提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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●背景
島根県では全県的にキャベツの作付推進を行っているが、多くは水田利用のため、排水不良による収量品質の低下が課題となっている。現地実証を行った大田市では、米価下落対策として水田の高度利用を推進しており、WCS用稲(早生)作付後への秋冬キャベツの導入を模索している。しかし、WCS稲の収穫からキャベツ定植までの期間が短く、降雨による定植準備の遅れや滞水による活着不良などがその後の生育に大きく関わるため、排水対策は重要な課題である。
そこで、額縁明渠や簡易暗渠の施工により排水性を改善し、水田におけるキャベツの安定生産技術の実証を行う。また、あわせて、簡易暗渠施工後の水稲作の導入要件について検討する。
●目標
水田排水不良ほ場でのキャベツ栽培において、リターンデッチャによる額縁明渠、穿孔暗渠機カットドレーンminiとサブソイラによる簡易暗渠を施工し、排水性の改善の改善により収量、品質の向上を図る。
●島根県大田市久手町
大田市は島根県のほぼ中央部に位置し、北は日本海に面し、東は出雲市、西は江津市、南は飯南町・美郷町・川本町に接している。市の南部には、標高1,126mの大山隠岐国立公園三瓶山や標高808mの大江高山などを主峰とする連山もあり、多様な自然に恵まれた地域である。農地は、標高0mの沿岸部平坦地から市の南部にある標高約500mの山間傾斜地まで広がり、水田及び三瓶山麓や国営開発地等の畑地等で水稲や園芸、畜産業が営まれている。
特に、畜産については、酪農、肉用牛、養鶏などが盛んで、法人による大規模経営も行われており、管内農業産出額の大半を占める。水田では主食用水稲の他、近年の米情勢を反映して、飼料用米やWCS用稲の作付けに加え、水田転作によるキャベツ栽培も増加している。
管内のキャベツ栽培は秋冬どり作型を中心に栽培面積1,085a、生産戸数26戸で規模としては小さいが、ほ場整備事業に伴う水田転作品目として栽培面積の増加が見込まれる。
※写真・図をクリックすると拡大します
排水対策施工図および調査地点の概略図
調査地点A~C:排水流量を計測
調査地点①~④:作土壌の含水率及び三相分布を計測
集水枡及び排水口流量調査(ml/min)
調査場所(A~C)は図参照
9月6日~7日にかけて、86.5mm観測
10月2日~3日にかけて、66mm観測
12月7日~8日にかけて、49mm観測
降雨時(9月7日)(左) ⇒ 降雨後(9月8日)(右)
土壌の三相分布
※調査場所(①~④)は図参照、調査日:12月11日
調査前日までの降水量の推移
土壌の含水率
※調査場所(①~④)は図参照、調査日:12月11日
定植作業は9月5日から開始したが、9月6日、7日に降雨があったため9月5日、8日、9日、10日に行った。降雨の影響から半自動移植機が使用できず、一部手作業で定植を行った。
定植後の活着は順調で、その後の生育は各区とも差が見られなかった。
しかし、9月下旬から雑草が繁茂し、初期生育が抑えられた。除草作業を行ったがヨトウムシ類の食害が甚発生となるとともに、その後の生育遅延に大きな影響を及ぼした。
また、10月以降の日照不足及び11月下旬からの低温の影響から生育が遅れ、結球開始が遅延した。
実証区(左)と慣行区(右)
実証区及び慣行区で生育調査(10月24日)及び収量調査(3月13日)を行ったが、結果に差は見られなかった。また、含水率及び三相分布に両区とも差が見られなかった。さらに、9月17日の降雨(87mm)の翌日、両区とも畝間に滞水が見られなかったことから、共通して施工した明渠による表面排水の改善が生育に影響を及ぼすことが推察された。
収量調査
※調査日(3月13日)
実証区(左)と慣行区(右)
平成29年9~10月は平年に比べて降雨量が多く、降り始めからの降水量が50mmを超えることが期間内に5回(20mmを超えることは9回)あった。同様な状況で、排水対策を行っていない前年作では、数日間ほ場に滞水することがあったが、本作では降雨の翌日には滞水が見られなかったため、実証した排水対策の効果があったものと思われる。
試験区では額縁明渠、穿孔暗渠、弾丸暗渠の施工、慣行区では額縁明渠のみの施工としたが、9月17日の降雨(87mm)の翌日には、両区とも畝間に滞水は見られなかった。また、生育調査(10月24日)の結果にも差が見られなかったことから、共通して実施した額縁明渠の効果が最も大きいと考えられる。ただ、滞水が見られなくなってからも集水枡から地下排水があったことから、弾丸暗渠及び穿孔暗渠に関しても一定の効果があったと考えられる。
額縁明渠、弾丸暗渠及び穿孔暗渠を施工しても、10aあたりの全作業時間は慣行体系と比較して大きな差は見られず、作業性にも問題が見られないことから、導入可能な作業体系と考えられる。
本調査により排水性の改善は認められた。特に額縁明渠は、崩れることもなく効果を発揮した。一方、本調査の排水対策技術の効果が何作続くかは調査が必要と思われる。
以上の結果から、水田転作ほ場の排水対策技術として、本実証調査の技術は有効であると考えられる。
しかしながら、これらの機械を個人単位で揃えようとすると費用がかかるため、導入にあたっては管内における共同利用の仕組み作りを推進する必要がある。
今後は、本調査で行った排水対策技術の共同利用の仕組み作りも念頭に入れ、普及活動を積極的に進めていきたい。
(平成30年度 島根県西部農林振興センター県央事務所農業普及部大田支所、島根県農業技術センター技術普及部)