提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ

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全国農業システム化研究会|提案一覧
「背景」
茨城県でも、大規模普通作経営体は規模拡大傾向にあり、変動する需給状況や生産環境に対応しながら、省力低コスト栽培と安定生産の両立が求められているが、育苗、代かき、移植作業が3~4月に集中し、規模拡大に伴って移植作業が6月までかかる事例も見られ、対応手段のひとつとして直播栽培の導入による省力低コスト化、適期移植作業の実施による収量確保が必要とされている。
水田作経営ではスマート農業技術の導入が進んでおり、特に農業用ドローン(以下、ドローン)の利用が増加している。ドローンは肥料や農薬の散布だけでなく、湛水ほ場における水稲の種子の散播にも利用されるようになってきている(以下、ドローン直播)。ドローン直播は、育苗や移植作業が不要であるため、従来の移植栽培と比較して作業時間の短縮が可能であり、規模拡大に有効であることが期待される。
そこで、ドローン直播栽培の省力効果、水稲の生育と収量に対する影響を調査することとした。
「目標」
○ドローン直播の省力効果を実証するため、播種作業と移植作業の作業時間の比較を行う。
○ドローン直播が水稲の生育および収量に及ぼす影響を明らかにするため、ドローン直播と移植栽培の水稲の生育、収量の比較を行う。
○ドローン直播栽培導入による経営メリット、収益性を調査し、地域への導入に向けたマニュアルを作成する。
●茨城県坂東市
坂東地域農業改良普及センターが管轄する茨城県古河市、坂東市、五霞町、境町は、県の西南部に位置し、首都圏への交通利便性も高いことから第二次・第三次産業の進出による都市化が進んでいる。総耕地面積は13,331haで、管内市町の総面積316k㎡の46%にあたり、そのうち53%が水田、47%が畑である。主に、レタス、ネギ、キャベツ、ハクサイ等の露地野菜の生産が盛んであるが、一方で、水田作経営では総作付面積が約100haとなる大規模水田作経営体におけるスマート農業の活用が進んでいる。
○作業実施状況
実証区(ドローン直播)と慣行区(移植栽培)
○供試品種
夢あおば
○ほ場条件
○ほ場の状態
実証区:ほ場の中心部が若干高く、周囲はやや低く水たまりが生じる箇所があった。
慣行区:概ね均平はとれていた。
○栽植密度
○播種状況
※1:ゴルフボールを1mの高さから落とした時の沈下深
※2:播種深度は30粒を調査し、平均値を記載
※3:発芽率は、播種前のコーティング種子を用いて測定
○農業用ドローン(T25K)
使用したドローンT25Kは、従来機種のDJI製MG-1と比べて、不整形な圃場でも畦畔際まで散布でき、播種密度のばらつきも小さいことが確認できた。
播種作業はRTKを用いた自動飛行であったが、飛行高度のぶれは少なく、それに伴う播種深度のばらつきも、ほとんど認められなかった。
一方で、実証圃場の周囲は作付け品種が異なるため、本実証では圃場周囲から約2m内側で播種作業が行われた。それにより、圃場周囲の播種量は中心付近と比べて少なかったが、作業者の設定どおりに飛行した結果と考えられた。
このことから、ドローンT25Kはドローン直播栽培において、高い精度で播種作業を行えるスマート農機であると考えられた。
1.発芽・苗立ちについて
発芽率については、コーティング前が96%、コーティング後が95%と、コーティングによる発芽率の低下は認められず、高い水準だった。
苗立数は120本/㎡、苗立率は80%と高い水準だった一方、圃場周囲のうち排水不良箇所が出芽不良となった。
ImageJによる空撮画像の解析から、出芽不良面積は188k㎡だった。
○出芽状況
※出芽揃いは、50~60%程度の出芽が確認された日を記載
(5割に満たない場合は達観で概ね出芽が揃った日)
○苗立状況
実証区の空撮画像および出芽不良箇所の抽出
2024年8月20日撮影。出芽不良箇所の抽出および面積の算出はImageJを使用
2.作業時間について
実証区の延べ作業時間は、慣行区の74%となった。
特に、育苗管理の削減と、播種作業にかかる時間が移植作業より短いことが影響した。
作業時間
3.生育について
実証区と慣行区で、ザルビオフィールドマネージャーで測定したNDVIを比較した。
有効分げつ終止期では実証区の方が低く、最高分げつ期では実証区と慣行区の間に差は認められず、幼穂形成期頃では実証区の方が高かった。出穂期は実証区の方が早く、成熟期は実証区の方が遅かった。
NDVIの推移から、ドローン直播栽培の水稲の生育は、初期においては、種子の状態から圃場で生育を開始したことによる生育の遅れが要因で移植栽培より劣るものの、幼穂形成期頃では、播種量が移植栽培より多いことが要因で、生育が旺盛になると推察した。
ドローン直播栽培の出穂期が移植栽培より早く測定されたのは、移植栽培より栽植密度が高いことが影響したと考えられた。
一方で、成熟期が遅くなったのは、ドローン直播栽培の方が栽植密度のばらつきが大きかったことで登熟がばらついたためと考えられた。
ドローン直播と移植栽培のNDVIの比較
4.病害虫防除について
実証区・慣行区ともにイネカメムシの多発生による不稔被害が確認され、特に慣行区の不稔率が高かった。これは、出穂期の防除の有無を反映した結果と考えられた。
供試した飼料用米においては、不稔被害の軽減による収量確保を目的とした、出穂期の薬剤(液剤)散布の実施が重要である。一方で主食用米においては、収量確保のための不稔被害軽減と、品質確保のための斑点米の被害軽減も重要である。しかし、本実証の結果が示すとおり、ドローン直播栽培の登熟期間は移植栽培より長いため、それに応じた防除体系を選択する必要がある。
出穂期前にイネカメムシの多発生を確認。すくい取り調査では、10回振りあたり10頭のイネカメムシが捕虫された
5.収量について
坪刈収量の結果ではドローン直播栽培の方が多収となったが、慣行区の方が不稔率は高かった。シンク容量(㎡あたり籾数×精玄米一粒重)で比較したところ、ドローン直播栽培は移植栽培より8%高かった。
収量および収量構成要素
千粒重、粗玄米重、精玄米重は水分15%換算値を示す
千粒重と精玄米重は1.85篩目で調製したサンプルを用いて測定
ドローン直播栽培体系は移植栽培より作業時間が短く、規模拡大に資すると考えられる。
本栽培体系を成功させるためには、出芽、苗立ちの確保が不可欠であるが、それには播種後の細やかな水管理が必要で、代かき、移植作業の繁忙期に、高い頻度で水管理のためのほ場巡回を行うことになる。そのためには、生産者の農場から近距離の圃場で実施するか、遠方圃場の場合は、自動水管理システムとの併用を検討する必要があると考えられた。