徳島県
吉原 均
吉原 均
徳島県美波農業支援センターの吉原均です。野菜・作物担当で「きゅうり」、「いちご」、「水稲」、「藍」を担当しています。
2010.02. 4
昨年1回目のネタが「藍」で、最後のネタも「藍」だったので、今年一回目もやっぱり「藍」でいきます!←開き直り
さて、今回は当センターの管轄を飛び出して、海陽町(かいようちょう)へ出張してのお仕事です。海陽町は、某連続ドラマの舞台、美波町(みなみちょう)よりずっと南、徳島県の一番南の町です。そこで藍に関する講演をして欲しいという依頼を受けたのです。
そもそも藍は、歴史的に見ても、県北の吉野川流域が産業の中心で、それは現在でも変わっていません。海陽町には特に藍との関わりはなかったと思うのですが・・・。なぜ私が呼ばれたのでしょうか?
実は現在、地元の繊維関係メーカー、農業者などが連携して、藍を使った農商工連携の取り組みを模索しているからなのです。構想には、地元産の鶏糞堆肥を活用することも組み込まれていて、地域資源の利活用といったテーマにも沿った形となっています。実現すれば、新しい形の藍産業が展開されることになるでしょう。
当日は、地元商工会館で、15人程を相手に1時間半ほどしゃべり続けましたが、最後まで熱心に聞き入っていただき、たいへん話しがいがありました。いつも思うのですが、藍の話って、農業関係者よりも商工関係者の方が熱心なんですよね~。
右 :講演の様子。声が枯れました
さて、講演の後は、鶏糞堆肥の製造工場へ見学に行きました。
まず始めに、原材料(鶏糞です)が積み上げてある倉庫に案内されました。倉庫の大扉が開けられると、見学者が一斉に涙を流します。鶏糞の山に大感激! ・・・ではなくて、あまりのアンモニア臭で、涙が止まらないのです。押し寄せる気体の圧力を、生まれて初めて体感! 写真を撮る余裕すらありませんでした・・・。
その後は製造ラインにそって見せていただきましたが、完成品はそれほど臭いもなく、いい感じの堆肥になっていました。これで藍を栽培するとどうなるのか? この春から試作予定だそうです。
海陽町における藍に関する取り組みが実現できるように、今後も微力ながら、協力させていただきたいです。
左 :堆肥製造ラインを見学しました。防護服ばっちりでしたが、やっぱり臭いが服に染みました・・・
右 :鶏糞堆肥完成品。臭いはかなりマイルドになっています。しかし原料段階の臭いのすごさと言ったら、もう! ・・・あの時流した涙は忘れません!
2009.12.24
今年1回目のネタが「藍」だったので、最後もやっぱり「藍」で締めたいと思います!
私のブログは、これで13回のうち5回が藍ネタなのですが、お許しを・・・。
さて、先日藍師の新居 修氏宅で「すくも」の切り返し作業を見学しました。
「切り返し」とは、発酵中の葉藍に水と酸素を供給し、微生物の活動を助けるための作業です。この日切り返したのは10月末に発酵開始したもの。完成まで約120日程度はかかるので、まだ道なかばといったところです。
左 :力を合わせて切り返します。伝統文化に魅せられる若者がいるのはとても頼もしいことですね
右 :内部は70℃近い温度になっているそうです。独特の香りが素敵・・・ゴホッ!
積み上げた葉藍を崩すと、発酵熱で生じた水蒸気が立ちこめます。それと同時に、アンモニア臭まじりの独特の臭気が・・・。はっきり言ってクサイ! そばにいるだけで体に臭いがしみつきます。
崩した葉藍に新居氏が水を打ち、みんなでダマになった部分をほぐしながら、再び積み上げてゆきます。完成まで何度もこの作業が続けられ、葉藍はやがてジャパンブルーを生み出す「すくも」となるのです。
左 :発酵の状態に応じて水を打ちます。ここは藍師さんの独壇場。長い経験が物をいいます。いい写真が撮れました
右 :Szia! 彼女はハンガリーからの留学生です。祖国の天然藍染め(インド藍)は博物館でしか行われていないそうで、日本の藍染め文化は世界的に見ても素晴らしい! とのこと。うれしいです
左 :ダマになった部分をていねいにほぐし、きれいに積み上げます
右 :最後はムシロをかけて保温。神様へのお供えも忘れません。これぞ日本の心。良い物を作りたいという、職人の願いが込められているようです
この日は和歌山県から弟子入りしているという若者や、徳島在住の若き染織家、そしてハンガリーからはるばる徳島まで、藍染めを研究に来ている女性が作業に加わっていました。
伝統工芸の世界に惹かれる若者が増えているとはよく聞きますが、実際に目の当たりにするとすごくうれしく、頼もしく感じました。しかも国際的! さすがはジャパンブルー、と言ったところでしょうか。作業で汗を流す彼らのためにも、藍の生産安定に貢献できる仕事をせねばと、決意を新たにしました。
それでは皆様良いお年を。Viszontlátásra!
2009.12. 2
今回は、普及指導員も学会発表する事がある、というお話しです。まぁ、発表と言っても研究発表ではなく、「普及の現場から」と題した講演だったのですが。
去る11月26日に徳島県立農業研究所で行われた、日本作物学会四国支部・日本育種学会四国談話会共催公開シンポジウムで、約60人を前に「阿波藍の現状と課題~ジャパンブルーの復活を目指して~」と題した講演を行いました。
徳島と言えばやっぱり「藍」? という話かどうかよく知りませんが、県外の研究者に、藍の事を知ってもらうよい機会と思い、引き受けた次第です。
左 :発表のタイトル。こういうデザインを考えるのが大好きです
右 :発表中。スーツなんぞ久しぶりに着ました。シャツはもちろん藍染め。自分で育てた藍で「すくも」を作って染めました。質疑でもシャツについて尋ねられたりして、けっこうウケました。作戦成功!
左 :発表中。かなりの高視聴率だったと思います。何だかプレゼンが上手になったように感じました!
右 :Japan Blue Revolution と題した私の主張。水面下でゆっくりと進行中です・・・
講演では、阿波藍の現状や現在の取り組みを中心に、将来像についても私見を交えてお話ししました。発表後の質疑では、大学生から励ましの言葉や、他県の研究者や大学教授から「藍についての理解が深まった。」とうれしい言葉をいただきました。ちょっと緊張しましたが、大変有意義な一日となりました。
以下は講演の締めくくりでお話しした内容です。藍に対する私の想いが、みなさまに伝われば幸いです。
◆◆
『藍を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化し、藍と言えば「すくも・藍染め・徳島の特産物」という認識は過去のものになりつつあると感じています。現に、新用途利用分野では、他県の方がはるかに進んでいるのが実態です。
徳島の貴重な資源である阿波藍、それが本当に過去の遺物とならないよう、いま打てる手は打っておくべき、というのが私の考えです。
明治20年頃のインド藍輸入、明治36年のインディゴピュア輸入で衰退した阿波藍に、三度存亡の危機が訪れています。関係する人々が協力してこの危機を乗り越えることは、阿波藍のみならず「多くの日本文化を守ることに繋がる」と信じています。そのためには、新たな需要を創出し、同時に原料生産基盤を強化してゆくことが、絶対不可欠なのです。
さまざまな取り組みを通して、日本人にとって藍を再び身近なものとできるなら、そこから新たなジャパンブルーの歴史が始まるかも知れません。その時、阿波藍が中心的存在でいられる事を、切に願います』
2009.11.10
今回は、徳島ならではの授業風景をご紹介したいと思います。
先日、藍師※の一人、新居修氏を訪ねたところ、「今日は、県内の小学5年生が130人ほど見学に来る。」とのこと。これは良いブログネタが出来た! と思い、見学させてもらうことにしました。
新居氏の所には、毎年何校かが見学に訪れるそうです。今回の小学校は自分たちで藍を育て、「すくも」を作って藍染めまでしているという本格派。すばらしい、いい経験してるなぁ。
※藍師(あいし) :乾燥葉藍から「すくも」と呼ばれる染料を作る技術者
しばらくすると、大型バス3台が到着。元気よく子供達が飛び出して…と思ったら、何だかスゴイことになっている! そうです、例のインフルエンザ対策で、全員マスク装備。本当にびっくりしました。今、学校では大変なことになっているんですね・・・。
大勢のマスクボーイズ&ガールズは、新居氏による「すくも」作りの説明を熱心に聞いた後、さまざまな疑問をぶつけていました。
藍を発酵させるときには、70℃近くまで温度が上がる、という話が出ると「おぉ~」と驚きの声。「すくも作りのコツは?」と尋ねられると、笑いながら「辛抱!」と新居氏。伝統産業の厳しさをやさしく教えていました。
また、「どんな時がいちばんうれしいですか?」と聞かれたときには、「使った人から、いい色が出たよ、と言ってもらえた時」と答え、仕事の喜びを伝えることも忘れません。
左 :新居氏が積み上げた葉藍に水を打ちます。水加減が大切です
右 :切り返します。発酵熱で水蒸気が立ちこめます。奥は息子さん、手前はお弟子さん(写ってませんが・・・)
左 :作業場ですくも作りの説明。写真や実際の機械を使い、手慣れた様子の新居氏
右 :藍染めの火消し装束を試着。すごくうれしそう
その後、子供たちは「寝床」と呼ばれる葉藍の発酵施設を見学。発酵中の葉藍の山に手を入れて、その温度とにおいを体感していました。
「すくも作りをずっと伝えてゆきたい。そのために、後継者を育てることに力を入れている。出来るだけ多くの人に、技を伝えたい。」と話す新居氏。子供たちにも、伝統を伝えることの難しさ、大切さが伝わったようでした。
私にとっても、阿波藍という伝統の継承に少しでも役立ちたい、そう再認識させられる日になりました。
左 :自分で染めたハンカチを新居氏に見てもらいました。新居氏:「おぉ~、上手に出来とるなぁ!」
右 :発酵中の葉藍に手を入れて温度を体感。中心部分は70℃近く。この後みんな「あっちっち~」と手を引っ込めます(笑)
2009.10.16
今回はイベントのレポートです。
10月9日に「男女(とも)に築く豊かなくらしフォーラム」が開催されました。
男女と書いて「とも」と読ませる、なかなか凝ったネーミングでしょう?地域の農漁業者など200名近い参加のもと、事例発表や講演会、特産品・加工品等の展示が行われました。
当センターは、何日も前から職員総出で企画・サポート。私も展示パネルのデザイン・作成を担当して10枚ほどのパネルを作り、写真撮影や会場設営もお手伝いしました。
私はポスターデザインとか、わりと好きなんですが、10枚も作るとさすがにネタ切れで、才能の限界を感じ、プロのデザイナーさんってすごいなぁ、などと妙な感慨に浸ってしまいました。
左 :とくしま安2農産物認証制度展示例その1 いちごはまだありませんので、可愛いぬいぐるみが代役です。詳しくはこちらの農園のHPへどうぞ。
中 :展示例その2 「なし」
右 :展示例その3 「れんこん」
後ろに見えるパネルはすべて私作です。がんばりました!
さて事例発表では、JA里浦青年部部長の原田さんがカンショのブランド「里むすめ」における取り組みを紹介、また、鳴門市の東大幸(ひがしだいこう)エコファーマーズ女性部長の齋藤さんが、女性部で行った全国でのれんこんPR活動などを紹介しました。そして、認定農業者を代表して、板野町の(有)犬伏商店の犬伏さんが、漬物原料の生産・一次加工における取り組み等を紹介しました。
基調講演では、(株)都築経営研究所の都築冨士男先生から「食糧・農漁業・流通事情とこれからの企業経営」と題して、最新の流通情勢を全国での成功事例や、ローソンジャパン社長時代の体験談等を交えて、分かりやすくお話しいただきました。
展示コーナーでは、県独自の認証制度である「とくしま安2(あんあん)農産物認証制度」取得者のパネルや加工品の展示・試食が行われ、大変賑やかなイベントになりました。
たまにはこんなイベントの仕事も楽しいものです。
左 :大勢の人が熱心に聞き入っていました。
中 都築先生による基調講演
右 :大賑わいだった試食コーナー
(文中の画像をクリックすると大きく表示されます)