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全国農業システム化研究会|提案一覧


IPM

高知県における施設キュウリの土着天敵利用型IPM実証調査(高知県 平成27年度)

背景と目的

●背景と課題
 高知市春野町の施設キュウリでは、ミナミキイロアザミウマの媒介によるキュウリ黄化えそ病(MYSV)(以下黄化えそ病)のまん延と4月以降の加害による品質低下が問題になっており、栽培を早期終了する農家が多い。キュウリの栽培終了後も、メロン、スイカなど黄化えそ病を罹病するウリ科作物が地域内で栽培されており、常発しやすい環境である。
 ミナミキイロアザミウマについては、従来から物理的防除および耕種的防除の徹底などの対策を取ってきたが、各種化学合成農薬に対する感受性が低下していることから、防除効果が十分でない。さらに、3月以降の労力不足により、防除が不十分となり急激に増加する状況となっている。
 春野町では施設キュウリと多くの作型が存在するメロンが栽培されており、地域全体としてミナミキイロアザミウマの防除に取り組む必要があるが、多くの化学合成農薬に対して感受性が低下している現状では、天敵利用を中心としたIPMの開発・普及が必要となる。従来の化学合成農薬を中心とした防除法と比べて効果は同等以上、労力を含めた経費は同等以下にする必要がある。

●目的
 そこで、平成27年度の実証は、高知県独自の特色ある防除技術として、土着天敵タバコカスミカメの利用を中心としたIPM技術を確立し、ハウス内のミナミキイロアザミウマの増加を抑制することで黄化えそ病の被害を軽減させる。また、省力化やコスト低減による農業経営の大規模化にも対応できる技術として普及させることを目的とした。

地域の概要

●高知市春野町
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(クリックで拡大します)

 高知市春野町は、県中部の海岸部に開け、年間平均気温は17℃で、日照時間は2,154時間と温暖多日照な地区で、施設園芸が盛んである。おもな栽培品目は、キュウリ(53ha)やメロン(13ha)などのウリ科作物、トマト(14ha)やナス(4ha)などのナス科作物、さらに、ショウガ(25ha)などで、関東、中部、関西を中心に全国へ出荷されている。

前年までの結果

●天敵の利用
・定植時に、スワルスキーカブリダニ50,000頭/10aと土着天敵タバコカスミカメ約10,000頭/10aを放飼することで、ミナミキイロアザミウマを低密度に抑制し、対照と比べ、黄化えそ病の発生を抑えることが明らかとなった。
・タバコカスミカメの温存植物であるゴマ、クレオメをほ場内に植栽することで、餌の少ない時期でも、本種を維持することが可能である。
●IPM技術導入経費および収量
・IPM技術を導入することで、薬剤費と防除にかかる労働時間が削減できた。
・黄化えそ病の発生が抑えられ、さらに、栽培期間が延長され、増収となった。
●その他
・うどんこ病に対して、硫黄くん煙処理の防除効果が認められた。
・循環扇(ボルナドファン)の設置により、ハウス内の温度ムラが少ないことが認められた。

実証圃の概要

(1)実施場所  高知県高知市春野町
(2)調査期間  平成27年9月10日~平成28年6月10日
(3)実証区、慣行区の構成

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調査内容および方法

(1)天敵、害虫 :各区任意の40株について、各株の生長点および上位2葉に生息する害虫類および天敵類を目視で、おおむね1週間ごとに虫数を調査した。あわせて、実証区1、2の任意のクレオメ20株について、各株の花穂(約20cm)に生息するタバコカスミカメの虫数を調査した。
(2)黄化えそ病:聞き取り調査と罹病株も目視で調査し、発生株率を算出した。
(3)防除履歴 :栽培期間中の農薬散布日と農薬を聞き取り調査した。
(4)IPM技術導入経費
(5)地域でのIPM技術の実証試験による波及効果

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実証圃のクレオメ(※)(左)とタバコカスミカメ(右)
クレオメ :南アメリカ原産のフウチョウソウ科の一年草。草丈は約1m。茎頂の無限花序に紅紫色・白色・淡紅色などの四弁花を次々と開く

結果および考察

(1)天敵類および害虫類
●ミナミキイロアザミウマは、パイレーツ粒剤を処理した実証区1では、調査期中ほとんど確認されず、最大でも5月中旬の0.1頭と低かった。実証区2では、11月上旬から発生が確認され、12月下旬には0.1頭に達したが、1月以降は、ほとんど発生は見られなかった。4月中旬に密度の上昇が見られたが、0.1頭と低かった。慣行区では、実証区1、2と同様に4月上旬までは低密度で推移したが、4月中旬から密度が上昇し始め、5月下旬には3.5頭とピークに達した(図1)
※頭数は、それぞれ生長点+2葉当たりの数

●タバココナジラミは、実証区1では調査開始時の10月上旬に0.5頭となったが、11月以降は低密度で推移した。5月に入り、密度が上昇し始め、5月下旬には0.3頭に達した。実証区2では、11月中旬~下旬に0.1頭の密度で推移したが、12月以降は、ほとんど発生は見られなかった。3月下旬から再び密度が上昇し始め、5月上旬に最大で0.3頭とピークに達した。慣行区では、タバココナジラミの発生はほとんど確認できなかった(図1)
※頭数は、それぞれ生長点+2葉当たりの数

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図1 各区におけるミナミキイロアザミウマおよびタバココナジラミの密度推移

●スワルスキーカブリダニは、両実証区とも調査開始時から発生が見られた。実証区1では11月中旬に0.3頭/、実証区2では12月に0.1頭となったが、両区とも12月下旬以降は低密度で推移した。4月下旬以降、両実証区とも密度が上昇し始め、5月中旬に実証区1では0.1、実証区2では0.2頭に達した(図2)
●タバコカスミカメは、両実証区とも調査開始時の10月上旬から1月末まで0.03~0.3頭で推移し、2月上旬には、実証区1では0.4頭、実証区2では0.3頭とピークに達した(図2)
※頭数は、それぞれ生長点+2葉当たりの数

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図2 実証区におけるスワルスキーカブリダニとタバコカスミカメの密度推移

●クレオメ花穂上のタバコカスミカメは、調査開始時の10月上旬から発生が見られ始め、調査期間中は3.9~17.5頭/花穂の密度で推移した(図3)

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図3 クレオメにおけるタバコカスミカメの密度推移

(2)黄化えそ病
 黄化えそ病の1月末時点の発生株率は実証区1で0.2%、実証区2で3.6%、慣行区で1.5%であった。1月以降、各区で上昇し、5月下旬に実証区1で5.3%、実証区2で13.7%、慣行区で4.4%となった(図4)

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図4  黄化えそ病発生株率の推移

(3)化学合成農薬
 化学合成殺虫剤については、実証区1で4剤、実証区2で6剤、慣行区で44剤を使用した。化学合成殺菌剤は実証区1で19剤、実証区2で22剤、慣行区で51剤を使用した。総防除作業実施回数は実証区1で17回、実証区2で18回、慣行区で42回であった(表1)

表1 各区における薬剤散布回数の比較
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注:実証区1、2で使用するコンフューザーV、ボトキラー水和液は使用回数に加えていない

 農薬散布は殺虫剤と殺菌剤の混合で行っている場合が多く、実証区1、2では殺虫剤の使用が減少したため、殺菌剤の使用回数も減少した。なお、両実証区とも病害防除はボトキラー水和剤のダクト散布を中心に行った。

(4)IPM技術導入経費
 5月までの薬剤費用(天敵製剤と微生物製剤含む)は、慣行区の176,679円に対し、実証区1では155,361円、実証区2では154,556円で、実証区が少なかった(表2)

表2 各区における薬剤散布金額
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 実証区1、2は黄化えそ病の発生が3月以降、増加したものの、6月上旬まで収穫が可能であったが、慣行区はミナミキイロアザミウマの発生が多くなったため5月末で収穫がほぼ終了した。そのため、慣行区の収量は15.1t/10aとJA高知春野キュウリ部会平均収量と比較して、14%少なかった。一方、両実証区の平均収量は26.1t/10aと部会平均収量と比較して、49%多かった(図5、表3)

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図5 各区における収量の推移
注:実証区1、実証区2は同じ生産者で、各実証区の収量を把握できなかった

表3 各区における販売量と販売金額の推移
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 以上のことから、スワルスキーカブリダニとタバコカスミカメを組み合わせたIPM技術を導入することで、薬剤散布回数が減少(労働負担軽減)することと、ミナミキイロアザミウマの発生を抑制することで6月上旬まで栽培が可能となり、増収すると考えられた。

(5)地域でのIPM技術の実証試験による波及効果
 高知市春野町では、平成22年度からスワルスキーカブリダニを使用したIPM技術に取り組んだが、導入時期と放飼量の違いによっては効果が安定しなかった。そこで、平成23年度から試験的に土着天敵のタバコカスミカメを使用したところ、効果が安定したため普及に移した。平成25年度からは全国農業システム化研究会の実証調査に取り組み、さらに実証調査を行うことで、安定した技術となった。平成26年度には、キュウリ部会223名中53名が天敵を用いたIPM技術に取り組み、50名の農家が成功した。平成27年度は、82名の農家が取り組み、4月末で72名の農家が成功した(図6)。今後は、天敵だけでなく、ハウス内の湿度制御による病害のIPM技術に取り組もうという動きが出てきた。

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図6 JA高知春野キュウリ部会栽培者数と天敵導入農家数と成功農家数の推移(平成28年4月末)
注:「天敵導入成功農家」とは、最後まで天敵を利用し、黄化えそ病発生率が10%未満の農家とした

 以上のことから、スワルスキーカブリダニとタバコカスミカメを使用し、パイレーツ粒剤を組み合わせることで、ミナミキイロアザミウマと黄化えそ病の発生を抑制する効果があると考えられた。
 スワルスキーカブリダニは、厳寒期の放飼では、確認ができなかった。このため、スワルスキー放飼は定植時と摘心時(定植後20日)の2回行い、年末までに定着を確認することが望ましいと考えられた。一方、慣行区は、2月上旬までのミナミキイロアザミウマの発生は少なく推移したが、4月以降、ミナミキイロアザミウマの侵入により、栽培が5月末で終了した。

今後の課題

・キュウリで土着天敵の利用と病害対策を含めたIPM技術確立と普及
・タバコカスミカメのキュウリに与える被害の解明と対策

提案するIPM防除体系

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(高知県中央西農業振興センター高知農業改良普及所、高知県環境農業推進課)