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農業経営者の横顔



原木しいたけのおいしさを毎日の食卓に!

2009年09月11日

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横田美由紀さん(岐阜県川辺町 有限会社しいたけブラザーズ)


 初対面から、こぼれるような笑顔に引き込まれた。笑顔の主は、横田美由紀さん(37)。兄弟三人で原木しいたけを栽培・販売する「(有)しいたけブラザーズ」の長男、尚人さんの奥様である。経理担当として会社を支えるだけでなく、新しい加工品の開発や商品パッケージをデザインするなど、経営に新しい風を吹き込む。家庭では、5人のお子さんの子育て真っ最中の主婦でもある。


とまどいの日々、やがて戦力に
 札幌市で看護師として働いていた美由紀さんは、北海道以外の土地で暮らすことも、農家の嫁として生きることも、全く考えていなかったという。が、尚人さんと結婚し長野県内で2年半暮らした後、尚人さんの就農のため、平成10年1月に川辺町に移り住む。


 新しい環境で生活が始まってまもなく、美由紀さんは三人目のお子さんを出産した。頼りたい夫は、新しい仕事で手一杯。朝から晩まで仕事に追われていた。ちょうど中国産しいたけが大量に輸入され、しいたけ経営が大変な時期だった。


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 :美由紀さんと喜子さん /  :直売所


 一年後、美由紀さんは三人のお子さんを保育園に預け、自ら仕事に加わった。その前から帳簿を担当していたが、直売のパック詰めや発送作業も手伝うようになった。
 「仕事の大変さ、そしてやりがいが理解できるようになり、応援したいという気持ちが湧いてきました」。仕事の面白さも、だんだんわかってきた。

 また、直売用のパッケージや包装デザインの提案もした。もともと、横田さんのしいたけは、市場出荷が中心だった。価格低迷を経て、原木しいたけを差別化できる直売に力を入れるようになり、パッケージや包装資材のデザインも少しずつ変更することにした。「若い感覚やセンスを生かしてくれる」と、横田喜子さん(尚人さんの母)。


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 :直売所 /  :梱包ひとつにもセンスが光る!  


 喜子さんは、しいたけブラザーズの前身、(有)ふじしいたけ園時代に、しいたけ加工品の「しいたけづくし」「山の幸海の幸」「からしっこ」を商品化した方だ。そこに、美由紀さんの新商品が加わった。「しいたけまん」「しいたけカツカレーまん」そして「煮込む茸」だ。


思いとアイデアから生まれた加工品
 横田家の食卓にしいたけがのぼらない日はない。5人の子供達に「しいたけを食べたい」と思ってほしくて、「手を変え品を変え、いろいろと作りました」。数々の料理の中で、全員が満点をつけ、商品化されたのが、「しいたけまん」と「しいたけカツカレーまん」だ。

 「しいたけまん」は、甘辛く味付けしたしいたけを中華まんの生地でくるんで蒸したもの。「しいたけカツカレーまん」は、しいたけカツと野菜がたっぷりのカレーが具材だ。ありそうでなかった、しいたけ生産者ならではの商品である。

 生地の小麦粉は、県産品100%を使っている。岐阜県の平成18年度「健康によい食品づくりコンクール」で岐阜県知事賞に輝いた逸品で、注文があったときにまとめて作る(夏期はお休み)。しいたけ狩りなどのイベントでも人気の商品で、「県の農業フェスティバルでは、一日に100個くらい売れます」と美由紀さん。


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 :しいたけまんとしいたけカツカレーまん(パネルから)
 :特大しいたけと「煮込む茸」 
 


 もう一つのヒット商品が、その名も「煮込む茸」。いわば、「戻し椎茸入り煮物の素」で、鍋でだしごと野菜を一緒に煮込めば、20分でおいしい煮物ができあがる。「私もそうでしたが、今の主婦が干し椎茸を使わないのは、戻すのに時間がかかって面倒だし、使い方がわからないから。これなら手軽におかずが作れます」。まさに、主婦のアイデアから生まれた加工品だ。主役にも脇役にもなるしいたけを使って、次にどんな商品がでてくるのか、楽しみである。


家庭と仕事の間で
 一時期、積極的に土日のイベントにも出掛けていたという美由紀さんだが、お子さんが不登校気味になったのをきっかけに、家庭と仕事のバランスを見直した。「仕事にのめり込みすぎ、家のことがおろそかになっていたのだと思います。今は子育てを優先しています。悩みながらですが」。

 いずれは「たくさんの人が集まる場所をつくりたい。しいたけを採って、食べてもらい、来てくれた人と私たち生産者が、食べ方や栽培の話などができる場所ができたら。レストランやお総菜やさんなどを開けたら、幸せですね」。


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 :次男千洋さんの自宅敷地内に設置された、しいたけの無人販売機
 :最寄り駅である高山本線中川辺駅にほど近い喫茶店の、その名も「しいたけごろごろパスタ」。しいたけブラザーズが栽培した肉厚のしいたけが、丸のままたっぷりと入っている 
 


 結婚当初から、作るだけでなく、人とかかわりをもてるような働き方をしたいね、と尚人さんと話していた。「でも、60歳になってからでもいいかな」という美由紀さんの目線の先には、喜子さんがいる。同じ非農家出身である喜子さんの柔軟さが、美由紀さんの背中を押しているのだと思った。


森を育てる
 しいたけブラザーズの経営は、保有ほだ木15万本、年間植菌数5万本で、生産量(年)は生椎茸50t、乾燥椎茸500kgという堂々たる規模だ。原木しいたけ栽培に欠かせない原木は、現在、東北地方の山からしか入手できないという。原木しいたけ栽培は、林業や自然環境を守ることと表裏一体である、と思い知らされる。


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 :しいたけ狩りのための圃場とほだ木
 :植林のための苗木を育苗中
 


 川辺町は、山と水に恵まれた山あいの町。大都市で生まれ育った美由紀さんが初めてここを訪れたとき、この環境に魅力を感じた、緑あふれる美しいところだ。

 ここに「森をつくろう」と、2年前から尚人さんが植林を始めた。息の長い取り組みである。やがてその森が、美由紀さん尚人さんお二人の、しいたけブラザーズの皆さんの、夢を実現する場所となりますように。(水越園子 平成21年8月25日取材)


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