提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


野菜

サトイモ栽培の機械化に関する実証(岐阜県 平成30年度)

背景と目標

●背景
 岐阜県中濃地域では、清流長良川からの豊富な支流を生かしたサトイモの栽培が盛んである。 栽培の中心となっている関市は江戸中期の諸国行脚の僧・円空のゆかりの地であり、栽培されたサトイモは「円空さといも」としてブランド化されている。また「世界農業遺産 清流長良川の恵みの逸品」にも選定されている。
 近年、マルチ栽培の普及と商品ブランド化により、営農組合の参入が増え、栽培面積が年々増加している。しかし、初期排水不良による生育不良、全面施肥によるコスト高、マルチ直下地温の上昇とマルチによる芋の肥大抑制による品質の低下、調製作業の長時間、重労働等が問題となっており、これらの問題を解決する必要がある。

●目標
 初期排水不良による生育不良の課題については、溝掘り作業と溝切り作業を併せたほ場排水性の向上を目指す。
 全面施肥によるコスト高の課題については、畝内施肥による肥料コストの削減を目指す。
マルチ直下地温の上昇とマルチによる芋の肥大抑制による品質の低下については、生分解性マルチ上に培土することによる地温抑制、品質向上を目指す。
 調製作業の省力・軽労化の課題については、サトイモ分離機、毛羽取り機の利用による省力化体系の確立を目指す。  また、これらの実証からサトイモ機械化栽培体系を確立し、サトイモ栽培の規模拡大を図る。

対象場所

●岐阜県中濃地域
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 中濃地域は、岐阜県の真ん中、日本の人口重心が位置する地域で、世界農業遺産を育む長良川及びその支流である板取川、武儀川、津保川の流域からなる。
 支流地域は中山間地域が多く、板取川の上流にあたる板取、洞戸地域では、米、ブルーベリー、キウイフルーツが栽培されている。津保川流域である上之保、武儀、富野地域は米、茶、ゆずが主な農産物で、集落営農組合や法人による営農への取組が増えている。武儀川流域(武芸川地域)では、農業生産法人が中心となり、米、麦、大豆等を大規模に生産している。中下流にあたる中部(美濃市)と南部(関市)の平坦都市近郊地域では、担い手や集落営農組合による米、麦、大豆栽培を中心に、いちご等施設園芸、夏秋なす、菊、鉢花等の産地が形成されている。
 また、地域全体に肉用牛、酪農、養豚、採卵鶏等畜産のほか、円空さといもが特産品として生産されるとともに、複数の園芸等品目を組み合わせた複合経営が行われるなど、多様な農業が展開されている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


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栽培基準

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溝掘り作業による排水対策の検討

●実証概要
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●作業別の能率と効果

額縁明きょ能率と効果

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溝掘り機

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実証区

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慣行区


・施工日:3月15日

・実証区は「乾田郎(スガノ農機)」を使用し、額縁明きょを施工。
・慣行区は、生産者が手作業で溝掘りを行った(1~2月に実施)。
・両区とも発芽率は約9割と高く、その後も発芽がみられ、100%近い発芽となった。
・作業時間は慣行区の38時間に対し実証区は11分であった(10a当たり)。
・11月の収穫終了後まで、溝の形を保ったままだった。溝の深さは15cmと浅いため、復田を考えた時に支障は出ない深さとなった。

●型式
溝堀機(D15BB)
トラクタ(SL24)

溝切り培土能率と効果
 
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溝切り作業

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実証区

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慣行区

・実施日 :7月2日
・作業時間:40分/10a

・深いところでは、3cmほど覆土できた。
・実証区は、手前から奥まで通路に水が溜まっているが、慣行区は、通路内でも水のあるところとないところの差がはっきりと出ている。
・7月以降干ばつが続き、十分にかん水ができなかったが、溝を切ったことにより最終的に約20cmダツ長に差が出た。

●型式
ニューウネマスター(TS750NWG)

※写真・図をクリックすると拡大します


●結果
・収量品質
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・販売額
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畝内施肥による肥料削減効果の検討

●実証概要
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●肥料の分布状況
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●作業別の能率と効果

畝立・植え付け・マルチ張り能率と効果
 
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エイブルプランター
(畝内施肥用に改良)

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畝立・植え付け・マルチ張り
同時作業


・移植日:6月15日

・エイブルプランタは、種芋プランタの後継機。種芋プランタより小型で、120cm幅(特注)のマルチ を使用。本来は3作業(畝立て、植え付け、マルチ)のみだが、施肥も一緒に行えるよう、特注でアタッチメントを改良した。

●型式
エイブルプランタ
トラクタ(NB21)

※写真・図をクリックすると拡大します

生分解性マルチ培土による地温抑制と品質向上の検討

●実証概要
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●作業別の能率と効果

培土能率と効果

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培土機

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・作業日:7月2日

・生分解性マルチの上に土をかぶせることでマルチ内の温度を下げ、品質向上を検証した。
・作業時間は10aあたり約40分程度。深いところでは、3cmほど覆土できていた。
・生分解性マルチは、覆土した後、一気に分解が進んだ。覆われていない部分は形を残しているが、強度は弱く、簡単に裂ける状況であった。
・里芋が生育するのに最適な地温は22~27℃と言われているが、8月中旬以降の丸芋着生と丸芋肥大時期に最適な地温に収まっていた。

●型式
ニューウネマスター(TS750NWG)

※写真・図をクリックすると拡大します


●結果
・培土実証圃ほの収穫量・品質
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・経営試算
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サトイモ分離機、毛羽取り機利用による作業省力化効果確認

●実証概要
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●作業別の能率と効果
調製能率と効果

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サトイモ分離機

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毛羽取り機


・芋山から掘り出した後の株を分離できる機械を要望(掘り起し直後でも可能)。
・上から圧力をかけて分離するタイプではなく、横から投入するタイプで、処理スピードが速い。
・サトイモ分離機は開発途中のため、十分な検証はできなかった。

●型式
サトイモ分離機(試作機)
毛羽取り機(SK-4AGR)

※写真・図をクリックすると拡大します

まとめ

1.生育について
・ほ場周囲の溝掘り及び通路に溝を切ることで、かん水時や降雨時に少量でもムラなくほ場中央まで水が行き渡り、最大約20cmダツが長く生育していた。
・畝内施肥は、7月以降の干害による著しい生育不良で検証ができなかった。
・生分解性マルチ上への培土は、地温の抑制効果が高いことがわかったが、ダツの長さに差はみられなかった。

2.収量・品質について
・溝掘り実証では、収穫量に差は見られなかった。しかし、実証区で通路に溝切りを行ったことにより、丸芋の肥大期に水が行き渡り、L、2Lサイズの丸芋が多く、出荷推定金額では上回った(※)
・畝内施肥は、収量が著しく少ないため、検証はできなかった。
・培土による収量の増加は、確認ができなかった。しかし、丸芋の中でも高値で販売できるL、2Lサイズの芋を多く収穫できたことにより、所得は向上した。
実際の出荷金額ではなく、調査株から収穫した芋を規格、サイズに分け、それぞれを平成29年の規格、サイズ別の単価を掛け1,900株/10aで試算した金額

3.実証した作業体系について
(1)溝掘り作業による排水対策の検討
溝を掘ることにより、ほ場内の初期の排水性が向上した。生育途中に通路に溝を切ったことでかん水時や降雨時にほ場内にまんべんなく水が行き渡り、生育ムラが少なかった。
(2)畝内施肥による肥料削減効果の検討
昨年課題だった植え付けが手作業となる問題も、アタッチメントの改良によりクリアできた。畝立、植え付け、マルチ張り、施肥作業が同時にできるため、作業の省力・軽労化につながる技術。しかし、著しい生育不良により検討はできなかった。
(3)生分解性マルチ培土による地温抑制と品質向上の検討
生分解性マルチ上に培土することで、夏場の高温障害の抑制と、秋以降の芋の肥大時期に生分解性マルチが溶け、芋の肥大の支障になりにくいと考え実証した。収穫量に差は見られないが、L、2Lサイズの芋を多く収穫できたことにより、所得は向上した。収穫時に雑草が多い等問題もあるため、今後検証する。

マルチ内温度の変化
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※調査期間:7月2日16時~10月19日11時まで1時間ごとに記録
※里芋が生育するのに最適な地温と言われるのは22~27℃。8月中旬以降の丸芋着生と丸芋肥大時期に最適な地温に収まっている


(4)サトイモ分離機、毛羽取り機利用による作業省力化効果確認
サトイモ分離機は開発途中で作業時間等の検証はできていない。

当該技術を導入した場合の経営的効果

・サトイモは水田転作作物の一つとして推進しているため、初期の排水不良で適期に作業ができていないことや出芽率の低下が問題となっていたが、溝掘り作業を行い初期の排水性が向上することにより、適期の植え付け作業が可能となった。また、通路に溝切りをすることで、少雨でもまんべんなく、ほ場内に水を行き渡らせることができた。
・畝内施肥は、アタッチメントの改良により、畝立、植え付け、マルチ張り、施肥が一度にできるため、作業の省力化に結び付いた。
・生分解性マルチ培土は、高温障害のリスク回避に結び付くことと、丸芋のL、2L数が増加し、収穫量が増加した。
・サトイモ分離機は開発途中だが、調製作業が一番時間がかかり、規模拡大のネックとなっているため、サトイモ分離機+毛羽取り機の省力化体系により面積拡大につなげることが可能と考えられた。

残された課題と今後の展開について

・溝を掘ることにより、初期の排水性が向上し適期に作業が可能となるため、水田転作では必須の技術とする。また、水の確保が難しいほ場では、少量の水でもまんべんなくほ場内に行き渡るため、通路の溝切りを推進する。
・畝内施肥技術の再検証。
・生分解性マルチ上に培土することにより、地温の上昇が抑えられ、孫芋の肥大に効果があったが、収穫作業に問題が発生したため、今後は植え付けの深さや培土量の検証を行う。
・開発が進められているサトイモ分離機を組み込んだ作業体系による省力化を検証し、規模拡大に向けた検証を行う。

(平成30年度 岐阜県中濃農林事務所農業普及課、岐阜県農業経営課)