提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
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●背景
近年、農家の高齢化が進むとともに、人手不足が課題となっている。また、一定の技術を要する肥料散布や畝立て作業等は、人手が確保できたとしても任せられないといった一面もある。このような中、トラクタ走行時の直進性アシスト機能やガイダンスモニター上で次行程への誘導を行う機能を有する「直進操舵アシスト機能付トラクタ(以降、GSトラクタ)」により、ベテラン農家ではなくても技術を要する作業が可能になると期待されている。
●目標
D-GNSS仕様の直進操舵アシスト機能付きトラクタ(GSトラクタ)を活用し、ブロードキャスタによる肥料散布において散布むらが小さくなるかを検証する。また、RTK仕様のGSトラクタを活用し、まっすぐな畝立てが可能か検証する。
試験方法
1.試験概要
(1)試験場所 :鹿児島県農業開発総合センター農機研究室ほ場(鹿児島県南さつま市)
(2)供試機 :GSトラクタSL350(D-GNSS仕様)
ブロードキャスタMP330(散布幅8m)
肥料散布の様子(GS区)
(3)供試肥料 :高度化成肥料14(散布量:60kg/10a)
(4)試験時期 :令和5年5月
(5)試験区規模:20a(40m×50m)
(6)試験区構成:GS区、手動区
2.調査項目及び調査方法
(1)調査項目
肥料散布精度試験:走行経路の直進性、走行間隔、肥料散布精度
作業能率試験 :作業時間、燃料消費量
(2)調査方法
①各区のトラクタ作業方法
GS区における作業方法は、直進作業はGS機能による自動直進操舵で、旋回作業はガイダンスモニターに従って手動操作して次行程へ進入した。手動区は、すべて手動で行った。
②走行経路の直進性、走行間隔の調査方法
走行経路の直進性及び走行間隔は、基準線から各走行経路(4行程)までの距離を15mおきに測定した。
走行経路が表示されたガイダンス液晶モニター
③肥料散布精度の調査方法
肥料散布精度は、画像処理により評価した。
走行経路を0mとして左右に2m間隔で最大8m地点までの各地点に35cm×35cmの枠を設置し、撮影高度を固定してiPhone12で枠内を撮影した(図1、図2)。
撮影した画像は、画像処理ソフトウェアimageJにより2値化した後、枠内の散布した肥料に該当する色域の面積を測定し、枠内全体に対する肥料の面積率を算出した。
算出した肥料面積率から各区の変動係数を算出し、変動係数が小さいほど肥料の散布むらが小さいと評価した。
図1 肥料散布精度試験における枠設置位置
図2 肥料散布精度:枠(35cm×35cm)
設置した各枠を撮影高さを揃えて撮影
画像処理により散布した肥料の色域を選択し,肥料被覆面積率を算出
(肥料被覆面積率=肥料に該当するピクセル数/枠内全体のピクセル数)
④作業時間の調査方法
作業時間は、散布開始から散布完了までの時間を測定した。
GS区は、作業開始前の基準線AB点登録に要する時間も作業時間に含めた。
3.試験経過の概要
試験時のGSトラクタ衛星測位状況は、捕捉衛星数16、水平精度劣化指数0.65(約1.2以下であれば良好)、位置精度劣化指数1.28、衛星配置の偏り34であった。
4.試験結果および考察
(1)GS区と手動区の走行経路直進性および走行経路
基準線から各走行経路(4行程)までの距離を測定し、走行経路の直進性を比較した。各行程の開始点からの最大ずれ値は、GS区が7~18cmで、手動区19~20cmであったことからGS機能による直進性の向上が認められた(表1)。
表1 各区の走行経路直進性
図3 各区の走行経路直進性
また、直進性と同様に、基準線から各走行経路(4行程)までの距離を測定し、走行経路の間隔を比較した。各行程の設定値800cmからの最大ずれ値は、GS区が12~40cmで、手動区が35~145cmで、GS区のずれがガイダンスモニターの誘導により小さくなったが、40cmと大きくずれる行程もあった(表2、図2)。
ガイダンスモニターでは、次行程の走行経路にあたるラインが表示され、モニターを見ながら機体にあたるアイコンを目視でラインに合わせるが、数十センチの誤差でもアイコンがライン上に乗るため、このことがずれの要因と考えられた。
表2 各区の走行間隔
図4 各区の走行経路の直進性及び走行間隔(上:設定値、左下:GS区、右下:手動区)
(2)GS区と手動区の肥料散布精度
各区各位置で測定した肥料面積率から各区の変動係数を算出し、変動係数が小さいほど肥料の散布むらが小さいと評価した結果、変動係数は、GS区が0.19、手動区が0.21で僅かにGS区が小さかった(表3、図3)。
表3 各区の肥料散布精度
注)肥料面積率測定方法:
各位置に35cm×35cmの枠を設置し、一定の高さで撮影した画像を画像処理ソフトウェアimageJにより2値化し、枠内のうち肥料に該当する色域の面積を測定
肥料面積率の各値は3か所の平均値
本試験における工程間隔は8mで、直下はトラクタ走行ライン上の位置
図5 各区各位置における肥料面積率
(3)GS区と手動区の作業時間
各区の作業時間は、GS区が21.8min/haで、手動区の19.7min/haに比べて約1割長かった。GS区は作業を始める前に基準線AB点を登録する必要があり、この設定時間が作業時間増の要因となっており、肥料散布や旋回の作業時間に大きな差はなかった。
表4 各区の肥料散布作業時間
5.まとめ
GSトラクタを活用し、ブロードキャスタによる肥料散布を行った結果、手動操作に比べて僅かに散布むらが改善された。今回は20a区画と比較的小規模区画での試験であり、大規模区画ではさらに散布むら改善の効果が得られると考えられた。
1.これまで得られた成果の概要
GSトラクタによる畝立作業は、作業速度が速いほど直進性が高い傾向が見られた。 (令和1年)。
2.本年度のねらい
RTK仕様のGSトラクタを活用し、まっすぐで等間隔な畝立てが可能か検証する。
3.試験方法
(1)試験場所 :鹿児島県農業開発総合センター農機研究室ほ場(鹿児島県南さつま市)
(2)供試機 :MR650H【GS(RTK仕様)】(作業速度1.5km/h)
2畝用畝立マルチャ PH-MD211(隣接マーカ搭載)
(3)試験時期 :令和5年11月
(4)試験区規模:432㎡(7.2m×60m) 4行程(8畝)
2.調査項目及び調査方法
(1)調査項目
畝直進性、畝間隔
(2)調査方法
トラクタ走行の操作のうち、直進作業はGS機能による自動直進操舵で、旋回作業は手動操作で行った。次行程への進入は、畝立てと同時に次行程の走行ラインをほ場に引く隣接マーカを出し、目視でマーカ跡に合わせて行った。
畝長の方向に5m刻みで、基準線から各畝(計8畝)のセンターラインまでの距離を測定し、畝の直進性及び間隔を調査した。
図6 畝直進性、畝間隔の評価
トラクタ進行方向に5m間隔で,基準線から偶数畝のセンターラインまでの距離を計測
ラインマーカを搭載した2畝用畝立マルチャ
4.試験結果および考察
(1)RTK仕様のGSトラクタによる畝直進性および畝間隔
基準線から各行程偶数畝センターラインまでの距離を測定し、畝の直進性を評価した。
各畝の開始点からの最大ずれ値は3~6cmであった(表5)。
GS機能(RTK仕様)で立てた畝の空撮
表5 GSトラクタの畝立てにおける畝の直進性
また、直進性と同様に、各行程偶数畝センターラインまでの距離を測定し、畝の間隔を調査した。ガイダンスモニターによる次行程への進入は、数10cmのずれが生じてしまったことから、本試験では隣接マーカにより次走行経路のラインをほ場に引き、次行程への進入を行った。設定値180cmからの最大ずれ値は、3~11cmであった
(表6、図7)。
表6 GSトラクタの畝立てにおける畝間隔
図7 GSトラクタの畝立てにおける畝の直進性及び間隔
(左:設定値(理想図)、右:GS区)
5.まとめ
○RTK仕様のGSトラクタによる畝立てでは、各畝の開始点からの最大ずれ値は3~6cmで、RTK仕様のGSトラクタを利用することで、誰でもまっすぐな畝を立てられると考えられた。
○等間隔な畝立てを行うには、現状ではガイダンスモニターの誘導より隣接マーカの利用が望ましいと考えられた。
6.今後の課題・展望
直進性が重要となる作業(畝立て、直播栽培における播種や中耕培土等)におけるGSトラクタの効果的な活用方法。
●実証年度及び担当組織
(令和5年度 鹿児島県農業開発総合センター園芸作物部農機研究室)