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IPM

万願寺トウガラシにおける天敵製剤を活用した防除体系の確立(京都府 令和5年度)

背景と取組みのねらい

 中丹地域の主力品目である万願寺トウガラシでは、主要な害虫としてアザミウマ類、ハダニ類、ホコリダニ類があげられる。現在は化学農薬による防除が主流となっているが、万願寺トウガラシはマイナー作物のため登録農薬が少なく、薬剤抵抗性のリスクを抑えるためにも、化学防除以外の防除方法を組み合わせた総合防除の確立が必要であると考える。
 そこで令和3年度から、アザミウマ類及びハダニ類に対する天敵(スワルスキー、スパイカルEX)を利用した防除、赤色防虫ネットによるアザミウマ類の飛来防止、循環扇による病害防除などを組み合わせたIPM体系について検証を行っている。
 令和3年度及び4年度の試験結果では、スワルスキー及びスパイカルEXを利用したIPM体系による害虫防除について、一定の効果が得られた。
 そこで令和5年度は、アザミウマ類の抑制効果に重点を置き、スワルスキーとタイリクの組み合わせによる防除体系について実証するとともに、過去2か年の実証は1地域のみであったため、他地域でも同様の防除効果を得られるか実証した。また、病害は抑制できなかったため、これまで実施してきた循環扇の稼働のほか、定期的な予防防除及び黒枯病に対する資材消毒などを行い、防除効果について実証した。

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地域の概要

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 京都府中丹地域は福知山市、舞鶴市、綾部市の3市からなり、京都府の中央部より北寄りに位置している。
 主な栽培品目としては、水稲などの土地利用型作物のほか、万願寺トウガラシや茶、賀茂ナスなどが栽培されている。その中でも、万願寺トウガラシは舞鶴市が発祥であり、中丹地域の主力品目として「万願寺甘とう」のブランドで販売されている。

実証圃の概要

(1)実施場所
京都府綾部市上八田町

(2)対象作物
万願寺トウガラシ

(3)調査期間
令和5年4月25日~11月17日

(4)調査区構成

表1 調査ほ場の調査区と概要
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※天敵放飼時期: スワルスキー 4月25日、タイリク 5月11日、スパイデックス 8月18日


(5)調査位置図

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図1 ほ場位置図

(6)天敵放飼時期
 万願寺トウガラシ3月中旬~4月上旬定植の作型では、温度確保のため定植後~4月中旬までビニルトンネル被覆を慣行としており、作業性を考慮しトンネル除去後に放飼とした。

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調査内容および方法

(1)天敵の定着・害虫の発生状況

表2 調査方法及び調査項目
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(2)ハウス内温湿度の測定
 データ欠測のため、慣行区の隣接ハウスの約170cmの高さに設置した温湿度センサのデータを使用した。

(3)農薬使用状況
 生産者からの聞き取り及び防除履歴により調査した。

(4)費用(円/10a)
 ・農薬費:天敵製剤及び農薬の購入費用
 ・人件費:天敵製剤の放飼と化学農薬防除にかかる時間を1時間あたり1,000円として人件費を試算
 ・その他資材費:防虫ネット、循環扇の費用

調査結果

(1)天敵の定着・害虫の発生、葉への病害被害状況
①アザミウマ類の抑制効果
 試験区のカブリダニ類は、5月11日に3.23頭/葉、0.08頭/花の定着を確認し、6月6日に5.05頭/葉まで増加した。その後栽培終了まで0.08~1.55頭/葉で推移した(図2及び3)

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万願寺トウガラシ葉裏のスワルスキーカブリダニ

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図2 葉あたり天敵類及びアザミウマ類の密度

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図3 花あたり天敵類及びアザミウマ類の密度

 試験区のヒメハナカメムシ類は、6月6日に0.03頭/花、8月1日に0.02頭/葉の定着を確認した(図2及び3)。その後栽培終了まで0.02~0.08頭/花で推移した(図3)

 慣行区のヒメハナカメムシ類は、6月6日に0.05頭/花の生息を確認した。その後約2か月は確認されなかったが、8月18日に再び確認し、10月18日には0.27頭/花まで増加した(図3)
 試験区のアザミウマ類は、6月6日に発生を確認し(0.02頭/葉、0.12頭/花)、6月下旬頃からのカブリダニ類の減少に伴い増加し、8月18日に2.07頭/花に達した。その後ヒメハナカメムシ類の増加に伴い密度は下がり、栽培終了まで低い密度で推移した(図2及び3)

 慣行区のアザミウマ類は、5月11日に発生を確認し(0.03頭/葉、0.05頭/花)、6月6日に0.30頭/花まで増加した(図2及び3)。6月10日にスピノエース顆粒水和剤を散布し一度密度は減少したが、8月31日に1.71頭/花まで再び増加した。その後はヒメハナカメムシ類の増加に伴い減少し、栽培終了まで低い密度で推移した(図3)

 両区とも株あたりの花数は概ね同様に推移した。試験区では、花数が減少した6月下旬頃にカブリダニ類が減少し、それに伴いアザミウマ類が増加した。また、慣行区では花数が少なくなっていた8月下旬頃にアザミウマ類が多く認められた(図4)

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図4 株あたり花数及び天敵類、アザミウマ類の密度

②ハダニ類及びホコリダニ類の抑制効果
 試験区のハダニ類は、5月11日に0.02頭/葉を確認し、7月下旬頃までは低い密度で推移した。後述のとおり慣行区で増加し始めたため、アカリタッチ乳剤を2回散布した。その後、試験区でも増加し始め、8月18日には0.22頭/葉まで増加したため、スパイデックスを8月18日に放飼した。その後は栽培終了まで0頭/葉に発生を抑制できた(図5)
慣行区のハダニ類は、4月25日に0.12頭/葉を確認した。そのため5月にモベントフロアブルを2回散布したところ、7月上旬頃まで低い密度で推移したが、7月20日に0.12頭/葉まで増加したため、アカリタッチ乳剤を2回散布した。その後は栽培終了まで低い密度で推移した(図5)
 また、両区ともホコリダニ類の発生及び被害は見られなかった(データ略)。

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図5  カブリダニ類及びハダニ類の密度

(2)ハウス内温湿度と病害発生状況
①ハウス内温湿度

 株元から高さ170cmの最高気温は7月下旬に50度を超え、平均気温は6月下旬から8月下旬まで30度前後と非常に高温であった。
 平均湿度は、7月下旬から8月上旬にかけて70%前後まで低下し、その後は75~80%で推移した。

②病害発生状況
 試験区では、斑点病は8月1日、黒枯病は7月20日、うどんこ病は10月18日から発生を確認した。発病度は斑点病が0.8%~30.0%、黒枯病が0.8%~38.3%、うどんこ病が10.1~28.3%であった(表3)。その他の病害として、白絹病が散見された。
 慣行区では、斑点病及び黒枯病は7月20日、うどんこ病は10月2日から発生を確認した。発病度は斑点病が0.8%~25.0%、黒枯病が0.8%~19.2%、うどんこ病が0.8~30.0%であった(表3)。その他の病害として、白絹病が散見された。

表3 病害発生状況
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(3)農薬使用状況
 定植以降の天敵放飼を除く農薬防除回数は慣行区では14回(うち殺虫・殺ダニ剤8剤、殺菌剤12剤)に対し、試験区では15回(うち殺虫・殺ダニ剤4剤、殺菌剤15剤)であった。試験区では慣行区に比べ、殺虫剤の散布回数を抑えることができた(表4)

表4 農薬使用状況
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(4)費用
 防除費用は、試験区では天敵資材を導入したことにより、慣行区より高くなった。また、試験区は慣行区より農薬防除回数が増えたことから、農薬防除に係る人件費も高くなった。一方、害虫防除に係る農薬防除費及び人件費については、試験区が慣行区より低くなった(表5)

表5 防除費用
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※人件費は1,000/時間で計算


(5)収量
 両区の収量は、試験区が4.3t/10a、慣行区が3.4t/10aであり、試験区が慣行区より高くなった。

農家の意見

・天敵放飼により、例年より果実のアザミウマ類の被害が少なかったので良かった。
・今回ミヤコカブリダニを放飼しなかったので、ハダニ類の発生が栽培当初心配になった。入れられる天敵は複数入れた方が、安心感が強い。

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結果考察

1.害虫の発生について
(1)アザミウマ類

 試験区、慣行区ともに栽培期間を通してアザミウマ類の発生が認められた。
 試験区では6月下旬からアザミウマ類が増加していた。アザミウマ類の増加要因としては、花数の減少、及び7月下旬頃から約1か月間ハウス内平均気温がカブリダニ類の生育適温15~30度を超える高温であったことによるカブリダニ類の減少が考えられる。
 また、両区とも8月下旬頃にアザミウマ類が多く発生したがその後減少している。アザミウマ類減少の要因としては、ヒメハナカメムシ類の増加が考えられる。

(2)ハダニ類
 試験区、慣行区ともに断続的にハダニ類の発生が認められた。
 試験区では5月の発生確認後、7月下旬頃まで低密度で推移した。7月下旬頃に慣行区で増加し始めてすぐアカリタッチ乳剤を散布したが、試験区でも増加した。スパイデックスの放飼後に減少したため、スパイデックスによる防除が十分に行えたと考えられる。

(3)ホコリダニ類
 全調査区に発生が見られなかった。トウガラシ類に発生するホコリダニ類は、気温が35度を超えると増殖率が下がるとされる。実際、アメダスデータで9月中旬に最高気温が35度を超える日がある等、産地全体として9月以降も例年より高温であったことから、ホコリダニ類が増加しづらい気候条件であったと考えられる。

2.病害発生状況
 斑点病と黒枯病の発生が認められた。しかし斑点病は収量に影響のあるほどの発病度ではなかった。
 黒枯病は資材の消毒及びロブラールくん煙剤による予防を実施したものの、栽培終了時、試験区では約40%の発病度であり、収量全体の1~2割を廃棄するほどまん延した。まん延した要因として昨年度発生した黒枯病の菌糸や分生子がハウス内で越冬し、菌密度が高くなったこと、罹病葉などの除去が遅れたことが考えられる。
 うどんこ病は、両区での発病が遅く、発病度も低かった。うどんこ病の発病適温である25度に対し、9月以降も気温が30度を超える日が続いたことから、産地全体でも発病率が低く、まん延しづらい気候条件であったと考えられる。

3.各資材の防除効果について
(1)天敵資材

 アザミウマ類、ホコリダニ類の発生抑制について、試験区では慣行区に比べ、対象害虫への農薬散布の回数を抑えられ、発生状況は慣行区と同程度となった。アザミウマ類による果実被害が減少したとの生産者の感想もあり、スワルスキーとタイリクの組み合わせにより、アザミウマ類に対してより効果的な防除ができたと考えられる。 ハダニ類の発生抑制について、両区ともに低密度の発生であったが、試験区のハダニ類は天敵放飼後すぐに減少し、スパイデックスの一定の防除効果が確認できた。

(2)循環扇
 電力の関係上24時間運転することができず、効力の確認ができなかった。

(3)黒枯病防除薬剤
 試験区の発病度として、調査期間中の最高値は38.3%(11月2日調査)であり、昨年度の最高発病度43.3%(10月5日調査)に比べ抑えられた。 今年度は資材の消毒、罹病葉の除去や予防防除を行ったが、発病時期は昨年度に比べ早かった。薬剤についての効果は判然としなかった。

4.まとめ
(1)害虫

 昨年度に引き続き、トンネル除去後に天敵放飼を行い、栽培終了までカブリダニ類、タイリクが定着し、害虫の発生抑制ができたことから、初期の放飼時期については問題ないと考える。スワルスキーとタイリクの組み合わせについても、アザミウマ類の密度を抑制できたことから、高い防除効果が確認できた。

(2)病害
 3年間の実証を通し、病害による被害を抑制することが重要と考え、今年度の実証に取り組んだが、発病時期の遅延にはつながらなかった。しかし今年度は昨年度に比べ、罹病葉の除去、予防防除により全体的な発病度を抑えることができた。
 今後も引き続き予防効果のある薬剤の定期防除と罹病葉の除去に加えて、夜間の断続的な循環扇の稼働も検討し、黒枯病の発病抑制を行う。

(3)全体
 昨年度までの実証により、スワルスキー及びスパイカルEXを軸としたIPM体系は一定確立できたことに加え、今年度の試験結果から、スワルスキー及びタイリクを軸としたIPM体系も効果が確認できた。重点的に防除したい害虫に対して、IPM体系を選択できる状態になると考えられ、管内の万願寺トウガラシハウス栽培におけるIPM防除普及の追い風になると考える。また、他地域においても天敵資材により一定害虫を抑制できたことから、地域性を問わず防除効果を確認できたと考えられる。

提案するIPM防除体系

(暫定)IPM防除体系(ハウス:3月中旬苗定植)
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(令和5年度 京都府中丹東農業改良普及センター、京都府農林水産部 農産課、京都府農林水産技術センター 農林センター 環境部)