提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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「背景とねらい」
島根県では、水田を活用した園芸品目の生産(水田園芸)を推進している。西部地域では、主にキャベツ・ブロッコリーの生産を推進しているが、作土の次層に礫が分布するほ場が多いことから排水対策が限られ、排水不良により、長雨や大雨による冠水、湿害が原因で減収する事例がみられる。また、新規に水田園芸に取り組む農業者は、堆肥散布機械を保有していない場合や散布労力がないことがあり、土壌理化学性の改良のため、緑肥活用が求められている。
そこで、令和4年度は以下の実証調査をおこなった。
①礫質ほ場での排水対策技術の確立を目的に、カットブレーカーによる排水性向上を実証。
②土壌物理性の改良や養分供給を目的に、ライムギ、ヘアリーベッチを栽培し、効果を検証。
●島根県鹿足郡津和野町
鹿足郡津和野町は島根県南西に位置し、山口県山口市、萩市、島根県益田市、吉賀町に隣接している。町の中心地には津和野城跡があり、城下町には山陰の小京都とも称される美しい町並みが広がっている。中心地より南には標高908mのトロイデ型火山、「青野山」がそびえる。典型的な中山間地域で、水稲を中心に、サトイモ、ワサビ、山菜等の特色ある品目が生産されている。過去30年間の年平均気温は14.3℃、年降水量は1,908mm、年日照時間は1,619時間である。
●各区の概要
●ほ場条件
写真1 礫層の状況 (a)沼原1ほ場の礫層位置、(b)出現した礫
●鳥害対策の有無と方法
・集落と林地の境界にワイヤーメッシュの設置あり。
・各試験ほ場の周囲には電気牧柵を設置し、管理作業時以外は終日通電した。
●排水対策の実施状況
・ほ場周囲に額縁明渠を施工。
・図中の破線矢印部分にそれぞれサブソイラ、カットブレーカーを施工した。
・施工深度は40cmとした。
図1 排水対策施工図
●主な栽培基準
○ブロッコリーの作型
○栽植方法
○溝堀機 ニプロ OM312e (トラクタ:クボタ SL350HCQGSSWF)
実証ほ場での作業速度は0.19~0.24km/hで、カタログ値(0.5~2.5km/h)より遅かった。これは、実証ほ場の作土下にあった30cm級の礫がラセン刃部とカバーの隙間にはさまり、数回の作業中断を余儀なくされ、以降の作業は機械の破損防止の点から慎重に施工したためである。
作業精度は良好で、5月に施工した額縁明渠は、栽培終了時点まで崩れていなかった。
本機械は県内に普及しているが、礫質ほ場で使用する場合、作業前に除礫するなどの対応が必要である。
○カットブレーカーmini(写真左)
写真2 北海コーキ CKBS-04 ウエイト25kg×4個 (トラクタ:クボタ SL350GS-PC)
※右は振動サブソイラ:ニプロ S28-4S モール8φ(トラクタ:クボタ KL34R)
実証ほ場での作業速度は0.61~0-80km/hで、カタログ値(2~4km/h)より遅かった。これは、礫を含む基盤土の硬度が高かった上、立毛状態の緑肥が抵抗となり、速度を落として作業を行ったためである。また、作業途中で50cm級の巨礫に当たり、シャーボルトが破断して作業が中断したため、以降の作業は機械の破損防止の点から慎重に施工した。
カットブレーカーは設計上、生育中の緑肥ほ場や直径30cmを超える巨礫が存在するほ場での施工は想定していない。緑肥や巨礫がない箇所では作業精度は良好であり、同条件下では振動サブソイラの2倍以上の速度で施工できた。
適応馬力は20~50psで、県内の一般的な農家が所有するトラクターに適応するため、普及が見込まれる。水田ほ場で精度よく牽引作業を行うためには、パワクロトラクターでの運用が望ましい。
写真3 排水対策の施工状況 (a)額縁明渠、(b)弾丸暗渠、(c)全層心土破砕
表1 排水対策作業の施工時間
写真4 カットブレーカーおよび振動式サブソイラ施工の様子(5月26日)
(写真中の実線はカットブレーカー、点線は振動サブソイラが同じ時間に施工した距離を示す)
(参考)
▼礫質土の作業に効果的な排水対策機械「カットブレーカー」の実演会を開催(島根県津和野町)
○フレールモア
写真5 ニプロ FNC1602R-B(トラクタ:クボタ SL350HCQGSSWF)
(沼原3:ヘアリーベッチ)
実証ほ場での作業時間は10aあたり23~25分で、カタログ値の作業能率(10~25分/10a)と同等であった。
作業精度は良好で、ライムギ、ヘアリーベッチともにきれいな仕上がりであった。
適応馬力は24~35psで、県内の一般的な農家が所有するトラクターに適応することから、今後、本県での緑肥栽培の拡大に合わせて普及が見込まれる。
表2 緑肥細断作業の施工時間
1.心土破砕が排水性に及ぼす影響
額縁明渠に加え、カットブレーカーminiを施工することで排水性が向上した。
降雨後の土壌水分の推移から、本機械の排水性向上効果は振動サブソイラと同等であると考えられる。
作業速度の点から、礫質ほ場での排水対策は、カットブレーカーminiが有望である。
図2 降雨後の土壌水分の変化(沼原1)
水分センサー(METER社製10HS)で畝内土壌の水分の変化を調査
2.緑肥の作付けが土壌理化学性に及ぼす影響
ライムギ、ヘアリーベッチのいずれも地上部は十分に生育し、根は礫層まで到達した。ヘアリーベッチには多数の根粒がみられた。
緑肥の乾物収量は、ライムギがヘアリーベッチを上回ったが、成分含有率を比較すると、窒素・リン・カリ・カルシウム・マグネシウムはヘアリーベッチが高かった。
肥効の点から、9月どりブロッコリーの前作となる春播き緑肥は、ヘアリーベッチが有望である。
写真6 ライムギ
写真7 ヘアリーベッチ
表3 緑肥の分析結果
3.緑肥の排水性改善効果
緑肥の鋤き込みにより畝内の孔隙率が高まり、透水性の改善に寄与したことが示唆される。また、細断時の緑肥は根が作土下の礫層まで伸長しており、耕盤層の改良による排水性改善効果も考えられる。
表4 緑肥の作付がブロッコリー栽培後土壌の物理性に及ぼす影響
4.ブロッコリーの生育、収量に及ぼす影響
ブロッコリーの生育は、心土破砕を施工し、緑肥を作付けた場合が優れた。
また、ヘアリーベッチを作付けた場合、ホウ素欠乏症状が軽減され、上物率が高かった。これは、心土破砕により排水性が改善され、根の伸長が促進されたことや緑肥の肥効によると推察される。
図3 排水対策と緑肥が収穫時の地上部生育に及ぼす影響
図4 排水対策と緑肥が花蕾重およびホウ素欠乏症発生割合に及ぼす影響
写真8 ホウ素欠乏症状
表5 緑肥の作付がブロッコリー栽培後土壌の科学性に及ぼす影響
5.経済性調査
カットブレーカーminiを導入する場合、減価償却費がかかり増しになるが、収量の増加に伴う売上高の増加が経費を上回るため、導入メリットがある。
緑肥栽培を導入する場合、種苗費とフレールモアの減価償却費がかかり増しになるが、堆肥散布に係る機械の減価償却や労力の減少、土壌理化学性の改良効果等を総合すると、導入メリットはあると考えられる。
カットブレーカーminiの減価償却費は振動サブソイラの2.3倍程度であるが、1日あたりの作業可能面積を考慮すると、カットブレーカーminiが有望である。中山間地域における小規模農家へのカットブレーカーminiの導入は、過剰投資となる可能性があるため、共同保有を検討する必要がある。
表6 経営評価