提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


野菜

業務用たまねぎの機械化による省力生産技術の実証(宮城県 平成26~27年度)

背景と取組みのねらい

 宮城県加美郡加美町は、隣接する色麻町とともに、地域重点振興品目としてたまねぎを選定しており、出荷額が県内第一位の産地となっているが、近年生産者の高齢化等により、栽培面積や生産量が年々減少している。新規作付者の定着や規模拡大を阻んでいる主な原因は、移植及び収穫・調製作業の労働負荷が大きいことであり、雑草対策を含めた労働負荷軽減に関する早急な問題解決が求められている。
 そこで、機械利用による雑草対策と収穫調製時の労働負荷の軽減を目標に、除草機やマルチを利用した効果的な除草体系の構築と、手作業に頼っていた収穫・調製作業の機械化及び機械導入による省力・軽労化効果を検討し、さらに経営的な特徴、優位性についても明らかにすることとした。

対象場所

●宮城県加美郡加美町
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(地図をクリックすると拡大します)


 宮城県加美郡加美町は、県の北西部に位置する内陸地帯である。西部は船形山(1,500m)、荒神山(1,270m)などがあり奥羽山脈に接した丘陵地がある。鳴瀬川水系が貫流し、加美町の東部は大崎平野が広がり、豊かな穀倉地帯となっている。
 平均気温は11.2℃、平均降水量は1,186mm、標高31.59mで、比較的冷涼な地域である。また、積雪量が多く、西部は豪雪地帯に指定されている。加美町の耕地面積は6,260haで販売農家数は1,045戸(平成22年)である。農業産出額は約79億円で、その内訳は、米が約50%、畜産が約31%、野菜が約5.4%となっている。

実証した作業体系(作業名と使用機械)


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耕種概要

品種  :ネオアース
作型  :播種:8月下旬、移植10月下旬、収穫6月下旬
栽培様式:4条植え
うね幅 :150cm、株間11.2cm

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10a当たり約22,000株

●試験区の構成
 実証区1:黒マルチ+収穫調製作業の機械化
 実証区2:除草剤+機械除草+収穫調製作業の機械化
 実証区3:除草剤+収穫調製作業(手作業)

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※1 試験ほ場では、約3m間隔に弾丸暗渠を施工し、排水対策を実施した
※2 いずれの区も鶏ふん650kg/10a投入(9月16日)

作業別の能率と効果

畝立て、施肥能率と効果
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畦成形

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マルチ展張


・畝立て・施肥の作業時間は0.7時間/10a。畝立て・施肥・マルチでは1.8時間/10aであった

・畝の成形、マルチの展張、マルチ裾の土寄せ、移植精度についても実証区1(マルチあり)、実証区2(マルチなし)とも良好であった。

●型式
トラクター (KL31Z)
畝成形機 (RT3501)
ロータリー (RL180R-C)
マルチキット (RT350-M)
施肥散布機 (UH-70F-GTJ)

移植能率と効果
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移植作業

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作業時間は、0.8時間/10aとなった。

移植作業精度調査(%)
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●型式
移植機(OPK4)

雑草防除能率と効果
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機械除草作業

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・多目的田植機に除草機のアタッチメントを取り付けて除草作業を行った。機械利用により10a当たり30分程度で終了し、手取り除草に比べ大幅に短縮された。

・キク科雑草の優先する発生量の多いほ場であるが、いずれの実証区とも雑草は少発生であり、除草効果が高かった。

・機械による除草作業時期は3月融雪後からたまねぎの生育期までとなる。年によって雪解けの時期が前後し、たまねぎの生育状況が異なるため、草丈等を目安に機械除草を行うか否かの判断をする必要がある。
また、多目的田植機には施肥機能があり、除草と追肥を同時に行うことが可能なため、さらなる省力化が期待できる。

●型式
除草機
(株)キュウホー
H-22-4M,TTM-4

収穫・拾い上げ能率と効果
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慣行区(手作業)

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 収穫機(ボニータ)

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 拾い上げ(ピッカー)

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 実証区1の収穫物
(高温乾燥時の球表面の
焼け、裂皮)


・収穫機の作業時間は1.7時間/10a、拾い上げ機では9.2時間/10aとなり、慣行区の8.4時間/10a、22時間/10aを大幅に削減した。

・実証区1は、黒マルチにより他区より地温が高く推移したと考えられ、生育の進みが早く、球肥大が早かった。
しかしながら生育のばらつきが大きく、5月の高温と乾燥により、肥大球の肩部分の焼け・皮の割れ等が出て、可販収量が減少した。

●型式
収穫機:ボニータ(OH-3MS)
拾い上げ:ピッカー(KOP-1000)
調製能率と効果
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調製作業


・仕上げの3工程の中でも葉切り、根切り、仕上げ作業は、生産者の負担が大きい部分である。
この作業の機械化により、作業時間は10.8時間/10aと、手作業の30時間/10aに比べ約3分の1に短縮できた。

・収穫調製作業の機械化により、全作業時間は慣行の104時間/10aに対し、実証区2では62時間/10aまで削減された。

●型式
調製機
HOTM-1、N-10-7-BGⅡ、N-11-403D

(写真・図をクリックすると拡大します)

成果と考察

1.実証区1および実証区2の雑草抑制については、それぞれ効果が見られた。

2.総収量は実証区1で最も多かったが、乾燥による球表面のやけ、皮の割れが多く発生したため可販収量は最も少なかった。実証区2は総収量で3,727kg/10aとなり、慣行とほぼ同等で、可販率が高く可販収量は最も多くなった。慣行区では雑草の繁茂により球肥大が悪く、1球重が軽く可販収量が少なかった。

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※反収は1区1㎡として2反復の調査をおこない、10a当たり22,000株として換算した。

3.実証区1と実証区2の体系に要する経費は、マルチ利用により資材費分の経費が増加するが、除草に要する労務費と、除草機などに要する減価償却費が減少し、機械除草体系よりも生産コストは低減できた。売上高は、慣行区に比べて実証区1が114,739円減、実証区2が28,772円増加した。検討した2つの除草体系では経費、販売高の面 から、除草機を利用した体系が効率的であると考えられた。

4.収穫調製作業の機械化により、慣行の労働時間104時間/10aに対し、収穫機を利用した実証区2(機械除草区)では62時間/10aまで削減された。生産コストは、慣行(手作業)の97円/kgに対し、実証区が81円/10aとなった。コストを低減し、労働時間を短縮することで、取り組みやすい機械化栽培体系として提案できる。

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※各項目に対して慣行区より劣る:△、優れる:○、最も優れる◎ とした

●今後の課題
1.そろいの良い均質な苗の生産のために、育苗部分の技術的な指導を重点的に行う。
2.機械化体系による省力・軽労化についてまとめ、情報提供を行って機械化体系の定着と作付面積拡大を図る。

(平成26~27年度 宮城県農業振興課普及支援班、大崎農業改良普及センター)