提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ


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全国農業システム化研究会|提案一覧


大豆・麦

大豆の麦わらすき込みほ場における高速機械化体系の実証(福岡県 令和4年度)

背景と取組のねらい

 福岡県福津市では個別大規模農家の育成が進み、それらの大規模農家が地域の水田農業を担っている。農業者の高齢化に伴い、担い手への農地集積が進む中で、1経営体当たりの経営面積は年々拡大している。
 大豆栽培においては適期播種が重要であるが、西南暖地では播種適期が梅雨期と重なるため、降雨が続くと大規模農家では播種が大幅に遅れ、収量減につながる恐れがある。収益性の高い大豆経営を実践するためには、適期播種を中心とした効率的な作業体系の確立が求められている。
 そこで、大規模経営において、高速汎用播種機の導入により、降雨後速やかに大豆を播種できる機械化体系を実証することとした。あわせて、狭畦播種や播種時の不耕起播種と除草剤を組み合わせた難防除雑草に対する総合防除法の検討もおこなうこととした。

対象場所

●福岡県福津市
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 福岡県北部に位置する福津市は、福岡市と北九州市のほぼ中間に位置し、東部を山、西部を海に囲まれており、交通の利便性も良いため、自然豊かなベッドタウンとして栄えている。
 一方、農業も盛んで、水稲、麦、大豆の他、対馬海流の影響を受ける海岸線に近い準無霜地帯では、カリフラワー、ブロッコリー、キャベツなどの露地栽培が展開されている。

実証した栽培体系


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前作の調査結果概要および改善項目

1.前年度の調査結果の概要
 4条と6条の高速汎用播種機による不耕起播種について、慣行の播種方法と比較した。その結果、高速汎用播種は慣行より直進速度が速かったことから、大区画化することで播種作業時間を大幅に短縮できることがわかった。また、6条の高速汎用播種は、密植により最下着莢高が高くなるため、収穫ロスを削減できることや雑草の発生を抑制できることがわかった。

 一方で、以下の課題が残った。
①6条の高速汎用播種には直進アシスト機能付きトラクタに播種跡がわかるようにマーカーを装備して行い、直進速度は慣行区の1.6倍速かった。しかし、旋回時にマーカーを上下する時間がかかり、作業時間が慣行と同等となったため、旋回時間を短縮することが必要。
②6条は播種密度が高く、播種量が慣行区の2.4倍となったため、株間等の調整による播種量の削減が必要。
③当初は摘心を予定していたが、乾燥と大雨の影響で草丈が伸びず、摘心を実施しなかったため、摘心を行った場合のコストや収量について検討が必要。

2.今年度の見直しのポイント
 前年度の3つの課題を解決するために以下のとおり見直しを行った。
①播種時にマーカーが不要な自動操舵トラクタを使用することで、旋回に係る時間を削減する。
②目皿を改良することで、株間を広げ、播種量を削減する。
③狭畦播種と摘心を組み合わせた体系について、栽培性や収益性を評価する。

耕種概要等

●各区の概要
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●圃場条件
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※耕耘、整地法、砕土時の土壌水分、作土の砕土状態は、6月3日の事前耕起時の状況を記載。

●暗渠等の施工状況
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●主な栽培基準
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供試機械

自動操舵トラクタ(70馬力)(クボタ MR700H-QMAXUR1-P)
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・播種時にマーカーが不要な自動操舵トラクタを使用することで旋回時間の削減を試みたが、畝間の間隔を精度よく合わせるための切り返しを行ったため、時間短縮につながらず、結果として10a当たりの作業時間は慣行区と同等となった。
・直進性や作業幅は計画どおりで、作業精度は優れ、直進速度は速いことから、大区画圃場で使用する場合は、作業時間短縮と疲労軽減につながるものと推測される。

不耕起高速汎用播種機(6条)(アグリテクノサーチ NTP6AFP)
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穴を埋めて(赤丸部分)改良した目皿

・株間14cm用の目皿の穴を1個飛ばしとなるように改良したことで株間が28cmとなり、播種量を7.7kg/10aに抑えることができた。
・乾燥下での播種となったが、不耕起だったため、土壌水分を保てた結果、慣行区よりもスムーズな出芽につながったと考えられる。

成果

●播種作業
・麦わらの事前すき込みについては、サーフロータリーの活用ですき込み精度が高く、播種時における種子の露出といった麦わらによる悪影響は、ほとんど見られなかった。
前年度の試験で課題となった点のうち、播種時の旋回に要する時間の削減については、自動操舵トラクタの使用が旋回時間の削減にはつながらなかったものの、直進の播種速度が速いため、圃場を大区画化することで播種作業時間の大幅な短縮につなげることができた。大規模経営の場合、オペレーターの疲労軽減につながるものと考えられる。 播種量の削減については、改良した目皿を用いたことで、前年度より播種量を26%削減することができた。

播種作業時間
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●生育状況
・播種前後に降雨が少なかったため、乾燥による出芽遅延や出芽不良が見られた。さらに、出芽していた株も7月2半旬の降雨と高温により枯死が発生し、一部で欠株が発生した。特に播種深度が深かった慣行区での欠株の発生が目立った。
・出芽後も乾燥傾向で推移したため、全区で生育が抑制され、草丈が低く推移した。
・実証区1と2は密植の影響で、慣行区より最下着莢高が2cm程度高くなった。

●摘心作業
・大豆8葉期(草丈約40cm)の頃に、実証区1で10cm程度の摘心を行ったが、その後、分枝が伸びて他の区と同等の生育となった。
・9月に台風14号が襲来し、葉先の損傷と倒伏が発生したが、実証区1はほとんど倒伏が見られず、草丈が最も高かった実証区2が最も倒伏程度が大きかった。

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●雑草防除
・播種後の土壌処理剤の効果が高く、全体的に雑草の発生は少なかった。特に実証区では、生育中期の除草剤散布と狭畦栽培による大豆の葉の被覆効果により、雑草の発生、生育が抑制され、慣行区に比べて雑草の発生が少なかった。

雑草発生調査結果
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●収量、品質等
・坪刈り収量は実証区1が最も多く、実証区2と慣行区は同程度だった。
・実収量(コンバインデータ)でも実証区1が最も多く、慣行区が最も低かった。慣行区は播種後の乾燥により欠株が多かったことが実収量の低下につながったと考えられる。
・収穫ロス調査では、実証区1で最もロスが少なかった。これは密植により最下着莢高が高かったことに加え、摘心により倒伏が少なかったためと考えられる。
・粒厚分布については、大粒比率が慣行区で最も高かった。検査等級では大きな差は見られなかった。実証区は狭畦栽培で密植することによって最下着莢高が高くなり、収穫ロスが慣行区より25~38%少なくなった。
・実証区は狭畦栽培で密植することによって最下着莢高が高くなり、収穫ロスが慣行区より25~38%少なくなった。

収量調査結果
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●経営評価
・10a当たりの減価償却費は実証区が慣行区より増加したが、実証区1の摘心を行った区は収量が高く、売上高の増加により、事業利益は慣行区より増加した。ただし、摘心作業に時間を要し、労働時間が長くなったことから、摘心は生育旺盛な圃場のみで実施するのが良いと考える。

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※売上高、減価償却費及び事業利益の( )は慣行との差
※慣行と同規模での試算

実証した作業体系について

○麦わらの事前すき込みについては、サーフロータリーの活用ですき込み精度が高く、播種時における種子の露出といった麦わらによる悪影響はほとんどなかった。
○前年度の試験で課題となった3点のうち、旋回に要する時間を削減することについては、自動舵トラクタを使用することで、旋回時間の削減にはつながらなかったものの、直進の播種速度が速いため、圃場を大区画化することで播種作業時間の大幅な短縮につなげることができ、大規模経営の場合、オペレーターの疲労軽減につながるものと考える。
○播種量の削減については、改良した目皿を用いたことで、前年度より播種量を26%削減することができた。
○摘心を行うことで、莢数が増加し、収量向上と倒伏軽減につながったことから、密植で特に生育が良好となった場合は、摘心は有効であると考えられる。

当該技術を導入した場合の経営的効果

○10a当たり減価償却費は慣行同規模で慣行区と比べて実証区1は1,753円高くなるが、実証区1は慣行区より収量が高いため、10a当たりの事業利益は7,627円慣行区よりも高くなった。
○実証区2は収量が慣行と同程度のため、想定面積を播種機の作付可能面積の28haに拡大しても、10a当たりの事業利益は慣行区より4,643円低くなった。
○実証区では播種機は28haの作付けが可能であるが、摘心機の作業可能面積が8haのため、摘心は早播きで生育旺盛な圃場のみで使用する必要がある。

今後の課題と展望

○昨年度の課題は、旋回時間の削減を除いて解決できた。
○自動操舵トラクタと高速汎用播種機は、大規模経営で、大区画圃場で播種する場合に有効な作業体系であると考える。さらに、生育旺盛な圃場では摘心を実施することで、倒伏軽減や収量向上が期待できる。


実証年度及び担当指導普及センター
(令和4年度 福岡県北筑前普及指導センター、福岡県農林水産部経営技術支援課)