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全国農業システム化研究会|提案一覧


IPM

シソにおける天敵資材等を用いたIPM技術体系の検討(愛知県 令和5年度)

背景と取組みのねらい

 シソ栽培ではハダニ類、アザミウマ類、アブラムシ類などが主要害虫であり、特にハダニ類やアザミウマ類は薬剤抵抗性の発達が多くの農作物で問題となっている。シソはマイナー作物に分類され、使用可能な薬剤が限られることから抵抗性が発達しやすく、これらの害虫対策がより喫緊の課題となっている。

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 ハダニ類の食害(左)とアザミウマ類の食害(右)

 化学合成農薬の散布回数を減らすために天敵の利用が以前から検討されてきたが、費用対効果の面や、防除効果の安定性に課題があるなどの理由で、普及に至っていない。 そこで、シソ栽培における天敵の防除効果と防除コストを慣行の薬剤防除と比較し、効果的な防除体系を検討する。

地域の概要

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 東三河地域は豊橋市、豊川市、蒲郡市、田原市からなり、温暖な気候と水利に恵まれた全国でも有数の園芸地帯である。本地域ではキャベツやブロッコリーなどの露地野菜、トマト、イチゴ、シソなどの施設野菜、輪ギクや鉢物などの施設花きの栽培が盛んである。
 シソ(オオバ)の栽培農家は約200戸、栽培面積約80haであり、地域全体の出荷量は年間約3,600tで、全国の6~7割を占めている。
 シソ栽培は年間2~3回作付けし周年出荷を行っている。栽培施設はガラス温室、硬質フィルムハウスなどで、主な装備は温風暖房機、ヒートポンプ、電照設備、遮光・保温カーテン、かん水装置である。数年前から一部で炭酸ガス発生装置を用いた環境制御技術が導入されている。

実証圃の概要

(1)実施場所
愛知県豊川市

(2)調査期間
令和5年4月18日~8月7日

(3)各区の概要
試験区の概要、放飼した天敵の種類については、表1、2のとおり。

 表1 試験区の概要
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 表2 放飼した天敵
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 天敵放飼の様子

調査内容および方法

(1)ハウス内温湿度調査
各区、温湿度ロガーを設置し測定した。

(2)害虫の発生状況及び天敵の定着状況調査
調査方法及び調査項目は表3のとおり。

 表3 調査内容
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(3)農薬使用状況調査
生産者からの聞き取り及び防除履歴により調査した。

調査結果

(1)ハウス内温湿度調査
 天敵区では、ハウス内の平均気温が6月までは16~25℃前後で推移し、7月以降は30℃前後で推移した(データ省略)。7月以降は日最高気温が35℃以上となる日が多かった。また、平均湿度は50~90%で推移した。
 慣行区では、5月中旬頃までハウス内の平均気温が天敵区より2~3℃程度高い傾向がみられた(データ省略)。6月下旬以降は、日最高気温35℃以上となる日が多かった。また、平均湿度は天敵区同様、50~90%で推移した。

(2)害虫の発生状況及び天敵の定着状況調査
①天敵の定着状況
 カブリダニ類は、放飼後の1回目調査では収穫葉で11頭、中位葉で4頭確認でき、約0.1頭/葉の密度だったが、それ以降は収穫葉では確認できず、中位葉でも1頭と、低密度で推移した。そのため、6月21日に天敵を追加放飼した。追加放飼後1回目の調査では、中位葉で2頭確認できたが、その後は確認できなかった。

②ハダニ類
 天敵区では、収穫葉、中位葉ともに5月中旬頃までは0~1頭、0.02頭/葉の低密度で推移したが、5月下旬に発生が多くなり、特に中位葉では47頭、1頭/葉の密度でハダニ類がみられた(図1)。そのため、6月上旬に殺ダニ剤を散布した。その後は、ハダニ類の発生はみられなかった。
 慣行区では、収穫葉、中位葉ともに調査期間を通してハダニ類はほとんど発生しなかった(図2)

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 図1 天敵区における1葉あたりのハダニ類数(左:収穫葉、右:中位葉)

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 図2 慣行区における1葉あたりのハダニ頭数(左:収穫葉、右:中位葉)


③アザミウマ類
 天敵区では、5月および7月上旬に若干発生したが、調査期間を通して低密度で推移した(図3)。収穫葉における食害痕も5月および7月上旬にみられたが、食害率は1~2%程度と低かった。
 粘着板調査では、発生の増えた5月、7月に、粘着板における誘殺数も増加した(表4)。また、ハウス中央に設置した粘着板が、サイドに設置した粘着板より誘殺数が多い傾向がみられた。

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 図3 天敵区における1葉あたりのアザミウマ頭数(左:収穫葉、右:中位葉)


 表4 天敵区における粘着版のアザミウマ類誘殺数(左:黄色、右:青色)
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 ※設置位置 1~3:ハウス中央、4~5:サイド

 慣行区では、調査期間を通して発生がみられ、特に6月以降が多かった(図4)。収穫葉における食害痕も6月以降に増加し、特に7月は食害率21%~38%と非常に高くなった。粘着板調査では、5月の誘殺数が非常に多かった(表5)。また、天敵区同様、ハウス中央に設置した粘着板の方が、サイドに設置した粘着板より誘殺数が多い傾向がみられた。

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 図4 慣行区における1葉あたりのアザミウマ類数(左:収穫葉、右:中位葉)


 表5 慣行区における粘着版のアザミウマ類誘殺数(左:黄色、右:青色)
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 ※設置位置 1~3:ハウス中央、4~5:サイド

(3)農薬使用状況調査
 定植以降の殺虫剤散布回数は、天敵区が6回(うち天敵放飼2回、スポット散布1回)、慣行区が20回であった。
 薬剤費は、殺虫剤で天敵区が85,319円/10a(うち天敵78,054円/10a)、慣行区が77,249円/10aで、慣行対比110%であった(表8)
 また、作業時間は、天敵区が511分/10a(うち天敵122分/10a)、慣行区が2247 分/10aであった。
 作業労賃を1,000円/10aで算出すると、天敵区が8,516円(うち天敵2,033円)、慣行区が37,450円で、慣行対比23%であった。

 表6 防除経費比較(殺虫剤)
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 ※作業労賃は1,000円/時間で算出

農家の意見

 試験ほ場では天敵があまり確認できず効果が判然としなかったが、他のほ場でも利用しており、防除回数が減る等効果を実感している。使用できる農薬が限られ、抵抗性の発達も懸念されるので、今後も天敵を活用して防除したい。

結果考察

(1)害虫発生状況、天敵の定着状況
 ハダニ類については、天敵区で5月下旬に発生が増えた。ハダニ類の発生が増えたのを確認してすぐに気門封鎖剤のスポット散布を実施したが、その後の発生を抑えることができず殺ダニ剤の全面散布が必要となった。すでに害虫が増殖しているタイミングでのスポット散布にはあまり効果がなく、早い段階での散布が重要であると思われる。
 アザミウマ類については、天敵区、慣行区ともに粘着板での誘殺数は多かったが、慣行区では収穫物にも被害がみられたのに対し、天敵区では目立った被害はなかった。カブリダニ類の密度は低かったものの、一定の防除効果があったと考えられる。

 試験期間を通して、カブリダニ類は低密度で推移した。一時期ハダニ類が多く発生したものの、それ以外はハダニ類、アザミウマ類ともに発生を抑えられていた。カブリダニ類の密度が低いながらも、防除効果はあったと考えられる。カブリダニ類の密度が低かった要因として、ほ場が乾燥していたことが考えられる。
 令和4年度試験の天敵区と、今回の天敵区の日最低湿度の旬別平均の比較を表7に示す。5月は令和4年度試験の天敵区の方が、湿度が低かったものの、それ以外の時期は今回の天敵区の方が湿度が低かった。

 表7 R4年度天敵区との旬別日最低湿度の比較
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 カブリダニ類は、施設内の乾燥が著しいと増殖しにくくなるため、ある程度の湿度は必要であると確認できた。
 今回のような乾燥条件の場合、パック製剤の利用を検討するなど、対策が必要であると思われる。

(2)防除経費(殺虫剤)
 作業労賃を含めた防除経費は、慣行区に対して天敵区で82%となり、天敵区の方が防除経費が低くなった。これは、慣行区が例年害虫の発生が多く、防除回数がかなり多かったためである。

今後の課題

 今回の試験では、天敵利用による防除効果は確認できたものの、カブリダニ類は試験期間を通して低密度で推移した。安定した防除効果を得るためにも、天敵が定着しにくい環境条件での対策を検討しておく必要がある。
 また、防除経費についても今回は天敵区の方が低くなったが、天敵にかかる費用は安くはないため、効率的かつ低コストな天敵を利用した防除体系を、今後も検討していきたい。

提案するIPM防除体系

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※天敵防除のポイント
○天敵放飼時期は、オオバ定植から2週間後を目安に。
○ほ場内の害虫をゼロにしてから天敵放飼。
○薬剤散布の間隔が開くと、アブラムシ類の発生が増えるので注意。
○害虫が多発生した場合は、天敵への影響を考慮せず薬剤散布を行う。
○カブリダニ類は乾燥に弱いため、過乾燥は避ける。

(令和5年度 愛知県東三河農林水産事務所農業改良普及課、愛知県農業総合試験場普及戦略部戦略統括室)