提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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農業就業者の減少により、農地は一部担い手に集約が進んでいるが、経営・栽培管理だけでなく、熟練労働者が不足しているため、労務管理の負担が大きくなっている。これらを解決するため、土地利用型農業では農作業のロボット化が期待されている。
そこで、RTK方式の無人作業ロボット田植機の作業効率化や精度向上、作業技術や作業体系について検討する。
1.ねらい
(1)ロボット田植機と慣行の人力作業田植機を比較し、作業性能を明らかにする。
(2)作業状況や人員の比較を行い、効率的な作業体系の検討を行う。
2.試験方法
(1)試験場所 農業開発総合センター内ほ場(南さつま市金峰町大野)
(2)供試機 アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)VRS方式
人力作業田植機ウエルスター SPU500G
(3)試験期日 播種:令和5年5月12日、移植:6月8日(ロボット、人力作業)
(4)品目・品種 水稲「あきほなみ」
(5)試験区の構成
ロボット田植機と人力作業田植機の作業比較
図1 調査ほ場図
ほ場左側:人力作業田植機ウエルスター SPU500G
ほ場右側:アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)VRS方式
内側往復行程は通常数字記載、外周は○数字記載の順番に作業を行った。
両区とも外周は2周とした。
(6)試験条件
1)ロボット田植機区
オペレータ1名、補助者1名の合計2名で無人植付けを行った。
ほ場マッピング後に登録を行い、作業開始。内側往復植えを終了し、外周2周を植付ける。内周は無人の自動作業、最外周1周はオペレータが乗車し(人がセンサーの役目をする)自動作業で植付ける。ほ場マッピングを行い、苗を積み込み、植付けを開始した。
2)人力作業田植機(慣行区)
オペレータ1名、補助者1名の合計2名で植付けを行った。
オペレータが人力操舵を行い、ほ場内側と外周2周で植付けを行った。植付位置の目印として、外周分のマーキングと折り返し位置にポールを設置した。
左 :アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)
右 :人力作業田植機 ウエルスター SPU500G
(7)調査項目
作業能率。
3.試験結果および考察
(1)苗条件
5月12日に播種(育苗期間27日)、6月8日に植付けを行った。
苗性状は、草丈11.8cm、葉齢2.5、第一鞘高長4.9cm。
株間18cm設定に対し、ロボット・慣行ともに、実測値は17.2cmであった。
(2)ロボット田植機
ロボット田植機での作業時間は31.7分/10a(マッピング7.4分/10a、植付10.5分/10a、旋回9.5分/10a)。
ロボット田植機にはマップ情報が保存される。マッピングは毎年行うことが望ましいが、ほ場条件に変化がない場合、前年度のマップを使用できるため、作業時間が短縮できる。一方、慣行の人力作業では、毎年、外周や旋回位置の測定が必要となる。
(3)人力作業田植機(慣行区)
人力作業での作業時間は、42.0分/10a(植付前に外周幅や旋回位置取りを行う旋回位置決め9.6分/10a、植付17.8分/10a、旋回11.1分/10a)。
今回は外周を2周としたため、ほ場奥側を往復して2行程分の空きスペースを作り、旋回位置に目印の棒を立てた。
表1 作業時間(マッピング時間含む)
(4)水稲の生育・収量
ロボット、慣行ともに、出穂期は8月28日、成熟期は10月18日であった。
成熟調査の結果もほぼ同一で、差は見られなかった(表2)。また、収量調査でも両区の差は見られなかった(表3)。
表2 生育調査
表3 収量調査
4.まとめ
○マッピング時間まで含めた作業時間は、ロボット田植機が31.7分/10a、慣行の田植機は42分/10aとなった。8条植田植機による植付時間は、15分/10a程度であるが、今回の調査では、水田面積が小さく、効率的でなく作業時間が長くなった。
○ロボット田植機では、マッピングを毎年行うことが望ましいが、マップが登録できるため、ほ場条件に変化がなければ2回目の植付けからマッピング時間の短縮が可能となる。
○作業時間の差は、ロボット田植機8条植え、慣行田植機5条植えによる影響も受けているため、今後、同一条数植付けで大区画水田での検討を行う。
1.ねらい
ロボット田植機は、植え付け領域を自動設定するため、人力操作のように重複して植える必要がない。そのため、外周との境目に無駄な潰れ株がないと考えられている。そこで、ロボット田植機を使用して自動作業と人力作業植付を行い、自動作業時の苗使用量低減効果について調査する。
2.試験方法
(1)試験場所 農業開発総合センター内ほ場(南さつま市金峰町)
(2)供試機 アグリロボ田植機NW8SA-PF-A(無人仕様)VRS方式
(3)試験期日 播種:5月12日、田植日:6月8日(ロボット、人力作業)
(4)品目・品種 水稲「あきほなみ」
(5)試験区の構成
ロボット田植機を自動作業と人力作業で植えた場合の使用苗量調査
図2 ほ場図
3.調査方法
アグリロボ田植機を用いて自動運転と手動運転で植付けを行い、基準線外に植付けた株数を調査した。手動運転は、基準線にポールを立てた。
自動運転(左)と手動運転(右)
4.結果の概要および考察
(1)苗条件
5月12日に播種し(育苗期間27日)、6月8日に植付けを行った。
苗形状は、草丈11.8cm、葉齢2.5、第一鞘高長4.9cm。一株平均苗本数は7.4本であった。
(2)ロボット田植機
自動作業の旋回位置は、マップから自動設定される。株間21cmの設定で、両端それぞれの基準線からの苗位置は、外側に2cm、内側に18cm、もう片方は外側に9cm、内側に6cmずれていた。株間設置の21cm以下となり、ほぼ均一に植付開始・終了位置が揃い、潰れ株はなく、精度の高い植付けとなった(図3、4)。
図3 苗の植付け位置と潰れ株数
※ほ場内部の往復植付けで、基準線に対して内側、外側の苗の植付位置(距離cm)と無駄になる潰れ株数を表記。手動操作では基準線の外側に植付けられている
図4 自動作業と人力作業の植付け状況
※ほ場内部の色塗り位置が適正植付け領域 破線が苗が植付けられた位置
自動操舵では、植付領域の基準線に沿って、破線位置で植付けが行われている
手動操舵では、植付領域の基準線から大きく外にはみ出た破線位置で植付けられた
(3)人力作業
オペレータは、欠株を避けるため開始位置より早めに植付け、終了位置より遅めに植付けを終了するため、外周植付時に潰れ株が発生する。人力作業では、目印の基準より外側に最大46cmはみ出て、3株多く植えられていた。株間21cm設定の植付で、両端のはみ出た長さと潰れ株の平均は一端で22.5cmで1.8株、もう一端では36.3cmで2.5株となった(図1)。
手動運転(左)と自動運転(右)
手前が手動、奥が自動植付け
(4)苗の削減量
人力作業では、基準線の外側の株数を平均すると、1条あたり潰れ株が4.3株発生した。1haの水田を想定すると、外周2周として、内部は38行程となる。潰れ株は4.3株×8条8条×38行程で、1,307株発生する。
今回の設定では、1苗箱あたり1,144株で、自動作業で植えることで潰れ株発生を抑制し、1haで約1箱削減した(表4)。
表4 人力作業でと自動作業の潰れ株数
5.まとめ
○ロボット田植機の自動作業では、植付位置が同一線上となるため、無駄な苗の植付けが発生しなかったが、人力作業では、欠株の発生を防ぐため基準位置よりも外側に植えた。
○ロボット田植機の自動作業では、ほ場1haの内側往復植付で、潰れ株1,307株/haの発生を抑制し、慣行の人力作業田植機よりも1ha当たり苗を約1箱削減した。
○潰れ苗だけではない苗削減の効果は、確認計算では供試面積が小さかったため、大面積での確認が必要と考える。
6.今後の課題・展望
ロボット田植え機による効率的な作業の検討。
1.ねらい
ロボット田植機を自動作業で稼働させ、無人、有人での燃料消費量の調査を行う。
2.試験方法
(1)試験場所 農業開発総合センター内ほ場(南さつま市金峰町大野)
(2)供試機 アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)
(3)試験期日 令和5年6月8日
(4)試験区の構成
稼働面積は21.7a (37.6×19.2=7.2aの3周)。
苗の植付は行わないが、植付部は稼働する。
有人の想定として、自動作業状態でオペレータ1名(体重70kg)が乗車。
縦48.4m、横37.6mの水田を使用し、内側の8行程、面積7.2aを3回走行して、合計21.7aでの消費燃料を満タン法で計測した(図5)。
ほ場写真
図5 供試ほ場 往復部を3回空移植作業
5)調査項目
無人、有人状態稼働時間、燃料消費量。
無人自動運転(左)と有人自動運転(右:負荷70kg)
3.試験結果および考察
(1)作業時間
水田の内部往復行程7.2aを3回連続可動して、合計21.7aで調査した。合計作業時間は、無人条件25.2分(作業16.0分、旋回9.2分)であった。有人条件は25.6分(作業16.7分、旋回8.9分)であった(表5)。
各回の作業時間比較は、7.2aの作業時間は無人有人どちらも8分程度で同等であった(表6)。
表5 人員乗車が作業時間や燃料消費に与える影響
表6 各回の作業時間
(2)消費燃料
消費燃料は、無人540ml、有人880mlとなった。また、ほ場中央部で走行速度を測定した結果では、無人3.3km/h、有人3.2km/hと、ほぼ同じ速度であった。有人と無人で作業時間が同等であったことから、エンジン回転数を上げ走行速度を同等にしたことが消費燃料の差になったと考える(表7)。
1haの燃料消費量は、無人2.49L、有人4.06Lで差は1.57L。時間当たり消費燃量は、無人1.3L、有人2.1Lで、無人作業時の消費燃料低減が確認できた。
表7 燃料消費率
4.まとめ
○負荷が増加しても作業時間は同等であったが、速度を同等にするために、エンジン回転数を上げたと考えた。
○消費燃料は、無人2.49L/ha、有人4.06L/haとなり、無人作業で、1.57L/haの燃料削減が確認できた。
1.試験方法
(1)試験場所 :鹿児島県南さつま市金峰町
(2)試験期日 :令和5年3月23日
(3)供試機 :アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)RTK方式
(4)試験区の構成
田植機現地作業調査
ほ場面積70a(94×75m)作業人員3名で作業し、田植と同時に施肥を行う
図6 ほ場図
(6)作業方法
前年度の登録マップを使用。ほ場内部での植付では、苗つぎと農道の位置を考慮して短辺方向で往復作業を行い、1往復ごとに苗つぎを行った。
無人自動作業は、ほ場内部の往復と外周2周のうちの内側1周を行った。最外周1周は、オペレータが乗車して、自動作業による植付けを行った。
(7)調査項目
作業時間、作業人員配置と役割
2.試験経過の概要
(1)調査した生産者は、令和4年度からアグリロボ田植機を導入し、鹿児島県農業開発総合センター スマート農業拠点施設に設置してあるRTK方式の電波を受信して、植付けを行っている(図7)。
図7 RTK受信範囲
鹿児島農業開発総合センター スマート拠点施設から半径5km範囲
(2)作業者は4名で、軽トラ3台(肥料運搬1台、苗運搬用2台)とトラクタのけん引台車に田植機を乗せ、ほ場へ移動した。苗は専用ラックに70箱収納、肥料はパレット乗せで、生産者宅でフォークリフトにより軽トラックに積み込んだ。
(3)田植作業者は3名で、田植機オペレータ1名(経営主)、苗つぎ肥料、補給、軽トラ移動などの補助作業者2名。
3.試験結果および考察
(1)作業時間
ほ場面積70.5aの実作業時間は109.1分(植付59.9分、旋回9.4分、移動13.8分、苗補給19.3分、肥料補給6.6分)。
10a換算作業時間は、15.5分であった。
※田植機によるほ場のマップ作成時間は含まず
表8 ロボット田植機NW8SA-PF-A(無人仕様)による作業時間
(2)作業人員の動き
ロボット田植機の自動作業により、経営主(熟練作業者)だけでなく、未熟練者にも植付を任せられるようになり、経営主がほ場を離れて、軽トラックで苗を取りに行くことが可能となった。これまでこの間は田植機は停止していたが、ロボット田植機の導入により、苗運びや肥料の準備などとの同時作業が可能となった。
苗積み込み作業(左)/ 植付作業(左)
(3)ロボット田植機の利点
旋回後の畝あわせが自動のため、マーカ跡を残す必要がなく、水が深い状態でも植付作業が可能。
4.まとめ
○アグリロボ田植機 NW8SA-PF-A(無人仕様)の作業時間は15.5分/10aで、昨年度の登録マップの使用により、作業時間が短縮された。
○ロボット田植機の自動作業により、不慣れな雇用者でも植付作業が可能となり、経営主が苗などの資材運搬をしている間も田植作業を停止することなく作業ができるため、効率的であった。
○今回の作業は、ロボット田植え機単独の植付作業のため、既存の田植え機との組み合わせ作業等についても検討を行う。
●実証年度及び担当組織
(令和5年度 鹿児島県農業開発総合センター園芸作物部農機研究室)