徳島県
吉原 均
吉原 均
徳島県美波農業支援センターの吉原均です。野菜・作物担当で「きゅうり」、「いちご」、「水稲」、「藍」を担当しています。
2009.04. 9
今回は「れんこん」の話題です。ちょっと数字は古いですが、平成18年産の徳島県栽培面積は559haで、茨城県の1,590haに次いで全国第2位。出荷量においても、この2県で全国の約6割を占めています。
みなさんはこの2大産地のれんこんの違い、ご存じでしょうか。
それは形。関東では団子がつながったような形が好まれるのに対し、関西では細長い形が好まれるため、作っている品種が全く違うのです。
徳島でメジャーな品種は「備中」。収量が多く、れんこんの形状も美しい品種です。しかし晩生種であるため、れんこんが太る頃に台風の被害を受けやすく、また、腐敗病という病気にあまり強くないという欠点もあります。
そこで徳島県では、備中に代わる新品種の育成に取り組んでいます。私は研究部門にいた頃、れんこんの育種にも携わっていたので、今でも時折検討会などに出席しています。今回は生産者の方やJA等が参加する選抜作業に加わりました。
左 :選抜作業前の打ち合わせ / 右 :交配した種子から育てて1年目のれんこんがズラリ。こちらは後日選抜するそうです
左 :今回は2年目のれんこんについての選抜です/ 右 :今回一番評価が高かったれんこん。今後さらに規模を広げて選抜が行われます
選抜とは、交配して出来たものの中から、優良なものを選び出すことを言います。
経験がモノを言う作業ですが、研究所には、れんこんの善し悪しが分かるだけの経験を持った研究者がいないため、生産者の方達にご協力いただいています。とはいえ、畑で育ったものと小さな容器で育ったものでは、だいぶ様子が異なります。みなさん苦戦されていました。
が、その甲斐あって、無事に次の段階に進むれんこんを選抜することができました。
このように、れんこんの新品種育成には現場と普及、研究機関が一体となって取り組んでます。いつの日か必ず、新しい品種がみなさんの食卓に上ることでしょう。ご期待下さい!
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2009.03. 9
今回は「らっきょう」の話題です。
徳島県の東部に位置する大毛島で生産されている「らっきょう」は、「鳴門らっきょ」として地域団体商標も取得している特産品です。しかし、ネダニの被害が多発し、収量・品質の低下を招くという問題が発生していました。
そこで当センターでは、対策として様々な取り組みを行っています。
左 :被害を受けた圃場 / 右 :加害中のネダニ。まるで動く白いイクラ・・・。大きさは約0.7mm
様々な調査を行った結果、被害原因は、植え付け前の種球に寄生している“ネダニ”である事が分かりました。ネダニは薬剤防除が困難ですが、40℃程度の温度で死んでしまうという、か弱い一面も持っています。そこで現在、生産者のみなさんには、種球の天日乾燥によってネダニを駆除する方法を推進しています。
左 :天日乾燥の様子。ネダニには気の毒?ですが、薬剤を使わずに、ほぼ完全に駆除できます / 右 :天日乾燥して植え付けた圃場。被害は全くありません
この方法だと、薬剤を全く使わずにネダニの防除ができます。また、ネダニと関係が深い病害である「乾腐病」の発生も減らせる可能性があります。
しかし、この種球の天日乾燥、生産現場ではなかなか受け入れてもらえません。その原因の1つに、「種球を天日乾燥させると傷んでしまう。」という認識があるためです。
確かにネダニに深く寄生されたり、乾腐病に冒されたりした種球は乾燥させると傷みます。ネダニ被害が大きい生産者ほど傷む種球も増えるので、「どないしてくれるんじゃ!」と怒鳴られる事もしばしば・・・。そんな時は「乾燥後に傷む種球はもともと悪いものなので、選別する良い機会だと思ってください。」とお話ししています。
このように、対策技術は見出せても、生産者に普及させるには、思わぬ障害が発生することがあります。これも普及という仕事の醍醐味なのかも知れません(もちろん無い方が良いのですが・・・)。とにかくがんばります!
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2009.02. 3
今回は「いちご」の話題です。
近年、いちごの栽培現場では、炭疽病(たんそびょう)という病気が、深刻な被害をもたらしています。この病気に罹った株から苗を取っていると、後になってそのほとんどが枯れてしまうという厄介な病気です。
そのため徳島県では、苗を取るための親株(おやかぶ)の感染を診断する方法として、以下のような方法を行っています。
葉を1株から3枚以上取る。
→水道水で汚れを流す。
→水を含ませた新聞紙と葉をビニール袋に入れ、輪ゴムで封じる。
→28℃に保って約2週間培養後、炭疽病に罹っていれば葉に鮭肉色の点々が見えるので、その株は廃棄する。
左 :袋詰めできた状態。※インキュベーターで2週間おきます / 右 :カビカビになった葉に、顔を近づけて丁寧に調べます。写真は相方の山本さん
※インキュベーター :恒温器。温度を一定に保つための入れ物。
袋詰めまでは生産者が行い、普及指導員が培養、判定しています。一戸あたり数百の検体が持ち込まれ、年間検定数が9,000に達した年もあります。
検定中は換気していても部屋中にカビ臭が漂って、すばらしい仕事環境に・・・。
我がセンターでは、担当している私と相方の2人が立て続けに急性副鼻腔炎とちくのうになるという事態が起きましたが、前任者は何故か平気だったということなので、この仕事との因果関係は不明です!? 今ではマスクが検定時の標準装備となっています。
このように炭疽病との戦いは、色とりどりにカビた葉(精神的苦痛?)とカビ臭(肉体的苦痛?)との戦いなのです。がんばります!
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2009.01.13
初めまして。徳島県鳴門藍住農業支援センターの吉原と申します。どうかよろしくお願いいたします。
私の2009年最初の仕事は、「藍」から始まりました。
徳島県立農業研究所からメールで、「他県の図書館から、藍畑と藍玉(あいだま)の写真を送って欲しいと頼まれたのだが、持っていないか?」との問い合わせが。かつて藍の研究をしていて、研究所HPの藍に関する部分も作った関係で、今でも全国から色々な問い合わせがあるのです。
左 :女性グループの藍染め研究会で講演させていただいた事もあります。
右 :長葉の品種「小上粉(こじょうこ)」、草丈は60cm位。丸葉や縮葉の品種もあります。
藍と言えば徳島の歴史、日本の文化を語る上で欠かせない作物です。
かつて徳島では15,000ha(1903年頃)も栽培され、作られた染料は全国に出荷されていました。まさに「ジャパンブルーのふるさと」だったのですね。
残念ながら、今ではわずか20ha程が残るのみです・・・。しかし最近では天然染料の良さが見直されつつあり、また藍が含有する機能性成分の研究が進み、皮膚炎の治療薬等への利用で注目されるなど、新たな需要も起きつつあります。
話を戻しましょう。私はメールに答えるべく、写真を探すことにしました。
しかし一つ問題が。「藍畑」の写真はたくさんあるのですが、「藍玉」の写真が無い!藍玉とは、染料である「すくも」を搗き固めて作った塊の事ですが、現在は製造されていないシロモノ。これは困った・・・。このままでは県庁一の藍博士(自称です)のプライドが許さない、と。そこで藍住町歴史館「藍の館」に行き、副館長の阿部氏にお話ししたところ、快く応じていただき、「藍玉」の写真を撮影出来ました。その後阿部氏とひとしきり藍談義。改めて藍に関する現状と課題を確認する機会となりました。
左 :「藍の館」中庭。昔の「藍こなし」と呼ばれる作業を表した像。現在でも炎天下に行われる藍の収穫作業は過酷です。
右 :藍染め体験用の染色槽。液の色は青ではなく褐色。なぜ青く染まるのかは前述の農業研究所HPをご参照下さい。
左 :「すくも」 :藍の葉を堆肥状にしたもの。すくも造りは色素indigotinを 濃縮する為の作業です。
右 :これが「藍玉」。すくもに砂を混ぜて搗き固めた物。
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