大分県
塩崎洋一
塩崎洋一
昭和63年に大分県で普及員として奉職。 令和4年3月に早期退職して農業に踏み込み始めたが、普及現場の要請により中部振興局を舞台に、普及活動の第二幕が上がった。そして第二幕を終えて、自社で色々やっていたところ、北部振興局の要請によって、普及活動の第三幕を上げることとなった。臼杵市在住。
2024.10.30
月刊誌『技術と普及』2013年10月号に執筆した『大分県和牛肥育産地再編に向けた普及活動』から10年。取り組みとしては、それ以上の年月が経ちました。
※過去の取組例
▼飼養管理技術の見える化に向けて(その1)
当時、広域普及指導員として、県の肥育課題解決に向けた取り組みの紹介をしていましたが、肥育の濃厚飼料の開発は、その中のひとつになります。
以来さまざまなことがありましたが、その餌の体系を用いて県共進会で優勝した農家さん、九州管内枝肉共励会で入賞した農家さん、和牛全共に出品した農家さんなどを見ると、餌の善し悪しについては、議論の余地がない結果が出たと自負しています。
先般、県の枝肉共励会が開催されましたが、その餌を使っている農家さんが(残念ながら現任地管内ではないのですが)、文句なしの成績を出してくれました。
肥育経営において、売上は基本的に枝肉重量×単価が元ですが、商品性は、その枝肉でどれだけ赤身部分があるか、また、同じ重量であった場合、経営効率として増体が良く早く出荷できるかなど、さまざまな要因が絡んできます。餌をどのように使えば総合的に経営が向上するか、ということが自分の中での課題でした。
これらをライフワークのよう思いながらこれまでやって来たたところですが、今回の共励会の成績により、思いが叶ったと確信している次第です。
2024.10.22
今年度の畜産業績発表会に向けて、担当Sくんのリハーサルです。
Sくんは採用2年目。実家は南部振興局管内とのことで、県南同士の親近感もあります。
とはいえ、まだ2年目。一生懸命ですが、慣れないことも多く、周囲の先輩からは、「これはこうしたらどうか」「このスライドはもっとこの方がよい」などなど、バリエーションに富んだ突っ込みが入りました。
奥でパソコンを操作するSくん、左が畜産部門主任のNさん、K部長、右手が畜産班のH総括。四方八方から優しい檄が飛び交っています
アドバイスをしっかりと受け止めて、本番当日はビシッと決めて欲しいところです。
ちなみに、内容はと言うと、管内は大分県随一の平野部で、地の利を生かした自給飼料生産のコントラクター活動が盛ん。そこに関わった普及活動の発表です。
2024.10.17
第二幕を終えた後、「うちに来てくれ」と請われた農業法人に半年ほど勤めました。そこを退職した昨年秋、とある牛飼いさんの要望で、堆肥舎作りをお手伝いしていたところ、作業中の屋根の上で携帯が鳴りました。
「塩崎さん、臼杵からでは遠いけど、育休代替でうちに来てくれませんか」とのこと。「高速代が出るなら」と受けた次第。そうして、7月から普及現場にて、第三幕(北部振興局)をやっています。
すると、第二幕よりも現場にかり出される日々の状況から、「こりゃあブログにした方がよいかなあ」と思いながら、もう10月。勤務終了は年末だから、今のうちならいくらかできると、事務局へお話しした次第です。
偶然とはいえ、堆肥舎作りをやっていたのは当管内(宇佐市)。
しかも、現職時代に新採用で配属されたのも当管内(昭和63年4月、中津農業改良普及所)だったので、少なからぬ因縁を感じながら、勤めております。
以前、南部振興局勤務時代にも紹介しましたが、この管内も海岸があります。ところがこちらは、豊後水道にはない風景、周防灘の遠浅です。やっぱり海の風景は、色といい香りといい、ゆずれません。
2023.03.24
以前、広域普及員時代に、南部振興局管内の肥育農家さんの牛舎を改造したことがありました。その時に手伝ってくれたのが、今の事務所で一緒のO普及員です。
彼女が普及活動の事例報告をする際に、その牛舎改善事例を取り上げました(広域の後に南部振興局へ異動となり、その時の環境改善は紹介しましたが、その前段でのことです)。
ところが、その発表を聞いていた当時のエラい方(普及職員ではない方)が申されたのです。「これが普及活動か」と。
行政では、農業の粗生産額拡大を目標に掲げます。一方、農家さんは、市場での単価相場の波に負けずに頑張っています。生活や人生がかかっていますから。その現場と行政の狭間に立たされた普及員・普及事業、という構図の中から一言言わせていただけば、次のようになります。
以下は、そのエラい方に直接メールした趣旨です。
「この農家さんは認定農業者で、管内で唯一の肥育農家である。自分の父親の知り合いでもあったので懇意にしてもらっていたが、段々と年も重ね、後継者もいない。そうした事情から、経営継続の意欲が薄れてきていた。そこで、こちらがそうしたお手伝いをすることで、少しでも作業が楽になり、経営が継続されるならばどうであろうか。経営を止めれば、少なく見積もっても数千万円の粗生産額が減少することになる」
というような内容だったと思います。
実際、この農家さんはその後、改善した牛舎(牛房)で仕上げた肥育牛で、県の枝肉共進会で2位を取り、また、和牛全共でも県代表に選出されました。
もしもあの時、ご本人が弱気になっていた時に普及として「現実に」何もしなかったら、どうだったでしょうか。「現実に」というのは、言葉の励ましではなく、実際に何かの行動でお手伝いする、ということです。
翻って今、管内の農家さんの若い夫婦が4人の子育てに奮闘しながら、親父さんから引き継いだ牛舎で、人生の荒波を突き進んでいるわけです。
若手であるが故に集落での役務に翻弄され、田舎であるが故に子供の送迎に時間をとられながら、50頭の牛で生活をしています。そこに、以前担当していたK普及員が、また舞い戻ってきました。
建築資材も飼料も倍に跳ね上がった経済情勢のまっただ中、これまた親父さんが現在地とは別に買っていた土地に移転して、もっと気持ちよく肉用牛経営を展開したいという場面に、私は出くわしたのです。
色々な普及活動がありますが、K普及員の「塩崎さん、あの農家を何とかしてやりたい」との思いから、経営移転するまであと1年はかかる、その間に少しでも多く改善できるところを改善して、経営体力を付けさせたい、そして、資金繰りを有利にしたい、とのねらいがあっての普及活動でした。
「私がたまたまできることだから」「他には誰もできないから」と言われればそれまでですが、経営者の「運」といいますか、その時に誰と巡り合わせるか、これは普及であっても、市町村担当者であっても、県の行政担当であっても、まさに、巡り合わせです。時が過ぎて初めてわかるのが「あの時、あの人がいなかったら、こうはなっていなかった」という事実です。
そう考えれば、この農場での牛舎環境改善活動は、私が自身の普及活動の第1幕を令和3年度で閉じていなければ、なかった活動となります。
もっと遡れば、私が普及員になっていなかったら、こんな場面はなかった。もっと遡れば、私が肥育農家に生まれて、経営再建を目の当たりにしてなければ、こんな普及員になっていなかった、もっと遡れば・・・・、ということなのです。
そして、自分がいま行った結果で将来、この農家さんがすばらしい経営を確立していたら・・・・。そう考えれば、巡り合わせ、経営者の「運」としか言えませんが、経営者の運を左右する、良い方に左右していく「縁」となる普及員でありたいものです。
長くなりましたが、最後に、秘密にしていた古いスレート屋根の掃除の方法です。
スレート上の、並んだ釘のきわに長い垂木を置いて、そこに脚立を乗せます。スレートに対する設置面積を広げれば、体重が分散して、割れないのです。そして2本の脚立を交互に移動させながら、効率よく作業します。スレートの上を歩く際、釘の上を踏むのは常識です
今さらながらですが、普及活動の重点対象農家さんの信頼を得るため、その信頼を強くするためにこそ、のやり方ですが、要は、「自分のもっているスキル、人生観、何もかもを総動員してやる」ということです。OODAループ思考での「世界観」かと思います
2023.03.15
牛舎での滞在時間が長くなると色々気づくわけですが、これまた気がついたのが、牛さんが水を飲む風景です。
これまで色々と工夫したそうですが、どうにも牛さんが壊してしまう給水設備とのこと。
今は、ホースで水槽に水をためながら、牛さんが水を飲むのを気にしつつ水を止める、という拘束された作業になっているようです。
親父さんの時代からの水飲み場も、機能不全を起こして人力給水では、この頭数規模、作業性が悪いことこの上ないのは明白です
長年農業をしている方はそうでもないのですが、他に就職してからUターンした後継者や非農家出身者の場合、牛さんの気持ちで設備を作れず壊されてしまう、というところが少なくありません。
「牛さんの気持ちで」というのは主に、
①とにかく頑丈に
②釘や木材の尖ったものを出さない
③棒状の出っ張りなどに鼻ぐりや耳標などが引っかからないようにする
④牛さんの口や目の高さや首の幅を考慮する
などに注意して設備を作る、ということです。
これは、人間の側は作業性向上、牛さんの側からはストレス軽減などによる生産性の向上に繋がるのです。
つまり、いつでも好き放題に水が飲めるか否かは、牛さんにすれば超重大なことなのです。
この農場の水は市水を使うため、水道代を考慮して、改善してみました。
牛舎に転がっていた桶を加工しています。K普及員はまさに「昭和の普及員」かもしれません。こうした作業での手際の良さは、脱帽です
桶の底をホースで繋げば、サイフォン式で一方の桶にも水が溜まります。水面の高さは同じなので、牛さんが飲めば、両方の水面が下がって、水が出てくる仕組みです。この方式の利点は、柵の内側の桶だけを掃除しやすいこと。
2つの桶が離れて高さが違っても水面は同じ高さなので、メインの水槽を工夫すれば、おおよそどんな場所でも作れます。水道がない場所でも、大きなポリタンクをメイン水槽の横に少し高めに設置すればOK。