提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ

MENU
全国農業システム化研究会|提案一覧
●背景
平塚市及び大磯町の施設キュウリ栽培では、農家の経験と勘に基づく温湿度管理が行われており、生育促進を意図して高湿度条件下による管理となっている。このため、病害の多発により収益が安定しないことが問題となっている。
●目標
ICTによる栽培環境データの収集、解析及び生育の見える化を行い、下記について調査・検討することで栽培管理の改善点を明確にし、病害発生の回避、収量や品質の向上等の効果を実証し、病害対策のための環境制御技術の導入普及を図る。
①病害予測機能の実証により慣行防除体系の改善点を明らかにして、環境制御による防除体系を検討する。
②病害の発生が少なく、高収量となっている農家のほ場で環境計測を行うとともに、生育診断の目安や栽培管理の聞き取り調査を行い、生育診断指標を確立する。
③炭酸ガス施用等の有無や複数農家間の比較により環境制御技術の収益性改善効果を調査し、導入普及に向けた経営モデルを策定する。
![]()
●実証期間
令和2年8月~令和5年7月
●これまでの実証調査結果
○令和2年
・篤農家やキュウリ種苗メーカー、JAとともに座談会を実施し、キュウリの生育ステージ分けを行った。
・生育の診断には複数の株の観察が不可欠である。
・着果負担等による草勢の低下は、開花節の直上位節の伸長(長さ・太さ)具合に影響される可能性がある。
○令和3年度
・第2、3次側枝を放任とすることが多く、評価項目として着目していた開花節位の直上の芽の生育が極端に停滞、退化側枝になっていた。
→開花節位の直上・直下の部位を評価項目とするのは継続して検討
・日射不足や不適正な環境で光合成が減少していた。
→施設内環境含めコントロール方法を検討
●ほ場条件

乾燥ほ場Y、高収量ほ場T、高収量ほ場Mは平塚市、高湿度ほ場Sは大磯町
●施設様式・規模等

※半促成作はつる下ろし栽培なので、生育・収量は参考値。他は整枝栽培
●栽培概要

※施肥体系:県内の慣行施肥基準に準じ、土壌養分の蓄積状況に応じ減肥。追肥例として、収穫開始後に週1回、住友液肥2号(窒素10%、リン酸5%、カリ8%)を300~500倍希釈でかん水同時施用。
〇供試機械
Plantect®(病害予測機能搭載環境モニタリングシステム)
バイエルクロップサイエンス株式会社
〇調査日:約1週間に1回
〇調査株数:1地点5株
〇測定項目:温度、相対湿度、CO2濃度、日射量、飽差
〇病害感染予測項目:ベと病、うどんこ病、褐斑病
●プランテクト設置状況
●管理画面
![]()
○病害調査及び供試機器(プランテクト)警報機器の評価
プランテクトの病害予測機能において、予測確率が上昇している病害については、薬剤や病害発生などのデータ入力によりさらに精度が向上すると思われるが、警報の多発生が認められるため、病害発生予測の参考程度の活用が望ましいと考えられた。また、おすすめ農薬の提示機能は、生産者自らが参考にするまでは至らなかった。しかし、今後、使用薬剤を継続的に入力してもらうことで、普及指導活動で散布体系の改善に活用できると考えられた。
○ステージ別生育診断指標及び施設内環境と生育・収量関係の検討
キュウリの生育ステージを5段階に分類し、そのうちステージ3~5の各ステージにおいて生育診断指標を検討した。ステージ3(8葉期~摘芯前)は下5節の茎長と茎径、ステージ4(摘芯後~第2側枝収穫まで)は着花直上の茎長、ステージ5(第2側枝収穫~栽培終了まで)は着花数を診断指標として活用できると考えられた。
![]()
図 プランテクトの警報と発病度の推移
表1 キュウリ生育期間の各ステージ

![]()
写真 ステージ4の測定部位
●薬剤散布回数
高湿度ほ場Sは、令和4年と比較し、使用した殺虫・殺菌剤を含む殺菌剤が6剤減となったが、うどんこ病、べと病の発生は確認された。また、令和3年と比較すると6剤増加していた。乾燥ほ場Y、高収量ほ場T、Mの殺菌剤数(殺虫・殺菌剤含む)は、令和4年と同数であり、今回の実証圃場ではプランテクト導入による薬剤散布数の削減はできなかった。
表2 薬剤散布回数及び使用剤数の経年変化

●農薬費
令和4年の抑制作型及び令和5年の半促成作型の農薬散布記録から、年間の農薬費を算出した(表3)。農薬費は、スケジュール散布を行っている乾燥ほ場Yがもっとも高く132千円、もっとも低い高湿度ほ場Sが、当県の経済性標準指標値とほぼ同額の101千円だった。供試した環境計測機器の導入コストは本体118千円、通信料月額4.5千円、病害予測機能月額1.5千円で、年間コストは88千円(本体は減価償却期間7年で計算)となる。年間コストを補えるほどの農薬費の大幅な削減は難しいが、スケジュール散布をしている乾燥ほ場Yは、若干の低減の余地はあると思われた。
表3 農薬散布状況と農薬費

注)農薬費は散布記録をもとに1回の散布量を300L/10aとして試算した。(土壌施用剤は含まない)
●年間の粗収益
令和4年の抑制作型及び令和5年の半促成作型の収量から、年間の粗収益を試算した(表4)。もっとも粗収益が高かったのは、CO2施用や環境制御装置を導入していない高収量ほ場Tの8,378千円だった。統合環境制御装置による換気管理によって低湿度を保ち、病害の発生がほとんど見られなかった乾燥ほ場Yは6,263千円、CO2施用とミスト導入により高収益を目指しているが病害の発生が大きかった高湿度ほ場Sは6,153千円と、県経済性指標値を下回っており、CO2施用等環境制御装置導入による収益性の向上はみられなかった。
経営モデルの策定のためには、今回明らかとなった生育診断の目安や慣行防除体系の改善点を活用し、収量の増加を図ることで、導入コストを上回る効果が得られることを確認する必要があり、今後の課題としたい。
表4 環境制御技術の導入状況と収量及び粗収益
注)粗収益は収量に横浜卸売市場平均単価を乗じて算出した試算値
本実証試験では、プランテクトを活用した環境制御による防除体系の確立や農薬費削減につながらなかった。
生育診断や環境モニタリングによる栽培改善も併せて病害低減や収量増加を図り、導入コストを上回る効果が得られることを確認する必要がある。今後の課題としたい。
○プランテクトによる病害予測機能を活用することで、従来の慣行防除体系の病原菌の耐性菌が発達しやすい散布体系を改善できることが明らかになった。これにより、環境制御による防除体系については、施設内環境との関係を明らかにする必要があるため、今後は、施設内環境と病害発生の関係を検討していく。
○実証農家の聞き取りや、生育調査により、各施設での温度推移、日照量やCO2濃度などの環境変化と生育、収量への影響が明らかになった。生育診断指標を策定できたことから、これらを環境管理も含む指導資料として活用する。
〇今回の実証試験の評価からは、CO2施用等による環境制御装置導入の収益性の改善には至らなかった。
〇今後は、今回の調査で明らかとなった慣行防除体系のローテーション散布の改善、生育診断指標及び環境制御の指導を行い、収量の増加を図ることで、環境制御機器の導入を上回る効果が取得できた段階で経営モデルを策定し、環境制御技術の導入普及につなげていく。
●実証年度及び担当普及センター
(令和5年度 神奈川県農業技術センター普及指導部、神奈川県農業技術センター企画経営部)