマカロニなども商品化した。
アンテナショップでPR
アンテナショップも大いに活用している。今年6月に、市内初のアンテナショップ「エルフィンランド」を、市営うぐいすホール(都留文科大学に隣接)にオープン。米を使った商品を地元の人に知ってもらい、反応をじかに見ることができるようになった。米粉のケーキやパスタを喫茶店のメニューに取り入れ、「食事としての米粉提案の場」として注目している。メニューで使う米粉以外の食材も、なるべく地産地消で調達したいという。アンテナショップには、すでに口コミで知った人がパンを買いに来ているそうだ。
右 :玄米のケーキ
地元の子供が食べ、米を作る人が喜ぶしくみ
来年度は、田んぼの一部で山梨県の推奨米を作付けしてもらおうと考えている。
「何のために、米粉を使った商品を作るの? と聞かれたら、地元の子供たちが食べておいしいと喜び、米を作る人もよかったと思うことができるしくみを作って、米粉の利用・活用を広げていきたいから、と答えたい。米が形を変えていろいろな食品になるということを、地元の消費者や米農家の人たちに知ってもらいたい」「最近、自分の作りたい、目指してきた米パンに育ってきていると思えるようになりました」と天野さんは微笑みながら語ってくれた。
左 :米粉パン(給食用)
(水越園子 平成23年6月9日取材)
▼(有)エルフィンインターナショナル ホームページ