提供:(一社)全国農業改良普及支援協会 ・(株)クボタ
MENU
プラウ耕は、作物残渣を埋没させる反転と土壌を砕く破砕の効果があり、畑作における作付け前耕うん、効率的な深耕、緑肥等の鋤込み及びサトウキビの廃耕処理等に利用され、大きなけん引力を必要とすることから、半装軌式トラクタの性能を十分に活かすことができる。
プラウ耕には片側の車輪を溝に落として走行する溝曳き耕と、未耕土上を走行する丘曳き耕がある。丘曳き用のプラウは3連以上で、大型のトラクタを使用することが一般的である。
溝曳き耕(上)と丘曳き耕(下)
(クリックで動画再生)
溝曳き用のプラウは中小型のトラクタで使用できるが、半装軌式トラクタの場合、ゴムクローラの損傷が懸念される。
そこで、30~40kW(40~60PS)級の半装軌式トラクタを用いた新たなプラウ耕法として「礫(れき)曳き耕」について検討した。礫曳き耕は、礫溝を跨ぎ、片側車輪が反転礫上、反対側車輪が未耕土上を走行する耕法であり、ゴムクローラ損傷の回避や礫底の踏圧軽減が期待できる。
鹿児島県は島嶼部を含め南北約600kmの広がりがあり、耕地面積は117,000haで、うち畑地が80,000haを占め、畑地率は68%である。温帯から亜熱帯にかけての広大な畑地でサツマイモ、サトウキビ、バレイショ、茶などが栽培されている。また、畑土壌は黒ボク土壌、琉球石灰岩風化土壌(重粘土壌)等様々な土壌が分布している。
今回の実証は、農業開発総合センター大隅支場(黒ボク土壌)、農業開発総合センター徳之島支場(重粘土壌)で行った。
プラウの礫曳き耕は、礫溝をまたいで片側車輪が未耕土上を、もう片側の車輪が反転礫の上を走行する。溝曳き耕では溝内を走行する車輪を反転礫側にずらすことで、車輪、クローラを溝に落とすことなく走行できる。
この場合、走行位置が反転礫側にずれ、有効な耕幅が狭くなることから、プラウを未耕土側へオフセットする必要がある。プラウをオフセットすることでけん引負荷が片側へ偏るが、半装軌式トラクタは直進性が良く、作業への影響が少ない。車輪式トラクタの場合、負荷が偏ると車体が斜めになって走行するため、耕幅が狭くなる傾向がある。礫曳き耕法は、半装軌式トラクタの特性を活かせる耕法だと考えられる。
礫曳き耕の状況(クリックで動画再生)
オフセット量と有効耕幅(クリックで動画再生)
オフセット10cm(左)とオフセット40cm(右)
半装軌式トラクタと車輪式トラクタの礫曳き特性の比較
溝曳き用2連リバーシブルプラウをベースに、礫曳き用プラウを試作した。
オフセット量を増やしても第1ボトムの全面で作業することは困難であることから、2連リバーシブルプラウの第1ボトムを取り外し、ガイド輪を取り付けた。
ガイド輪の取り付けは第1ボトムの取り付け穴を利用し、第1ボトムとガイド輪の交換により、溝曳き、礫曳きの兼用が可能な構造とした。
ガイド輪はゴム車輪を上下に1対装着し、リバーシブルプラウの反転作業に対応できる。接地面を第2ボトムと同じレベルとすることで耕深の安定を図り、側面を第2ボトムウイング端と合わせることで耕幅の安定が図られる。
試作した礫曳きプラウ
礫曳き、溝曳きの兼用が可能
礫曳き使用プラウによる耕
礫曳きプラウの作業性能実証として、黒ボク土壌においてSL60、SL60P3、SL45PC2を供試し、琉球石灰岩風化土壌でSL60PC3を供試した。礫曳きプラウは黒ボク土壌でVRY202Cベース機、RQY202Cベース機、重粘土壌でRQY162Cベース機を供試した。
いずれも助走区間10m、測定区間20mを設け、設定速度ごと実作業速度、スリップ率、けん引動力を測定した。設定作業速度は約4km/h、約6km/h、約8km/hの3水準とし、実作業時の速度低下程度、スリップ率で作業可否を判定した。
礫曳き仕様プラウの耕幅は溝曳きプラウの半分になる(2ボトム→1ボトム)ことから、作業負荷が減少し、より小型のトラクタで作業可能であると考えられた。そこで、作業負荷の比較のため、半装軌式トラクタによる溝曳き耕も行った。礫曳き耕の耕幅は約50cm、溝曳き耕の耕幅は約100cmとした。
けん引動力の測定法
土壌条件と耕法(礫曳き、溝曳き)、トラクタ馬力帯による作業可否の判定を、設定速度と実作業速度の比較で行った。
黒ボク土壌ではSL60、SL45を用いて耕深30cmの礫曳き耕、溝曳き耕を行った。
重粘土壌ではSL60を用いて耕深30cmmの礫曳き耕、溝曳き耕を行った。
設定速度は、4km/h、6km/h、8km/hの3水準とした。
●SL60黒ボク土壌
礫曳き、溝曳きとも耕深30cmで作業可能であった。
溝曳きの設定速度8km/hで速度低下が見られた。
●SL45黒ボク土壌
礫曳き、溝曳きとも設定速度4km/h、6km/hでは耕深30cmで作業速度の低下はなかった。
設定速度8km/hでは礫曳きは耕深25cmの作業が可能であったが、溝曳きは作業できなかった。
●SL60重粘土壌
重粘土壌ではSL60の溝曳きは不可能であった。
溝曳きは設定速度4km/h、6km/hでは十分作業可能であったが、8km/hでは速度低下が大きかった。
作業可否の判定
けん引力に優れる半装軌式トラクタを用いたプラウ耕について検討した。
これまで中小型の半装軌式トラクタによるプラウ耕は、中・小型トラクタで用いられる溝曳き耕法ではクローラ損傷の恐れがあり、推奨されていない。また、丘曳き用プラウは概ね50kW以上の機関出力を要し、中小型のトラクタでは適応不可能であった。
しかし、礫溝をまたぎ、片側車輪が未耕土上を、片側車輪が反転礫上を走行する礫曳き耕法をおこなえば、中小型の半装軌式トラクタによるプラウ耕が可能となった。この場合、2連プラウを1連で利用することなどで、耕幅が半分になることもあるが、けん引抵抗が減少することで、負荷が小さい土壌(黒ボク土壌)では30kW(40PS)級の半履帯トラクタで耕深30cmを確保でき、負荷が大きい重粘土壌では、40kW(60PS)級の半履帯トラクタでのプラウ耕が可能となった。
●参考データ
SL45、黒ボク土壌における作業性能(2018)
SL60、重粘土壌における作業瀬能(2018)
SL60、SL45の作業性能比較(試作礫曳きプラウ、黒ボク土壌、2017)
(平成28~30年度 鹿児島県農業開発総合センター大隅支場農機研究室、徳之島支場)